[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

知られざる有機合成のレアテク集

[スポンサーリンク]

“Lesser-Known Enabling Technologies for Organic Synthesis”
O’Brien, M.; Denton, R.; Ley, S. V. Synlett 2011, 1157. DOI: 10.1055/s-0030-1259979

有機合成化学会の大御所、ケンブリッジ大・Steven Leyらによって最近書かれたレビューです。

タイトルをそのまま訳すならば、「有機合成に使える、”知られざる”技術」となるでしょうか。主に精製と後処理についての実験技術が、図付きで解説されています。

・・・しかし、その中身は筆者も初めて耳にするようなレアモノばかり。技術の名前だけ見ても、どんなやり方か全く分からないような・・・いやはや、ほんとにマニアック!面白かったので、いくつか抜粋して紹介してみます。

低温クロマトグラフィ(Low-Temperature Chromatography)

カラムクロマトグラフィにはリミテーションがある!それは固定相や展開溶媒と反応してしまう化合物が駄目なこと・・・現場で合成やってる人なら常識そのものですね。

これは、”低温クロマトグラフィ”を行うことである程度解決できるんだそうです。一言で言えば、冷媒で冷やした状態でカラムをやるだけだと・・・
低温でやると分離能も向上するとか。まじですか。そんなのあるのか。つーかどうやって組んでやってるんだ?

これ、ちゃんと図付きで説明があります。その見目麗しきお姿は・・・
rare_tech_1.pngよーするに周りに冷媒を流せる空間が付いてて、シリカを詰めてカラム出来る構造のガラス器具を使ってるわけです。上下にコックがついてますが、これはアルゴン雰囲気下で圧をかけてカラムを行う目的でついてるそうです。

いやはや、こんなことをしないと分けられないような化合物を扱ってる人には、本当に頭が下がります。

還流クロマトグラフィ(Reflux Chromatography)

名前だけ見るとなんじゃそれは?と思う技法ですが、要するに展開溶媒を加熱還流させたものを固定相の上から流すカラムクロマトです。図を見てもらったほうが手っ取り早いですね。

rare_tech_2.png分離度が悪く、低極性の溶媒でじっくりと溶出させたい場合などに有効のようです。溶媒が少量で済みますし、半自動的プロセスなので手間が掛からないというメリットもあるようです。

つまり原理はソックスレー抽出器と同様です。

冷却マイクロウェーブ加熱(Cooled Microwave Heating)

マイクロウェーブというのは、反応系をマイクロ波照射で分子運動を加速し、迅速な反応を実現する実験手法です。難しそうに聞こえますが、端的には電子レンジそのもの。実にアメリカなんかでは家電レンジの俗称がそのまま「microwave」となっていることを考えても、偉大さが容易に想像いただけることでしょう(?)。

ならばCooled Microwaveとはなんぞや・・・矛盾的非科学的な匂いがぷんぷんたる名前であります。

これはどうやらそのまんまで、反応容器の回りを冷やしながら、マイクロ波照射を行う手法とのこと。系内の温度を適当に保ったまま、マイクロ波のエネルギーだけを与えることができるため、いわゆる「非熱効果」の積極的関与を狙って行われる手法のようです。

この非熱効果には懐疑的見解も多数ありますが(参考:気ままに有機化学さんの解説)、実際にいくつかの例では顕著な反応時間の短縮及び収率の向上がみられるのだとか。へー。

他にもいくつかの特殊な技術が掲載されています。合成化学者なら困ったときの奥の手に、一つか二つ仕入れておいてはいかがでしょう?

実験世界はホントに奥が深いですね~。

(※写真は冒頭論文より引用・改変)

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 個性あるTOC その②
  2. アメリカ大学院留学:卒業後の進路とインダストリー就活(2)
  3. 米国へ講演旅行へ行ってきました:Part IV
  4. 溶液を流すだけで誰でも簡単に高分子を合成できるリサイクル可能な不…
  5. 可視光レドックス触媒と有機蓄光の融合 〜大気安定かつ高性能な有機…
  6. 重水は甘い!?
  7. 【速報】2010年ノーベル生理医学賞決定ーケンブリッジ大のエドワ…
  8. ハウアミンAのラージスケール合成

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. クノール ピロール合成 Knorr Pyrrole Synthesis
  2. タンパク質の構造と機能―ゲノム時代のアプローチ
  3. モノクローナル抗体を用いた人工金属酵素によるエナンチオ選択的フリーデル・クラフツ反応
  4. 化学のためのPythonによるデータ解析・機械学習入門
  5. メバスタチン /Mevastatin
  6. OMCOS19に参加しよう!
  7. ペプチドの草原にDNAの花を咲かせて、水中でナノスケールの花畑をつくる!?
  8. 危険物データベース:第4類(引火性液体)
  9. Micro Flow Reactor ~革新反応器の世界~ (入門編)
  10. デニス・ホール Dennis G. Hall

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2011年4月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

アゾ重合開始剤の特徴と選び方

ラジカル重合はビニルモノマーなどの重合に用いられる方法で、開始反応、成長反応、停止反応を素反応とする…

先端事例から深掘りする、マテリアルズ・インフォマティクスと計算科学の融合

開催日:2023/12/20 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

最新の電子顕微鏡法によりポリエチレン分子鎖の向きを可視化することに成功

第583回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院 工学研究科 応用化学専攻 陣内研究室の狩野見 …

\脱炭素・サーキュラーエコノミーの実現/  マイクロ波を用いたケミカルリサイクル・金属製錬プロセスのご紹介

※本セミナーは、技術者および事業担当者向けです。脱炭素化と省エネに貢献するモノづくり技術の一つと…

【書籍】女性が科学の扉を開くとき:偏見と差別に対峙した六〇年 NSF(米国国立科学財団)長官を務めた科学者が語る

概要米国の女性科学者たちは科学界のジェンダーギャップにどのように向き合い,変えてきたのか ……

【太陽ホールディングス】新卒採用情報(2025卒)

■■求める人物像■■「大きな志と好奇心を持ちまだ見ぬ価値造像のために前進できる人…

細胞代謝学術セミナー全3回 主催:同仁化学研究所

細胞代謝研究をテーマに第一線でご活躍されている先生方をお招きし、同仁化学研究所主催の学術セミナーを全…

マテリアルズ・インフォマティクスにおける回帰手法の基礎

開催日:2023/12/06 申込みはこちら■開催概要マテリアルズ・インフォマティクスを…

プロトン共役電子移動を用いた半導体キャリア密度の精密制御

第582回のスポットライトリサーチは、物質・材料研究機構(NIMS) ナノアーキテクトニクス材料研究…

有機合成化学協会誌2023年11月号:英文特別号

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2023年11月号がオンライン公開されています。…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP