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ポンコツ博士の海外奮闘録XV ~博士,再現性を高める①~

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第15話:ポンコツ博士,再現性を高める①

ポンコツ後任者,悪態をつく

筆者はイラついた…。引き継いだ実験系がうまく再現できないことに。目的物を確認できるがChampion data通りとはいかず,平均収率がよろしくなかった。もちろん初めに自分の腕を疑ったがどうやら腕だけの問題ではなく,化合物慣れした前任者が大切なポイントを確認せずリスクが高いまま化合物を取ってくるスタイルで実験事実を積み上げたことが影響していた。ノートを確認すると1,2発綺麗に反応が進行した程度で後追い実験はブレブレだった。時間的,心理的に焦りがあっただろうし,筆者もその感情を理解できるが,先を見据えた成果を出すための研究スタンスや実験事実の導き方としていただけないものであった。

結局,1年以上原料合成するつもりはない気持ちでドカッと中間体合成を行ってきたが,その後手順通りに工程を突破すると全ての誘導体に辿り着く前に粉砕されてしまった。筆者は当初,1回2回ある不安定な実験系の問題だろうとおおらかな気持ちで対応していたが,進むたびにトラブルが潜在して最適化を行う羽目になったため,流石にストレスを感じた。

ポンコツPh. D,日本の教育を羨む

日本でグダグダな状況が続く場合,必ず第三者と生データチェックや具体的な実験操作の一つ一つを洗いざらいし,天誅を喰らいながらも重大なトラブルが起きる前に正しい方向へ戻ることができるが,どうやらこっちだとそうはいかないようだ。この辺りの違いに関する感想は,日本で学位を取って海外に来たポスドクがつぶやくであろう「日本だったらこんなことないのに…」という一言に尽きる。日本の化学アカデミア界でよくあるしつこいぐらい逐一実験系を確認して丁寧さを最低限叩き込み,学生の研究遂行能力を世界の平均以上まで育てる師弟型の研究教育もそこまで悪くないと実感した。

ポンコツ実験者,ふてぶてしく研究する

不満を言い訳に手を止めては物事の本質に辿り着けないため,筆者は「バカやろコンニャロめー」と愚痴を垂れ流しながら再現性の高いルートの確立を目指した。幸い,標品やMSデータが存在するために追跡は可能であり,合成ルートに関しても過去にラボから出たルートの改良(…?)版だった。長い年月をかけて多くのポスドクが実験事実を積み上げてきたし,日本人研究者が関わったSuporting Infomation(SI)も存在するため,必ず再現できるはずだ。

したがって,超ポジティブな筆者は,ボッスから最近感じる何故作れないプレッシャーを気にせず「事実のゴリ押しによる安定しない結果ではなく正しい事実から導き出された再現性の高い結果を構築するからちょっと待て」感覚でふてぶてしく問題の改善に取り組むことにした。実験がうまくいかないのであれば,確実にうまくいったところまで戻れば良い。急がば回れである経験上,ボッスのプレッシャーや卒業・研究競争の時間等によって研究に対する焦りが常に生じるが,本当の敵は時間や対人関係ではなく研究の本質を見据えた真実に辿り着けるかどうかであり,それを見つけるためには環境に左右されない鈍感力も大切だ…多分。

ポンコツ彷徨い人,メンタルを語る

ちなみに筆者は,研究活動をうまく進めるコツとしてメンタルが壊れるほどのストレスが溜まることがあっても,ブツブツ言いながら詰まった時こそ前を向いてせかせか手を動かすことだと考えている。実験から導かれた目の前の事実はどうやっても変えることができないため,泣きながらでも手だけは動かして真実に近づく新たな事実を得てくることしか対処法がない(…よね?)。一方で,自分の精神的な問題はどうにかすれば大抵どうにかなるため,うまく対処するしかない(無理な時は無理)。筆者の場合,日本で深夜2-3時頃におなかがすいた場合,穴場のごはん屋探しを開始して何をやっているか全く知らないベロベロのおじさまが考える社会情勢論や,お姉さまの子育て問題の相談についてあーでもないこーでーもないと会話し,人は皆,大なり小なりストレスを抱えていることに気づく作業がストレス解消になっていた。自分の博士課程だけがきつい訳ではないと。Barで〆のカレーを食べることが定番である。

最近の学生に「社畜臭が凄い…コスパ考えてもっとスマートに生きましょうよ,コスパ」と言われそうだが,そもそも筆者は思考をベースにうまく行動できるスマートな人間ではないので仕方ない。しかし,元来,超面倒くさがりで妥協やすぐ手抜きしやすいゴミのような筆者が,コスパが極めて悪いと揶揄される日本の博士課程を経て最低限の泥臭いことにも手を出すようになり,多少の苦境では動じない強靭なメンタルと仏に近づいた人間性を得ることができた。これらはコスパコスパ言っていると決して得られなかっただろうし,大きな財産として後々に響くのではないかと期待している。色々な失敗を含めてこれまでやってきたことは無駄ではない,と今なら言えるだろう。

ポンコツ精製人,化合物純度を高める

筆者のブラックメンタル論は置いといて実験系を思考しよう。前任者は逆相HPLCで化合物を単離することを好んでいたが,かなり無茶な条件で使用していた(反応系を未処理で打ち込む等)。そのため,筆者が使用する頃にはほぼ全ての逆相カラムが成仏しており,精製条件を再現できなかった。また,ラボのリッチ具合にかまけて超高級なHPLCカラムを毎年購入している形跡があったため,筆者は順相系でみんなが確実に精製できる条件を探すことから着手した。日本人同士であれば逆相HPLCカラムを破壊しまくっている時点で「君は正気か?」と優しく尋ねて修正できるだろうが,英語でうまく意思疎通ができないため,結果で示す方が早いと判断した。こんなことの口論で喧嘩する時間や人間関係を悪くする暇があれば,お互いにより良い方向性を見せた方が楽だ(日本だと教育も兼ねて説教すると思うが,ここは母国語で会話できない海外だ)。

一般的な手カラム精製では,経験と技量によって差が出易く,個人の能力に依存することが多い。実際,Fig .1に示すように学生から受け取ったサンプルと,後に筆者が調製したサンプルでは化合物純度に差が生まれた(Fig 1)。学生から貰ったサンプルはNMRを取ると確かにキレイだが,筆者のサンプルより純度が低いことは目視で分かる。

Fig. 1) 筆者が作ったサンプル(左)と受け取ったサンプル(右)

生物活性研究の世界でまことしやかに囁かれる活性のブレ問題は案外こういう所の積み重ねで現れるのかもしれない(筆者も肝に銘じよう)。

ポンコツポスドク,新マシンにときめく

大スケール合成において筆者は,ろ過マトを駆使したカラム精製を行っていた(Fig 2A)。しかし,ろ過マトは個人の技量と経験値に大きく依存した邪道であるため,ラボのスタンダードにするわけにはいかなかった。みんなが安定して精製できる方法を探索していた所,その悩みをサクッと解決できそうな手段があることに気付いた。うちのラボにはBiotageさんの自動精製装置「Isolera」を使う選択肢があったのだ…!

しかし,当ラボのIsoleraは日本人研究者によって使用方法が正しく伝達されていなかったため,可哀想なことに目的物を全く分けられないゴミ機械として扱われていた。使えるものは使えるものとしてちゃんと認知させなければ…という謎の義務感を持った筆者は,日本では使うことができなかったIsoleraの一連の使い方をウッキウキで模索した。

Fig. 2 (A) ろ過マト (混合物80 gスケール,フラクション2 L) (B) 桐山バイオタージ

ポンコツポスドク,精製法を考案する

Isoleraが産廃扱いされていた原因を調査した所,混合物のチャージ方法に問題があることが分かった。当ラボで購入していたSfar(スフェア)カラムは蓋が開かないもので(日本未発売),化合物をよく溶ける溶媒に溶解させてから注入するしかなく,注入中に液が逆流したり,化合物をDCMで溶かした場合では分かれず1本目に出てきたりするため,普通に手カラムした方が確実で早いという認識になっていた。筆者も同じように試してみたところ,確かにこれは使えない…と思った。ネットに落ちているおすすめの使い方を見てみると,蓋を開けてチャージしているのにうちのは開かない。「Biotageさんの使い方見たら簡単に蓋が開いてるけど,うちのやつ万力使っても蓋開かねぇし!なんでや!」と日々叫んでいたが,そもそも蓋が開くタイプ(Duo型)ではなかった。

型番の違いに気がついた筆者は蓋が開くSfar Duo型を購入して旧型をExtend用カラムとして使用することに決めた。Duo型に変更しただけで普通のカラムチャージと遜色が無くなって極めて有用なマシンになったが,DCM溶解チャージで1本目から出てくる問題は解消しきれず,筆者の求めるクオリティにまだ達さなかった。そこで,チャージの仕方を試行錯誤した結果,筆者はBiotage Sampletを用いた新たな大量サンプルチャージ法を考案した。

名付けて,ポンコツ新・必殺テクニック「桐山バイオタージ」である(Fig. 2B)。

メンタル論をやけに書きすぎて内容が重くなったため,新たに見出した精製テクニックや筆者のBiotageカラムの使い方は次回紹介させていただく。

〜〜続く〜〜

関連リンク・余談

いらすとや :アイキャッチ画像の素材引用元。

Biotageカラムの基本テクニック:Biotageさんからオフィシャルに精製装置をうまく使うための使用法が公開されている。研究者や研究者の卵は自分でどうにかする意識が強すぎるのか,論文に関する検索等はしっかりする癖に目の前のマシンの説明書をちゃんと読まずにノリで使っている人が案外多い(筆者はそうだ)。使いこなせていない場合は,まず正しい使い方を確認しよう。ちなみに必殺技に会社名が出ているが,筆者は決して桐山さんやBiotageさんの回し者ではない。

Biotageさんの新型マシン:筆者は旧型のIsoleraで満足しているが,Biotageさんは新型を絶賛販売中のようだ。決してBiotageさんの回し者ではない。

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NANA-Mer.

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たぶん有機化学が専門の博士。飽きっぽい性格で集中力が続かないので,開き直って「器用貧乏を極めた博士」になることが人生目標。いい歳になってきたのに,今だ大人になれないのが最近の悩み。読み方はナナメルorナナメェ…?

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