[スポンサーリンク]

chemglossary

真空ポンプ

[スポンサーリンク]

合成実験で、溶媒を留去する際などになくてはならない器具が真空ポンプである。真空ポンプにはたくさんの種類があり、ここではどの研究室にもあるあたり前なポンプから、あると便利なものまで紹介する。

真空ポンプの基礎知識

真空ポンプとは、容器内から期待を排出して低圧にする装置である。どれだけ多くの気体を排出できるかを示す排気速度とどれだけ低い圧力まで到達できるかを示す到達圧力がポンプの性能を見るうえで重要である。

top_image

佐藤真空の製品コードの読み方:排気速度と到達力がコードによって判別できる

ポンプによっては、圧力範囲が決まっていてほかのポンプと組み合わせて使うものもある(特に高真空を得ることができるポンプ)。

img03

ポンプの作動圧力範囲(紹介していないポンプも含まれる)

油回転真空ポンプ

実験室では、オイルポンプなどと呼ばれている。内部のローターが回転して動くためロータリーポンプとも呼ばれている。合成の実験ではとても一般的なポンプで、多くの合成で使う溶媒を室温で気化できるほどの圧力に到達できるので、生成物の最終乾燥や器具、固体の真空乾燥に使われる。価格は、15万円から30万円ほどのが一般的である。同じシリーズで見ると高価なものほど排気速度が大きくなり到達圧力はさほど変わらない

ポンプオイルを使用しているため、オイルのケアを怠るとすぐ壊れる(真空ポンプはなぜ壊れる?)。圧力が高い状態(=気体がたくさんある状態)で長時間回すとオイルが排気側からミストとして排気されてしまう。ミストは体に有害であるしオイルがすぐになくなってしまう。ベルト駆動式のポンプは、ベルトも定期的なチェックが必要。

index_p13_tsw100_150

佐藤真空のオイルポンプ

 

photo_oilmist_01

オイルミストトラップ

ダイアフラムポンプ

減圧濾過やロータリーエバポレーターのポンプとして使われるダイアフラムポンプは、弁の上下運動と逆止弁の組み合わせにより気体を排出するポンプのことである。安価なものは1万円から10万円ほどで購入することができる。大気圧で長時間使用しても問題ないので調整弁をつけて圧力を手軽に調整できる。しかし、到達圧力はオイルポンプより高いので、溶媒を完全に留去することは難しい。溶媒を含んだ蒸気をたくさん通すと、内部のパーツが壊れやすくなるので、ポンプの前にコールドトラップを入れるなどして溶媒の通過を防いだほうが良い。使用後は、新鮮な空気でから回しすると長持ちするらしい。

f0634_03

調整つまみ付きダイアフラムポンプ

メカニカルブースターポンプ

オイルポンプ使用時に排気速度を大幅に向上させるポンプである。繭型の一対のローターを回転させることで気体の排出を促進させる。デッドボリュームが大きいガラス器具を真空気にする場合には早く低圧に到達できる。単体では使用できないのでオイルポンプなどと同時に使用する。単体で30万円から40万円ほどする。

ymv

オイルポンプとメカニカルブースターポンプとの組み合わせ:上部のがメカニカルブースターポンプである。

油拡散ポンプ

油拡散ポンプは、下部のヒーターで熱せられたジェット状の拡散オイル蒸気は、超音速に到達して分子を捕獲し10-5から10-9 Torrほどの高真空を作り出す。大気圧下で作動させるとオイルが逆流するためオイルポンプを補助ポンプとして使う。pump_large

ターボ分子ポンプ

ターボ分子ポンプは、羽が1秒間で数万回という速度で回転し気体を排出する。到達圧力は10-10Torrほどである。精密に設計された羽が高速で回転するため振動に弱い。補助ポンプが必要で、急に圧力が上昇すると羽が壊れる。価格は80万円ほどからで高価なポンプである。油拡散ポンプと共に高沸点の化合物を気化させるのに便利である。

img_567cfdd1ee094_stp-3011

ターボ分子ポンプ

真空下での自由落下実験を行ったNASAのSpace Power Facilityには、五台のターボ分子ポンプ(排気速度2200 L/s 通常のは多くて数百L/s)と1648台の油拡散ポンプ(排気速度700,000 L/s 通常のは多くて数千L/s)などが使われていて、6時間で大気圧から10-3torrまで到達する。

高真空(=低圧力)を得ることができるポンプは、触れることはなくても分析機器に組み込まれていることがあり、例えばターボ分子ポンプは、GC-MSのMS部で使われている。

 

関連リンク

  • 真空ポンプ.com: 様々なポンプについて解説しているサイトポンプ大手のアルバックが運営
  • 真空ポンプ:Wiki 一覧では、ここで紹介したポンプ以外にも載せられている

関連書籍

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. スナップタグ SNAP-tag
  2. 活性ベースタンパク質プロファイリング Activity-Base…
  3. O-脱メチル化・脱アルキル化剤 基礎編
  4. クオラムセンシング Quorum Sensing
  5. HKUST-1: ベンゼンが囲むケージ状構造体
  6. 化学者だって数学するっつーの! :定常状態と変数分離
  7. 陽電子放射断層撮影 Positron Emmision Tomo…
  8. 秘密保持契約(NDA)

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 日本学士院賞・受賞化学者一覧
  2. 2009年ノーベル化学賞は誰の手に?
  3. 第52回「薬として働く人工核酸を有機化学的に創製する」和田 猛教授
  4. 第3の生命鎖、糖鎖の意味を解明する!【ケムステ×Hey!Labo 糖化学ノックインインタビュー③】
  5. 下村 脩 Osamu Shimomura
  6. マグネシウム Magnesium-にがりの成分から軽量化合物材料まで
  7. アニリン版クメン法
  8. タミフルの効果
  9. 化学メーカー発の半導体技術が受賞
  10. 化学の歴史

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年11月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

ニキビ治療薬の成分が発がん性物質に変化?検査会社が注意喚起

2024年3月7日、ブルームバーグ・ニュース及び Yahoo! ニュースに以下の…

ガラスのように透明で曲げられるエアロゲル ―高性能透明断熱材として期待―

第603回のスポットライトリサーチは、ティエムファクトリ株式会社の上岡 良太(うえおか りょうた)さ…

有機合成化学協会誌2024年3月号:遠隔位電子チューニング・含窒素芳香族化合物・ジベンゾクリセン・ロタキサン・近赤外光材料

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年3月号がオンライン公開されています。…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part3

日本化学会年会の付設展示会に出展する企業とのコラボです。第一弾・第二弾につづいて…

ペロブスカイト太陽電池の学理と技術: カーボンニュートラルを担う国産グリーンテクノロジー (CSJカレントレビュー: 48)

(さらに…)…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part2

前回の第一弾に続いて第二弾。日本化学会年会の付設展示会に出展する企業との…

CIPイノベーション共創プログラム「世界に躍進する創薬・バイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第104春季年会(2024)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「世界に躍進…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part1

今年も始まりました日本化学会春季年会。対面で復活して2年めですね。今年は…

マテリアルズ・インフォマティクスの推進成功事例 -なぜあの企業は最短でMI推進を成功させたのか?-

開催日:2024/03/21 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

分子のねじれの強さを調節して分子運動を制御する

第602回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科 塩谷研究室の中島 朋紀(なかじま …

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP