こんにちは、Spectol21です!
分子分光学研究室出身の筆者としては今回の本を見逃すわけにはいかがず、早速読ませていただきました!
概要
本書では分子分光学の幅広い領域を,その原理的な内容を物理化学・量子論の立場から解説している。本書は初歩から専門への糸口までの手引書となるよう意図しており,いわば初歩的な解説書と高度な専門書の間のギャップを埋めるためのものである。分子分光学に関する世界的名著は数多く出版されているが,高度な量子論による取り扱いがなされていたり,内容も豊富であるために初学者にはハードルが高い。本書は学部2~3年生以上の初等量子化学をすでに学習済みの学生が分光学を学習する入門書として,また,この分野に関心をもつ読者が概観を得るための参考書として役立つであろう。
(引用元:コロナ社HP)
対象者
・分子の分光について、広く俯瞰した視点を確認したい方
・量子化学と分光学の間の理解をすすめたい方
・授業の構成を考えている授業をする立場の方
目次
目次
1.序論 -分光学からわかること-
1.1 スペクトルとは
1.2 孤立分子のエネルギー
1.3 分子運動の自由度
1.4 分子がもつエネルギーの構造
演習問題2.量子論の基礎
2.1 シュレディンガー方程式
2.2 量子力学的演算子
2.3 波動関数の解釈と条件
2.4 箱の中の粒子モデル
2.5 量子状態の特徴
2.6 波動関数の直交性
演習問題3.原子・分子の量子論
3.1 水素類似原子の量子論
3.2 水素原子の発光スペクトル
3.3 原子軌道の特徴
3.4 波動関数の空間的広がり
3.5 多電子原子の電子配置
3.6 H_2^+分子の分子軌道
3.7 等核二原子分子の分子軌道
3.8 異核二原子分子の分子軌道
3.9 多原子分子の分子軌道
3.10ヒュッケル近似法
演習問題4.分子の振動運動と回転運動
4.1 二原子分子のポテンシャルエネルギー曲線
4.2 調和振動子の古典力学的取扱い
4.3 二原子分子のバネモデル
4.4 調和振動子の量子力学的取扱い
4.5 分子の回転運動
演習問題5.光と分子
5.1 電磁波の特徴
5.2 分子のもつエネルギー準位と電磁波の領域
5.3 吸収と放射の速度論
5.4 ランベルト-ベールの法則
5.5 振動子強度
演習問題6.回転分光学
6.1 純回転遷移
6.2 回転スペクトルの様相
6.3 遠心力の効果
6.4 多原子分子の回転
演習問題7.振動分光学
7.1 振動エネルギー準位
7.2 振動遷移の遷移選択律
7.3 同位体効果
7.4 振動の非調和性
7.5 振動-回転スペクトル
7.6 多原子分子の振動
7.7 多原子分子の赤外吸収
演習問題8.ラマン分光学
8.1 ラマン散乱
8.2 振動ラマン遷移の遷移選択律
8.3 回転ラマン散乱
8.4 振動-回転ラマン遷移
8.5 多原子分子のラマン分光
演習問題9.電子遷移
9.1 π電子系の電子遷移
9.2 電子遷移の振動構造
9.3 電子遷移の回転構造
9.4 励起分子の動的過程
演習問題10.分子の対称性と分光学
10.1 対称要素と対称操作
10.2 点群の分類
10.3 対称操作と表現行列
10.4 指標表
10.5 分子運動の対称性
10.6 遷移選択律
演習問題付録
引用文献
参考図書
演習問題の略解
索引
構成・内容
【各章について】
本書は全10章から構成されている。1章は序章であり,「スペクトル」の歴史と,分光学の観測対象に関して説明している。2~4章では分子分光学を学ぶ上で必要な,原子・分子や分子運動の量子論の基礎を解説している。5章では光の特徴および光と分子の相互作用に関して,6章ではマイクロ波分光法によって分子の構造が決定できることを説明している。7章では分子の振動スペクトルから得られる情報に関して,8章ではラマン分光法に関して解説している。9章では電子遷移に関連するスペクトルから得られる情報および励起分子のたどる失活過程に関して取り扱っている。10章では群論の基礎とその分光学への応用に関して解説している。理解の手助けになるよう,各章の章末には数問の演習問題を,その略解を巻末に掲載した。
(引用元:コロナ社HP)
感想
「分子からの手紙であるスペクトルをいかに読み解くか」分子分光学という学問はこのように比喩されることがあります。電荷の塊である分子の性質を知るためには、電磁場を当ててその応答から本質を引き出す、というスタンスが筋が良く、分光学は化学のどの分野でも大なり小なり使われています(極端な話、NMRも分光法の一種です)。問題はその手紙が時に難解で、読み解くためには量子化学をはじめとしたさまざまな知識が必要です。
量子化学はそれだけでも非常に大きな分野であり、特に勉強中の身であれば、その中でどこが分光学の理解の肝なのか見定めることは極めて難しいし、関連性を予想することも簡単ではないことは筆者も経験から強く感じています。本書は、書籍の特徴の部分で挙げられている通り、分子分光に関係が深い量子化学の要点をうまくピックアップし、点と点をつなげることを意図して書かれている本でした。読むのが大変になりすぎないように情報量もうまく制御されているため、分子分光学が特に量子化学に対してどのような位置づけにあるかを感じるのに適している本だと感じました。研究者にとっても、この本の知見自体が実際に研究などにすぐに役に立つかというと難しいかもしれませんが、思考を整理するにはうってつけの難易度に思えました。個人的には、重要な原子や分子の定数などが随所でまとまって記載されており、授業の準備などに役立ちそうでよかったです。
一通り初等の量子化学の学んで、知識の整理とその先を感じたい方には特に良い本だと思います。約200ページと、コンパクトさにも特に気を遣われている本だと思います。ぜひ手に取ってみてください。
最後に、著者の星野 翔麻 先生のメッセージを引用して、書評を閉じます。
【著者からのメッセージ】
分子分光学は測定対象や測定手法,また解析の取り扱いも含め,日々進化し続けている分野である。特に,実験手法に関しては,今日においても先駆的な方法が日々開発され,分子分光学はたゆまない進展を続けている。このような広範な分野を1冊の書籍にまとめあげることは困難であり,紙面の都合から取り扱いを断念せざるを得なかった重要な内容や,発展・応用的な内容は数多くある。巻末にはいくつかの詳しい参考図書をあげてあるが,本書をstep stoneとして,ぜひ高度な専門書にも挑戦してもらいたい。
冒頭の画像は、コロナ社HPから引用しました。