[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

Nitrogen Enriched Gasoline・・・って何だ?

[スポンサーリンク]

N_enriched_gas.jpg

 先日アメリカのTVを見ていたら、“Nitrogen Enriched Gasoline”のCMが流れてきました。Shell石油が最近売り出し、CMをたくさん打ち出している新種のガソリンです。

 この商品のウリは「ガソリン燃焼時に副生する堆積物や澱(gunk)が少ないので、エンジンを長持ちさせることができる」ということのようです。要するに、深刻な不況ですから、車は大事に長く乗った方が良いですよね!というセールスアピールなのです。

 以下にCM動画を貼り付けておきます。英語ですが、映像だけでselling pointは掴めると思います。

 この新種ガソリンになぜそんな効果があるのか?ということですが、どうも以下のような理屈なのだそうです。

Nitrogen is a key element of the active cleaning molecule in the new fuel, making it significantly more stable at higher temperatures common in modern engines, such as direct fuel-injection gasoline engines. The increased stability ensures that the molecule can work under much tougher engine conditions by resisting thermal breakdown better than conventional cleaning additives.(引用:Shell news release)

 エンジンを傷めるガム状堆積物の生成を防ぐために、ガソリンには清浄剤(cleaning agent)が添加される。窒素を混ぜることで、清浄剤の熱安定性が増して寿命が延びる。エンジンを痛めにくくなるうえ、清浄剤の添加量も減る。 ―――要約するとこんな感じでしょうか。

 筆者はこれを読んだ瞬間、「え?そんなことってあるのか?」と思いました。化学的に安定な窒素ガス(nitrogen)を加えたところで、何もしないんじゃないの?と思えたからです。しかし英文を良く読むとelementという単語があります。さすがに窒素ガスを添加してるなどということは無く、「窒素を含む化合物」(nitrogen=窒素源)が添加されている、という解釈こそが自然なのかも。

 何にせよ、どうにも腑に落ちなかったので、ネットの英文記事を拾って読んでみました。・・・が、結局良く分からずじまい。

 フォーラム上での議論も読んでみましたが、窒素ガスが添加されてると思い込んで「なんでだ?」と首をひねる消費者もいれば、窒素酸化物(NOx)生成を増加させて却って良くないんでは・・・という消費者も。これはhype(誇大広告)だとクールに捉える消費者も少なくないようで、 このネーミングは果たしてプラスに働いているのか? 疑問です。そもそも”nitrogen”の成分が企業秘密らしく、肝心なところがどうにもはっきりしません。

 「たかがガソリンだし、そこまで深く考えず、とりあえず使ってみてから考えればよいじゃないー」という天の声(?)が聞こえてきそうです。消費者のルーズさを逆手にとって長期間、継続的に使わないと違いが分からない効能を謳うというのは、まったく商売上手なやり方に思えてなりませんね・・・。

 将来日本で売り出されるかどうか、というのが少しだけ気にかかりますが、万一アメリカで爆発的に売れるようなことがあれば、鳴り物入りで日本に入って来てもおかしくないのかも。そうなれば、(自動車業界からの広告料を期待しつつ)マスコミが煽ってブームになる、などということも無くは無いのかも?・・・まぁ可能性は低そうですが。
 今からそんなことを心配しても始まらないですけど、日本で売り出すなら、少なくとも「もっとそれらしい説明」を創作してほしいところですね(笑)。

 ・・・なんだか良く分からない商品というのは、どの世界にもあるもんですね。

  • 関連リンク

ガソリン – Wikipedia

燃料油清浄剤 – Wikipedia

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 【追悼企画】水銀そして甘み、ガンへー合成化学、創薬化学への展開ー…
  2. ダイアモンドの双子:「神話」上の物質を手のひらに
  3. 日本語で得る学術情報 -CiNiiのご紹介-
  4. 作った分子もペコペコだけど作ったヤツもペコペコした話 –お椀型分…
  5. ジアニオンで芳香族化!?ラジアレンの大改革(開殻)
  6. ご注文は海外大学院ですか?〜出願編〜
  7. 第59回有機反応若手の会
  8. 第7回日本化学会東海支部若手研究者フォーラム

注目情報

ピックアップ記事

  1. これで日本も産油国!?
  2. ダニシェフスキー・北原ジエン Danishefsky-Kitahara Diene
  3. 分子標的の化学1「2012年ノーベル化学賞GPCRを導いた親和クロマトグラフィー技術」
  4. ピニック(クラウス)酸化 Pinnick(Kraus) Oxidation
  5. 【書籍】化学系学生にわかりやすい 平衡論・速度論
  6. 決算短信~日本触媒と三洋化成の合併に関連して~
  7. 水の電気分解に適した高効率な貴金属フリーの電極が開発される:太陽光のエネルギーで水素を発生させる方法
  8. ヴィンス・ロテロ Vincent M. Rotello
  9. ジムロート転位 (ANRORC 型) Dimroth Rearrangement via An ANRORC Mechanism
  10. ピバロイルクロリド:Pivaloyl Chloride

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年4月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2025年7月号:窒素ドープカーボン担持金属触媒・キュバン/クネアン・電解合成・オクタフルオロシクロペンテン・Mytilipin C

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年7月号がオンラインで公開されています。…

ルイス酸性を持つアニオン!?遷移金属触媒の新たなカウンターアニオン”BBcat”

第667回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科 野崎研究室 の萬代遼さんにお願いし…

解毒薬のはなし その1 イントロダクション

Tshozoです。最近、配偶者に対し市販されている自動車用化学品を長期に飲ませて半死半生の目に合…

ビル・モランディ Bill Morandi

ビル・モランディ (Bill Morandi、1983年XX月XX日–)はスイスの有機化学者である。…

《マイナビ主催》第2弾!研究者向け研究シーズの事業化を学べるプログラムの応募を受付中 ★交通費・宿泊費補助あり

2025年10月にマイナビ主催で、研究シーズの事業化を学べるプログラムを開催いたします!将来…

化粧品用マイクロプラスチックビーズ代替素材の市場について調査結果を発表

この程、TPCマーケティングリサーチ株式会社(本社=大阪市西区、代表取締役社長=松本竜馬)は、化粧品…

分子の形がもたらす”柔軟性”を利用した分子配列制御

第666回のスポットライトリサーチは、東北大学多元物質科学研究所(芥川研究室)笠原遥太郎 助教にお願…

柔粘性結晶相の特異な分子運動が、多段階の電気応答を実現する!

第665回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院工学研究科(芥川研究室)修士2年の小野寺 希望 …

マーク・レビン Mark D. Levin

マーク D. レビン (Mark D. Levin、–年10月14日)は米国の有機化学者である。米国…

もう一歩先へ進みたい人の化学でつかえる線形代数

概要化学分野の諸問題に潜む線形代数の要素を,化学専攻の目線から解体・解説する。(引用:コロナ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP