信田 尚毅(Naoki Shida, 1988年 12月20日- )は、日本の化学者・工学者である。横浜国立大学大学院工学研究院 機能の創生部門 准教授、および科学技術振興機構(JST)さきがけ研究者。株式会社ElectroFluxion 創業者。第60回ケムステVシンポ講師。
経歴
2011 横浜国立大学 工学部 物質工学科 卒業
2013 東京工業大学 大学院総合理工学研究科 修士課程修了
2013-2016 日本学術振興会(JSPS) 特別研究員(DC1)
2015 トロント大学(カナダ) 訪問研究員(Dwight S. Seferos教授)
2016 東京工業大学 大学院総合理工学研究科 博士後期課程修了、博士(工学)取得(稲木信介教授)
2016-2018 東京農工大学 / 日本学術振興会 特別研究員(PD)(千葉一裕教授)
2016-2018 カリフォルニア工科大学(米国) 博士研究員(Theodor Agapie教授)
2018-2020 東京工業大学 物質理工学院 特任助教
2020-2024 横浜国立大学 大学院工学研究院 助教(跡部真人教授)
2023-現在 科学技術振興機構(JST) さきがけ研究者(兼任)
2024-現在 横浜国立大学 大学院工学研究院 准教授
2024-現在 株式会社ElectroFluxion 創業者、取締役CTO
受賞歴
2020 第47回リバネス研究費 味の素ファインテクノ機能性材料賞
2021 令和3年度有機電子移動化学奨励賞
2022 電気化学会 論文賞
2022 電気化学会進歩賞(佐野賞)
2022 2022年度研究企画賞 DIC研究企画賞
2023 第12回(2023年度)研究開発奨励賞
2023 第73回 日本化学会進歩賞
2024 令和5年度 横浜国立大学優秀研究者表彰 奨励賞
2024 事業創出ピッチコンテスト 最優秀賞
2025 令和7年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞
研究業績
有機電解合成を基盤とした幅広い研究を展開している。
(1) 固体高分子電解質電解(SPE)技術に基づく有機電解合成
従来の有機電解合成は、電子を試薬として用いるクリーンな合成手法である一方で、社会実装の観点からいくつかの本質的課題を抱えていた。たとえば、反応が電極表面という二次元的な場で進行するため生産性に限界があること、有機溶媒の高い溶液抵抗に由来するエネルギー損失が大きいこと、さらに支持電解質の添加が不可欠であり、反応後の分離・回収・廃棄に大きな負担を伴うことなどである。
これらの課題を解決する手段として、燃料電池や水電解で発展してきた固体高分子電解質(SPE: solid-polymer electrolyte)技術を有機電解合成へ導入した[1]。SPE型リアクターでは、プロトン交換膜(PEM)やアニオン交換膜(AEM)そのものがイオン伝導を担うため、反応液に支持電解質を加える必要がない。これにより、従来不可避であった支持電解質の分離・回収工程を省略でき、プロセス全体の簡素化と低廃棄物化が可能となる。さらに、膜を挟み込むセル構造は電極間距離を極小化できるため、抵抗損失を抑えた高効率な電解が実現できる。加えて、触媒担持多孔質電極を用いることで、触媒・基質・イオン伝導体が交差する三相界面を微視的に構築し、反応表面積を飛躍的に拡大できる点も大きな特徴である。
このようなSPE型リアクターを活用し、これまでにさまざまな有用物質変換を温和な条件下で実現してきた。たとえば、医薬品骨格として重要なピリジン類やその他の含窒素芳香族化合物の電気触媒的水素化では、高圧水素ガスを用いることなく、水由来のプロトンと電子を利用したクリーンな還元反応を達成している[2]。また、ファインケミカル合成を志向した環状ケトンの高ジアステレオ選択的電解還元や[3]、AEMリアクターに金またニッケル・コバルト・鉄といった非貴金属触媒を組み込んだ一次アルコールの選択的電気触媒酸化など[4]、酸化・還元の双方において高い基質選択性とエネルギー効率を両立するプロセスを実証している。
(2) 有機電解合成の新たな可能性を示す反応開発
有機電解合成は、温和な条件で電子移動を駆動力として利用できることから、環境調和型プロセスとしてだけでなく、合成化学そのものに新しい方法論をもたらす学術的に魅力ある手法でもある。このような観点から、「電解であることに本質的意味のある反応」の創出を目指し、反応開発、触媒分子開発、電解液設計に取り組んでいる。
最近では、ピロール類の電解酸化で生じるラジカルカチオン中間体を活用した電気化学的一炭素挿入反応を開発し、従来法では困難であった位置選択的な骨格変換を実現した[5]。また、ハロゲン結合を電気化学的にスイッチング可能な電子移動メディエーターを設計し、アミンと芳香環の間の高効率な電気触媒的C–Nカップリング反応を達成している[6]。これらの研究は、有機電解合成が単なる既存反応の電化にとどまらず、新しい反応性や選択性を引き出しうることを示している。
さらに、電解反応特有の反応場である電解液の役割にも注目している[7]。たとえば、π拡張構造を有するπ共役系化合物の電気化学的酸化では、アニオンや溶媒の配位性が酸化挙動に大きく影響し、1電子酸化と2電子酸化の分岐が電解液設計によって制御できることを見出した[8,9]。また、フルオロアルコールとアルカリ金属フッ化物からなる電解液の物理化学的特性を結晶構造解析および電気化学測定から解明し、電解フッ素化への展開にも成功した[10]。
(3) 電気エネルギーを利用したバイオマスの変換
近年は、持続可能性の観点から、植物由来バイオマスの高付加価値化にも研究を広げている。たとえば、エッセンシャルオイル(精油)由来のフェニルプロパノイドをモノマーとして用い、電解または光触媒による電子移動を鍵過程とする環化付加重合を開発した。これにより、シリルエーテル、アリール基、シクロブタン骨格を含むユニークなバイオマス由来高分子の合成に成功するとともに、その化学的分解、リサイクル、さらにはアップサイクルも実現している[11]。
コメント&その他
我々は有機電解に関するあらゆる研究に取り組んでおり、電解が今後さらにアカデミアや産業界に普及することを願っています。
大学の研究室で、「電解には興味があるが、何から始めればよいかわからない」と感じられている研究者や学生の方、是非お気軽にご連絡ください。初歩からお手伝いさせていただきます。最近では、信田も監修に加わり、イーシーフロンティア社から有機電解合成装置が販売されるようになっています。電解合成が、有機化学における特殊な道具ではなく、当たり前の研究ツールとして拡がっていけば幸甚です。

また、2024年に有機電解合成の社会実装を加速するため、スタートアップElectroFluxionを創業しました。大学における基礎研究の成果を実装へと接続し、持続可能な化学プロセスの実現に貢献することを目指しています。こちらもご支援のほど、何卒よろしくお願いいたします。
関連動画
関連文献
- Atobe, M.; Shida, N. Opin. Electrochem. 2024, 44, 101440. DOI: 10.1016/j.coelec.2024.101440
- Shida, N.; Shimizu, Y.; Yonezawa, A.; Harada, J.; Furutani, Y.; Muto, Y.; Kurihara, R.; Kondo, J.; Sato, E.; Mitsudo, K.; Suga, S.; Iguchi, S.; Kamiya, K.; Atobe, M. Am. Chem. Soc. 2024, 146, 30212–30221. DOI: 10.1021/jacs.4c09107
- Shimizu, Y.; Harada, J.; Fukazawa, A.; Suzuki, T.; Kondo, J. N.; Shida, N.; Atobe, M. ACS Energy Lett.2023, 8, 1010–1017. DOI: 1021/acsenergylett.2c02573
- Furutani, Y.; Shimizu, Y.; Harada, J.; Muto, Y.; Yonezawa, A.; Iguchi, S.; Shida, N.; Atobe, M. ACS Catal.2024, 14, 8922–8929. DOI: 1021/acscatal.4c01097
- Morimoto, T.; Nishimoto, Y.; Suzuki-Osborne, T.; Chong, S.-G.; Okamoto, K.; Yoneda, T.; Kikuchi, A.; Yokogawa, D.; Atobe, M.; Shida, N. Am. Chem. Soc. 2025, 147, 25635–2564. DOI: 10.1021/jacs.5c06798
- Hirama, A.; Suda, K.; Yoshinaga, S.; Kikuchi, M.; Chong, S.-G.; Kikuchi, A.; Ishigaki, Y.; Yokogawa, D.; Atobe, M.; Shida, N.* Am. Chem. Soc. 2026, 148, 6249–6257. DOI: 10.1021/jacs.5c18175
- Shida, N.* Electrochemistry, 2022, 90, 101004. DOI: 5796/electrochemistry.22-00074
- Shida, N.; Nishiyama, H.; Zheng, F.; Ye, S.; Seferos, D. S.; Tomita, I.; Inagi, S.* Chem. 2019, 2, 124. DOI: 10.1038/s42004-019-0228-y
- Yoshinaga, S.; Atobe, M.;* Shida, N.* Electrochemistry, 2023, 91, 112002. DOI: 5796/electrochemistry.23-67013
- Shida, N.;* Takenaka, H.; Gotou, A.; Isogai, T.; Yamauchi, A.; Kishikawa, Y.; Nagata, Y.; Tomita, I.; Fuchigami, T.; Inagi, S.* Org. Chem. 2021, 86, 16128–16133 DOI: 10.1021/acs.joc.1c00692
- Nagaya, R.; Seko, T.; Okamoto, K.; Ueno, K.; Atobe, M.; Shida, N. Commun. 2025, 16, 10679. DOI: 10.1038/s41467-025-65707-x
関連書籍
“Modern Electrosynthetic Methods in Organic Chemistry“ (New Directions in Organic & Biological Chemistry)
- 編集: Frank Marken, Mahito Atobe
- 出版社: CRC Press (2018年)
- ISBN: 978-1482249163
“有機電解合成の新潮流“ (第10章, 第16章, 第25章, 第27章)
- 監修: 淵上寿雄、跡部真人、稲木信介
- 出版社: シーエムシー出版 (2018年)
- ISBN: 978-4-7813-1626-0
関連リンク
- Atobe-Shida Group(横浜国立大学 電気化学合成研究室)公式ウェブサイト
- 信田尚毅 個人プロフィールページ(研究室サイト内)
- 株式会社ElectroFluxion 公式ウェブサイト
- 横浜国立大学 研究者総覧(信田 尚毅)
- Researchmap(信田 尚毅)
- Google Scholar(Naoki Shida)
- 横浜国立大学 ケミカルGX研究拠点
- 横浜国立大学 蓄電×電解の協奏による電気化学国際研究拠点
- 学術変革領域研究(A) 炭素資源変換を革新するグリーン触媒科学(計画班)
- Top Researchers インタビュー記事:「次世代の電化による有機合成の実現を目指す」
- 第389回スポットライトリサーチ:「レドックス反応場の論理的設計に向けて:酸化電位ギャップ(ΔEox)で基質の反応性を見積もる」
- 第383回スポットライトリサーチ:「次世代型合金触媒の電解水素化メカニズムを解明!アルキンからアルケンへの選択的水素化法」
- 第478回スポットライトリサーチ:「水を還元剤とする電気化学的な環境調和型還元反応の開発」
- 第669回スポットライトリサーチ:「電気化学的一炭素挿入反応でピロールからピリジンを合成~電気化学的酸化により、従来と異なる位置への炭素挿入を可能に~」
- 第694回スポットライトリサーチ:「リサイクル・アップサイクルが可能な植物由来の可分解性高分子の開発」
- 第700回スポットライトリサーチ:「電気化学的にスイッチングする相互作用を備えた新たな電解触媒分子(メディエーター)の開発」






























