[スポンサーリンク]

化学書籍レビュー

ペロブスカイト太陽電池の学理と技術: カーボンニュートラルを担う国産グリーンテクノロジー (CSJカレントレビュー: 48)

[スポンサーリンク]

概要

温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させてゼロにする「カーボンニュートラル」を実現するため,再生可能エネルギーの導入拡大に向けた動きが活発化している.なかでも重要な太陽光発電で次世代のエネルギー候補として期待されているのが,ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造を持つ有機金属ハライドを使った「ペロブスカイト太陽電池」である.ペロブスカイト太陽電池は現在主流のシリコン系太陽電池とは異なり,材料を塗布や印刷で作ることができ,1日に製造できる量が多いので低コスト化が可能だという.また,折り曲げやゆがみに強い特徴を持つ.本書では,最新の研究開発動向を産学双方から紹介する.(引用:化学同人)

対象者

ペロブスカイト太陽電池の研究に携わっている学生・研究者。化学専攻だけでなく太陽電池に興味のある理系大学生・大学院生がペロブスカイト太陽電池の理解を深めることができる書籍です。

目次

第Ⅰ部 基礎概念と研究現場
1章 フロントランナーに聞く(座談会)
早瀬 修二(電気通信大学),宮坂 力(桐蔭横浜大学),村上 拓郎(産業技術総合研究所),森田 健晴(積水化学工業),若宮 淳志(京都大学)
聞き手:瀬川 浩司(東京大学)
2章 ペロブスカイト太陽電池 研究のこれまでの歴史 宮坂 力(桐蔭横浜大学医用工学部)
3章 有機金属ハライドペロブスカイト太陽電池の最新開発動向 瀬川 浩司・中崎 城太郎(東京大学大学院総合文化研究科)
4章 ペロブスカイトの材料の基礎
1:ハロゲン化ペロブスカイト太陽電池の動作機構と高効率化 早瀬 修二(電気通信大学i-パワードエネルギー・システム研究センター)
2:ペロブスカイト太陽電池の電荷吸収材料 中村 智也(京都大学化学研究所)
5章 ようこそ!研究室へ――京都大学・若宮淳志研究室

第Ⅱ部 研究最前線
1章 金属ハライドペロブスカイトの基礎 近藤 高志(東京大学先端科学技術研究センター)
2章 ペロブスカイト太陽電池の発電特性解析 大北 英生(京都大学大学院工学研究科)
3章 高効率化に向けたデバイスシミュレーション 根上 卓之・峯元 高志(立命館大学総合科学技術研究機構)
4章 高性能化に向けた材料開発 若宮 淳志(京都大学化学研究所)
5章 金属ハライドペロブスカイトの結晶成長 宮寺 哲彦(産業技術総合研究所ゼロエミッション国際共同研究センター)
6章 ペロブスカイト太陽電池の材料と界面 丸本 一弘(筑波大学数理物質系)
7章 ペロブスカイト太陽電池の高性能化に向けた界面処理技術 村上 拓郎(産業技術総合研究所ゼロエミッション国際共同研究センター)
8章 鉛フリーのペロブスカイト太陽電池の高性能化 白井 康裕・柳田 真利・D. B. Khadka(物質・材料研究機構 エネルギー・環境材料研究センター)
9章 イオン液体添加によるペロブスカイト太陽電池の長寿命化 Md. Shahiduzzaman・當摩 哲也(金沢大学ナノマテリアル研究所)
10章 ペロブスカイト太陽電池の性能評価技術 菱川 善博(立命館大学総合科学技術研究機構)
11章 AIを活用したペロブスカイト太陽電池の開発 佐伯 昭紀(大阪大学大学院工学研究科)
12章 実用化に向けたペロブスカイト太陽電池モジュール開発 山本 修平・堀内 保(エネコートテクノロジーズ)
13章 ペロブスカイト/結晶シリコン タンデム太陽電池技術 松井 卓矢(産業技術総合研究所再生可能エネルギー研究センター)
トピックス1 ペロブスカイト太陽電池の宇宙応用の展望 宮澤 優・廣瀬和之(宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙探査イノベーションハブ)
トピックス2 海外のペロブスカイト太陽電池の実用化動向 根上 卓之(立命館大学総合科学技術研究機構)
トピックス3 有機系太陽電池技術研究組合(RATO)におけるペロブスカイト太陽電池計測法の国際標準化活動 馬飼野 信一〔有機系太陽電池技術研究組合( RATO )〕
トピックス4 ペロブスカイト太陽電池が創る未来にむけて化学ができること    瀬川 浩司(東京大学大学院総合文化研究科)

内容

本書は、化学同人社より出版されている「CSJ カレントレビュー」シリーズです。本書は、タイトルの通りペロブスカイト太陽電池の基礎と最新研究について紹介しています。ペロブスカイトとはチタン酸カルシウム(灰チタン石, CaTiO3)の結晶構造を発見したロシアの研究者、Lev. Perovskiにちなんで命名された結晶構造のことで、そのペロブスカイト結晶を色素増感型太陽電池の色素部分にしているのがペロブスカイト太陽電池です。

まず、第Ⅰ部の第一章では、ペロブスカイト太陽電池のフロントランナーによる座談会の様子がまとめられています。登場するのは、電気通信大学の早瀬 修二特任教授,桐蔭横浜大学の宮坂 力特任教授、産業技術総合研究所の村上 拓郎研究チーム長,積水化学の森田 健晴グループ長,京都大学の若宮 淳志教授、東京大学の瀬川 浩司教授です。座談会では、ペロブスカイト太陽電池開発の歴史を日本人研究者の貢献を中心に話が始まり、どのように高効率化がなされたのかが実際の構造の内容を中心に議論されています。中盤では、日本での実用化を見据えた産業界での活動が紹介されています。そして終盤では、ペロブスカイト太陽電池研究の特徴、今後の期待などについて触れられています。自分の場合、ペロブスカイト太陽電池についてはかなり前に調べたことがありましたが、その当時の効率は一桁台であり、このパートを読んで効率が格段に向上したことを知りました。

第二章から四章は、ペロブスカイト太陽電池研究の歴史から最新の動向までをまとめて紹介されています。特に第2章と3章では効率を中心に研究が解説されており、どのような経緯で太陽電池の効率が上がっていったのか最新の研究成果ではどの程度の効率があるのかが分かる内容になっています。一方、第四章は構造に関する基礎的な内容で、電池構造全体についてと電荷吸収材料についての基礎的な内容が解説されています。第五章は、京都大学・若宮淳志研究室の研究室紹介であり、若宮先生が質問に答える形で研究室の紹介がなされています。HPには無いたくさんの写真と共に学生の研究の進め方が紹介されており、若宮研の研究現場がよく分かる内容となっています。研究室で使用されている機器や手法は、ペロブスカイト太陽電池を研究している他の研究室でも共通のところがたくさんあると思いますので、学生さんにも研究テーマ選びにおいて参考になるかと思います。

次に第Ⅱ部 研究最前線を紹介します。第1章から第3章の内容は、どちらからというと研究の基礎を取り扱っています。ペロブスカイト太陽電池の化学からの寄与は、材料開発の面が大きいですが、第2章、第3章では効率をはじめとした電子デバイスとしての評価について取り扱っており太陽電池の評価・研究の全体を把握するのに最適なパートです。第4章から9章では、材料の開発について取り上げられています。目次を見るだけでわかるように、それぞれの章で材料の種類・ターゲットが明確に分かれており、専門外の人が読んでも研究背景や目的が頭に入りやすいと感じました。第9章以降は、それぞれが独立した内容であり、11章のAIによる材料探索以外は、モジュール開発・評価に関する内容となっています。例えば最終章のペロブスカイト/結晶シリコン タンデム太陽電池では、二つの種類の太陽電池を組み合わせる技術について解説しています。一つの種類の太陽電池より高い発電効率を見込めるのが特徴ですが、製造コストや量産プロセスなど課題が多く実用化には遠いのが現状のようです。

どんな材料開発でも同じですが新しい材料を合成して終わりではなく、その先の材料の使われ方や評価方法までも理解することが化学の専門家として重要であると思います。その上で、電池の構造や製膜方法、発電効率の評価について踏み込んでいる本書は、ペロブスカイト太陽電池の基礎・最新研究の全貌を知るのに最適な書籍だと感じました。

ペロブスカイト太陽電池に関するケムステ過去記事

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 有機化学1000本ノック【反応機構編】
  2. 研究室で役立つ有機実験のナビゲーター―実験ノートのとり方からクロ…
  3. セールスコピー大全: 見て、読んで、買ってもらえるコトバの作り方…
  4. Letters to a Young Chemist
  5. 有機分子触媒の化学 -モノづくりのパラダイムシフト
  6. Small Molecule Medicinal Chemist…
  7. ステファン・カスケル Stefan Kaskel
  8. えっ!そうなの?! 私たちを包み込む化学物質

注目情報

ピックアップ記事

  1. キレトロピー反応 Cheletropic Reaction
  2. リンドラー還元/Lindlar Reduction
  3. 今年は Carl Bosch 生誕 150周年です
  4. 化学に魅せられて
  5. C–NおよびC–O求電子剤間の還元的クロスカップリング
  6. 金ナノクラスター表面の自己組織化単分子膜を利用したテトラセンの高効率一重項分裂とエネルギー変換機能
  7. ナノスケールの虹が世界を変える
  8. 学会に行こう!高校生も研究発表できます
  9. 東京化成工業がケムステVシンポに協賛しました
  10. Keith Fagnou Organic Chemistry Symposium

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2024年3月
月 火 水 木 金 土 日
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

KISTEC教育講座 ~物質の付着はコントロールできる~中間水を活かした材料・表面・デバイス設計

開講期間令和8年12月1日(火)、2日(水)、3日(木)*12月1日、2日は1日単位の選…

2026年ノーベル化学賞ケムステ予想当選者発表!

2026年のノーベル化学賞は、「不斉有機合成における非線形効果および自己触媒作用の発…

第64回ケムステVシンポ「データとともに進化する未来の化学」を開催します!

第64回ケムステVシンポの会告を致します。産業技術総合研究所主催の化学シンポジウムシリーズ(…

品質工学とマテリアルズ・インフォマティクス ― 両技術の概要と連携事例

開催概要材料開発やものづくりの現場では、探索すべき組成やプロセス条件が増えるほど組み合わせが爆発…

大学院留学してよかったこと, 悪かったこと【英語, 経済面, オーバードクターに関するお話】

海外の大学で、その大学に籍を置く大学 (院) 生として留学することは「学位留学」と呼ばれたりします。…

光前駆体法の活用によって、ヘプタセンで初の一重項分裂を観測!

第725回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 理学研究科化学専攻 有機元素化学研究室(山田研…

【スタッフ・寄稿募集】Chem-Stationで、化学を「伝える側」になりませんか?

Chem-Station(ケムステ)は2000年に開設された国内最大の化学ポータルサイトです。大学・…

第17回大津会議―とある参加者の記録―

2026年9月28日~29日に開催された第17回大津会議についての、とある参加者の記録です。この記事…

第17回大津会議 -Otsu Conference- 2026 開催報告 ~新体制で紡ぐ「有機合成の夢」~

第17回大津会議が2026年9月28日(月)〜9月29日(火)びわ湖大津プリンスホテルにて開催されま…

有機合成化学協会誌2026年10月号:医薬品プロセス開発・σ芳香族性・含窒素複素環・メロテルペノイド二量体・高歪み化合物

有機合成化学協会が発行する「有機合成化学協会誌」2026年10月号がオンラインで公開されています。…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP