[スポンサーリンク]

世界の化学者データベース

下村 脩 Osamu Shimomura

[スポンサーリンク]

下村 脩(しもむら おさむ、1928年8月27日-2018年10月19日)は、アメリカ在住の生物学者・有機化学者である。米ボストン大学名誉教授、ウッズホール海洋生物学研究所名誉教授(写真:NU-Cheers)。

経歴

1928年 京都の福知山に生まれる。

1951 長崎医科大学付属薬学専門部 卒業
1958 長崎大学薬学部 助手
1960 名古屋大学理学部 博士号取得(平田義正教授)
1960 プリンストン大学 研究員 (Frank Johnson教授)
1963 名古屋大学 助教授
1965 プリンストン大学 上席研究員
1981 ボストン大学 教授
1982 ウッズホール海洋生物学研究所 上席研究員
2001 ウッズホール海洋生物学研究所 退職

受賞歴

2004 Pearse Prize
2005 Emile Chamot Award
2006 朝日賞
2008 ノーベル化学賞
2008 文化勲章・文化功労者

研究概要

緑色蛍光タンパク質およびイクオリンの単離

オワンクラゲ(Aequorea victoria)から、緑色に発光する蛍光タンパク(Green Fluorescent Protein; GFP)をイクオリンとともに世界で初めて単離した[1]。
GFPは発光に特別な基質・酵素を必要とせず、単量体で機能する。この性質ゆえGFPは生体物質に影響を与えにくく、バイオロジカルツールとしての応用に適切であった。GFPは生体内シグナル現象や、生体高分子の局在位置などを可視化する目的で用いられる。レポーター遺伝子を遺伝子工学的手法を用いて導入することで、望みの地点にGFPを発現させることができる。

GFP.jpg
(画像:Tsien Laboratory)

下村教授は一連の研究に基づき、GFP発色団の分子構造モデルや発光原理を提唱し、化学の基礎を築き上げた。この功績により、2008年のノーベル化学賞を受賞している。

ルシフェリン・ルシフェラーゼ系を介する生物発光機構の解明

酵素を媒介として化学変化を起こし発光する物質をルシフェリン(luciferin)し、その化学反応を触媒する酵素をルシフェラーゼ(luciferase)と総称する。GFPのように外部要因を要せず発光する生体物質はむしろ稀であり、生物発光ではこのような酵素化学反応系を介する場合が多い。

下村はタンパク質イクオリンなどに含まれるルシフェリンである、セレンテラジン(coelenterazine)などの発光メカニズム解明[2]を行っている。

coelenterazine_1.gif

名言集

 

コメント&その他

  1. 学部生時代は平田研でウミホタルルシフェリンの結晶化に取り組み、それを成功させました。卒業後も一貫して「光る」物質に関する研究を行っています。当時から流行の研究というわけではなく、時には厳しい資金の状況下で研究を続けていたそうです。
  2. 長崎原爆投下時に、疎開によって近くにおり、死者が次々と学校校舎内に運ばれてくる様子を見て大変に悲しい思いをされたそうです。
  3. 息子の下村努はコンピュータ科学者・物理学者である。世界を震撼させたクラッカー、ケビン・ミトニックを追い詰め、逮捕に協力した一件で世界的に名が知れ渡った。
  4. 1960年に渡米したものの、その後ずっとアメリカに帰化せず、日本国籍のままで米国に在住している。

 

関連動画

 

関連論文

  1. Shimomura, O.; Johnson, F. H.; Saiga, Y. J. Cell. Comp. Physiol. 1962, 59, 223.
  2. Shimomura, O.; Johnson, F. H.  Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1975, 72, 1546.

関連書籍

[amazonjs asin=”9812568018″ locale=”JP” title=”Bioluminescence: Chemical Principles And Methods”][amazonjs asin=”4621080946″ locale=”JP” title=”光る遺伝子 オワンクラゲと緑色蛍光タンパク質GFP”][amazonjs asin=”4535786283″ locale=”JP” title=”光るクラゲがノーベル賞をとった理由―蛍光タンパク質GFPの発見物語”][amazonjs asin=”4022599553″ locale=”JP” title=”クラゲの光に魅せられて ノーベル化学賞の原点 (朝日選書)”][amazonjs asin=”4797346744″ locale=”JP” title=”発光生物のふしぎ 光るしくみの解明から生命科学最前線まで (サイエンス・アイ新書)”][amazonjs asin=”4621077104″ locale=”JP” title=”バイオ・ケミルミネセンスハンドブック”]

外部リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. ウォルフガング-クローティル Wolfgang Kroutil
  2. 秋田英万 Akita Hidetaka
  3. サラ・E・リースマン Sarah E. Reisman
  4. 上田 善弘 Yoshihiro Ueda
  5. 真島利行系譜
  6. アレン・バード Allen J. Bard
  7. イー・タン Yi Tang
  8. ダン・シングルトン Daniel Singleton

注目情報

ピックアップ記事

  1. 分子内ラジカル環化 Intramolecular Radical Cyclization
  2. 2009年10月人気化学書籍ランキング
  3. 重水素標識反応 Deuterium Labeling Reaction
  4. mRNAワクチン(メッセンジャーRNAワクチン)
  5. 科学的発見を加速する新研究ツール「SciFinder n」を発表
  6. 金属中心に不斉を持つオレフィンメタセシス触媒
  7. ご注文は海外大学院ですか?〜準備編〜
  8. 第34回「ポルフィリンに似て非なるものを研究する」忍久保洋 教授
  9. Xantphos
  10. Junfeng Zhao

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2008年10月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

第18回 Student Grant Award 募集のご案内

公益社団法人 新化学技術推進協会 グリーン・サステイナブルケミストリーネットワーク会議(略称:JAC…

杉安和憲 SUGIYASU Kazunori

杉安和憲(SUGIYASU Kazunori, 1977年10月4日〜)は、超分…

化学コミュニケーション賞2024、候補者募集中!

化学コミュニケーション賞は、日本化学連合が2011年に設立した賞です。「化学・化学技術」に対する社会…

相良剛光 SAGARA Yoshimitsu

相良剛光(Yoshimitsu Sagara, 1981年-)は、光機能性超分子…

光化学と私たちの生活そして未来技術へ

はじめに光化学は、エネルギー的に安定な基底状態から不安定な光励起状態への光吸収か…

「可視光アンテナ配位子」でサマリウム還元剤を触媒化

第626回のスポットライトリサーチは、千葉大学国際高等研究基幹・大学院薬学研究院(根本研究室)・栗原…

平井健二 HIRAI Kenji

平井 健二(ひらい けんじ)は、日本の化学者である。専門は、材料化学、光科学。2017年より…

Cu(I) の構造制御による π 逆供与の調節【低圧室温水素貯蔵への一歩】

2024年 Long らは、金属有機構造体中の配位不飽和な三配位銅(I)イオンの幾何構造を系統的に調…

可視光活性な分子内Frustrated Lewis Pairを鍵中間体とする多機能ボリルチオフェノール触媒の開発

第 625 回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院 工学研究科 有機・高…

3つのラジカルを自由自在!アルケンのアリール-アルキル化反応

アルケンの位置選択的なアリール-アルキル化反応が報告された。ラジカルソーティングを用いた三種類のラジ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP