[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

思わぬ伏兵・豚インフルエンザ

[スポンサーリンク]

 以前から鳥インフルエンザの大流行(pandemic)可能性は、何かにつけて取り沙汰されてきました。しかし突然、思わぬ伏兵・豚インフルエンザ(swine flu)が猛威をふるいはじめています。日本のニュースでも話題騒然になってるので、皆さんご存じのことでしょう(画像:NYtimes.com)。

筆者は現在米国西海岸在住なので、ふつーに身近すぎる話題です。いやはやこんなことが起こってしまうとは・・・。

 

アメリカでも死者がこのたび発見され、非常事態宣言が出され、現地メディアでもかなり報道されています。気のせいかラボメンバーの中にも「なんか調子が悪いなあ・・・」とか言ってる人が増えてるような・・・まぁそれは、彼らが単に怠け者だからだからでしょうが(笑)。冗談はさておき、もちろん現状を適切に把握しておくに超したことはなさそうです。

さて日本では、『成田着の旅行者が豚インフルエンザウィルスと同型に感染してるのが見つかった!日本上陸か?(リンク先ははてなブックマーク)』などといった記事も、大々的に発表されているようです。とはいえこれはちょっと過敏過ぎでは?というのが筆者の第一印象です。今後、勇み足的記事がどんどん増えてくる兆候、と見るべきかもしれません。

 

ウィルスが検出されただけの時点では豚インフルかどうかなど分からないはずですし、現状の警戒レベルが引き上げられているが故に、通常以上にウィルスが頻度高く検知されてしまう(フォールス・ポジティブ)こともありうる話でしょう。この報道がフォールス・ポジティブかどうかはさておき、インフルエンザ自体は珍しい病気でも無いので、ノーマルタイプとの区別をしないうちに一番乗りの報道だけ流してしまう、というのは恐怖心を煽るだけでやや無責任な報道姿勢にも思えます。勿論迅速に報道するのが最重要だ、というような見方もあっていろいろでしょうが。

 

豚インフルの蔓延自体、日本で話題になり始める前に発生してるはずです。つまり精密検査が始まるより以前に、(ザルだった時の検査体制をすり抜けて)すでに日本に上陸していると考えても、なんらおかしく無いようにも・・・いかようにも考えることはできます。

 

いずれにせよこれだけ騒がれると、実態以上に極端な印象ばかりが植え付けられ、真実は彼方へと押しやられ、メディアの言うがまま、一般大衆は右へ左へと振り回される・・・などということも起こってくるかもしれません。垂れ流される一面的な情報を鵜呑みにして、過度に大騒ぎするのもいかがなものかと思えます。もちろん気持ちは理解できますが。

 こういうときにこそ、信頼性が高くかつ迅速な情報ソースを頼って、事態を冷静に捉え、自分の頭で判断することが重要になってくると思えます。そのために参考になりそうなサイトを、簡単にまとめて紹介しておきましょう。

 

世界保健機関(WHO)のSwine Influenzaサイトは、毎日最新情報に更新されています。WHO自ら大流行危険度フェーズを日々引き上げている(2009年4月30日現在・6段階中5)状況を考えても、現状をもっともシビアに認識している機関の一つといえるでしょう。誤報・ガセネタなどにはかなり慎重になっていると想像されます。英語に抵抗のない方なら、First Choiceとなりうる情報源かと思えます。米国疾病予防管理センター(CDC)のFlu情報などもよさそうです。

日本語ソースが欲しい、と言うのであれば、省庁のページが無難でしょうか。厚生労働省外務省海外安全ページ農林水産省などに情報があるようです。とはいえ分散的で一元化されておらず、多角的視点から判断に至った情報も得られ難いように感じます。こういう現実を見るにつけ、『ああ全くタテワリ行政め・・・』などと思えてしまいます(苦笑)。そういったものをまとめようとしている日本語ソースとしては、情報量は多く無いものの国立感染症研究所・感染症情報センターのページなどがあるようです。

 

日本語Wikipediaにも2009年豚インフルエンザの集団発生という項目があります。更新頻度は高く、かつきわめて迅速です。その特性上、正確さの判断は自己責任になってしまいますが、さしあたってはこれを眺めておくのも悪くはないでしょう。

 

Google社は、独自にFluTrendというサービスを提供しています。これはなかなか面白いです。Googleならではの情報検索力にものをいわせ、インフルエンザに関連する検索ワードの傾向頻度を地域ごとに分析し、感染者がどれぐらい発生してるかを自動的に見積もってくるというもので(詳細はこちら[英語])、報道よりも速く検知可能なポテンシャルを持つともいわれています。ウィルスの存在を調べずとも、人間行動の分析から流行トレンドが分かる、という事実は興味深いですし、それに目をつける着眼点も凄いですね。人間が作り出すものの可能性は果てが無いなぁと思わせてくれます。以前まではアメリカ版しか公開されていませんでしたが、ごく最近メキシコ版FluTrendも発表されている模様。

 

信頼性や迅速性はさておき、個人で情報をまとめて分かりやすく発信しようとしている情報ソースもいくつかあるようです。見ておいて損がなさそうなのは、GoogleMapを活用した感染地図でしょうか。変に恐怖心を煽るばかりの報道に一喜一憂するよりも、冷静に事態を眺めることができるでしょう。

ところで巷では、「豚肉を食べてよいのかどうか」などまで議論の俎上に上がっているようです。実際アメリカでも豚肉の販売量が激減し、食品業界・スーパーは経済的ダメージで不況のさなかに大変なようです(イメージが物を言うのはどこの世界でも同じですね)。インフルエンザウィルスは一般に、生きた細胞を活用しなければ増殖することができません。つまり焼いたり煮たりしてあれば、とりあえず大丈夫に思われます。もちろん、新型ウィルスの詳細は何も分からない現状なので断言はできません。豚肉を食べないと死ぬ、というわけでもありませんし、個人で気をつける分には自由だと思います。・・・が、せいぜい気休め程度では?と個人的には思えます。

 

一般人である我々がもっともすべきことは、うがい・手洗い・栄養補給・適度な運動などの健康管理、気になる人はマスクをして出かけて人ごみを避けるといった予防策になるでしょうか。というか現実的にそれしかできないのでは?普段どおり衛生的な生活を営む限りは、過度に心配しても始まらないように思います。

 

ワクチンの製造も既に開始されたとメディアで報じられましたが、この開発・備蓄には時間を要します。おそらくそれまでは、タミフル・リレンザなどの抗インフルエンザ薬が対症のカギになってくると思います。これらは豚インフルとして知られるA-H1N1型にも有効だそうで、とりあえずは安心要素でしょうか。余談ですが、この世界情勢を受けて、タミフルの発売元ロシュ社、リレンザの発売元グラクソスミスクライン社の株価は順調に上昇中だとか。こんな事態のさなかにあっても、抜け目無く攻める投資家というのは沢山いますね(もちろん彼らに罪はありません)。

とはいえ何なんでしょう、あまりに唐突に出てきたウィルスという印象を受けました。鳥インフルエンザばかり目立っていたがゆえ、単に気にかけられてなかっただけなのかも知れませんが。

 

豚インフルの起源については、「生物兵器として開発中のものが間違って漏れてしまったのが勃発の原因では?「豚の中で2つのインフルエンザが混ざって新しいウィルスが誕生したのでは」「メキシコの医療衛生レベルの低さに加えて、タミフル欠乏が蔓延した原因なんじゃないか」とかなんとか、まことしやかに色々言われてますが・・・本当のところはどうなんでしょうね。

 

ともあれ、今後も何か参考になりそうな情報源があれば、適宜追記していきたいと思います(筆者自身の防衛も兼ねて)。

 

関連商品

[amazonjs asin=”B002N09SNK” locale=”JP” title=”メジャーリーガーM-101wホワイト【お得な5箱セット250枚】インフルエンザ対策【三層構造】医療用サージカルマスク”]

外部リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. そうだ、アルミニウムを丸裸にしてみようじゃないか
  2. 液体中で高機能触媒として働くペロブスカイト酸化物の開発
  3. 『リンダウ・ノーベル賞受賞者会議』を知っていますか?
  4. AIBNに代わるアゾ開始剤!優れた特長や金属管理グレート品、研究…
  5. プラスチック類の選別のはなし
  6. 創薬・医療分野セミナー受講者募集(Blockbuster TOK…
  7. 三種類の分子が自発的に整列した構造をもつ超分子共重合ポリマーの開…
  8. 有機半導体の界面を舞台にした高効率光アップコンバージョン

注目情報

ピックアップ記事

  1. イミダゾリニウムトリフラート塩の合成に有用なビニルスルホニウム塩前駆体
  2. 分析技術ーChemical Times特集より
  3. SFTSのはなし ~マダニとその最新情報 前編~
  4. Reaxys Prize 2012ファイナリスト45名発表!
  5. 貴金属触媒の活性・硫黄耐性の大幅向上に成功
  6. 恋する創薬研究室
  7. マテリアルズ・インフォマティクスにおけるデータの前処理-データ整理・把握や化学構造のSMILES変換のやり方を解説-
  8. 「2010年トップ3を目指す」万有製薬平手社長
  9. 実験室の笑える?笑えない!事故実例集
  10. アルミニウム工業の黎明期の話 -Héroultと水力発電-

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年5月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

マーフィー試薬 Marfey reagent

概要Marfey試薬(1-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル-5-L-アラニンアミド、略称:FD…

UC Berkeley と Baker Hughes が提携して脱炭素材料研究所を設立

ポイント 今回新たに設立される研究所 Baker Hughes Institute for…

メトキシ基で転位をコントロール!Niduterpenoid Bの全合成

ナザロフ環化に続く二度の環拡大というカスケード反応により、多環式複雑天然物niduterpenoid…

金属酸化物ナノ粒子触媒の「水の酸化反応に対する駆動力」の実験的観測

第639回のスポットライトリサーチは、東京科学大学理学院化学系(前田研究室)の岡崎 めぐみ 助教にお…

【無料ウェビナー】粒子分散の最前線~評価法から処理技術まで徹底解説~(三洋貿易株式会社)

1.ウェビナー概要2025年2月26日から28日までの3日間にわたり開催される三…

第18回日本化学連合シンポジウム「社会実装を実現する化学人材創出における新たな視点」

日本化学連合ではシンポジウムを毎年2回開催しています。そのうち2025年3月4日開催のシンポジウムで…

理研の一般公開に参加してみた

bergです。去る2024年11月16日(土)、横浜市鶴見区にある、理化学研究所横浜キャンパスの一般…

ツルツルアミノ酸にオレフィンを!脂肪族アミノ酸の脱水素化反応

脂肪族アミノ酸側鎖の脱水素化反応が報告された。本反応で得られるデヒドロアミノ酸は多様な非標準アミノ酸…

野々山 貴行 Takayuki NONOYAMA

野々山 貴行 (NONOYAMA Takayuki)は、高分子材料科学、ゲル、ソフトマテリアル、ソフ…

城﨑 由紀 Yuki SHIROSAKI

城﨑 由紀(Yuki SHIROSAKI)は、生体無機材料を専門とする日本の化学者である。2025年…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP