[スポンサーリンク]

一般的な話題

ベンゼン環記法マニアックス

みなさん、上記の構造式AとB、どこが違うのか分かりますか?

そうです、亀の甲の二重線の配置が違います。一目見て分かりましたよね!? え?びみょー?そんなの気にしたことなんて無いよ、ですって? まさにごもっとも。二重線の位置なんて、普段気にしないものだと思います。

しかしこれを、厳密たるこだわりをもって使い分けようとする人が世の中には居るのです。

 

使い分けてる当人の理屈は、「ナフタレンの共鳴関係(極限構造式)を書けば分かる!最も割合高く存在するべきは、Aの構造をもつはずだろ?」ということだそうで。ナフタレンのC-C結合はベンゼンと違って等価では無く、それを最も良く表現している構造式Aを用いるのが、厳密には適切だと。確かに言われて見ればそうかもですが・・・。

 

benzeneStr_4.gif

 

いくら共役があるからと言って、例えばインドールのような化合物を、CやDのように書いてしまうのは、(酸性プロトンの位置的に)もちろん違和感を感じます(いや、単に見慣れてないだけ?)。しかしその一方で、AとBのどちらが適切なのか?と言われて即座に答えられる人は、世の中にどれだけの数いるのでしょうか。

 

benzeneStr_2.gif

それにそんなことまで気にしはじめると、置換基の違いで書き方も変えなくてはならないのでは? そしてベンゼン環が増えてくるとやたら難しくなりはしませんかねぇ。ピレン(pyrene)とかグラフェンとかフラーレンとかどうすればいいの? さらにエスカレートして、「二本目の線は単結合の右左どこに置くべきか?おまえの美的感覚ではどうなんだ10秒以内で答えろ!」といった議論まではじまってくると無理すぎるだろ常識的に考えて・・・。

 

benzeneStr_3.gif

などなど、世間一般の人なら誰も考えないであろうツッコミまで入れたくなること、それが人情というものの正体なのかもしれません(謎)。

 

まぁ何にせよそれぐらいこだわりある人と話すほうが、普段考えもしないような箇所にまで話題が進んで面白い、というのは確かですが。

 

こんな途方もなくマニアックな話で盛り上がったりする一方で、普段はもちろん厳密な書き方など一切気にしていません。実験ノート記入や、ホワイトボード上でのディスカッション時に、いちいちそんなことを考えながらやるのは面倒過ぎる・・・。

 

それどころか「速く簡単に書けて伝われば何でもOK」という文化がどこのラボでも根強いのは、もはや周知の事実でしょう。どのラボ文化でも大抵は簡略構造式をよく使うはずです。議論の重心に絡まない場所はとりわけ適当で、単にAr(アリール)でお終いにしてしまうことも。そしてギリシャ文字のΦ(ファイ)は、アルファベットのPhに相当する文字で、ベンゼン環表記の究極進化形とも呼べます。六角形をわざわざ書くよりずっと速い!

 

省略しすぎると後から眺めて良く分からなくなるのでは?とかいう危惧は、怠惰という強力な駆動力の前に為す術などありません。

 

この省略化にかける情熱および工夫過程の歴史は、人類文化学的に見て既に一種の学問領域を形成してしまっていると言っても過言ではないのでは!?人間というのは、ことほど左様に奥が深い生き物なのです(意味不明)。

 

benzeneStr_5.gif

 

関連リンク

The following two tabs change content below.
cosine

cosine

博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 真空ポンプはなぜ壊れる?
  2. ゾウががんになりにくい本当の理由
  3. 第5回慶應有機化学若手シンポジウム
  4. 最近のwebから〜固体の水素水?・化合物名の商標登録〜
  5. とあるカレイラの天然物〜Pallambins〜
  6. パラジウム錯体の酸化還元反応を利用した分子モーター
  7. Micro Flow Reactor ~革新反応器の世界~ (入…
  8. 有機合成化学協会誌2017年7月号:有機ヘテロ化合物・タンパク質…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. デヴィッド・エヴァンス David A. Evans
  2. 取扱いが容易なトリフルオロアセチル化試薬
  3. ターボグリニャール試薬
  4. 標的指向、多様性指向合成を目指した反応
  5. 植物の受精効率を高める糖鎖「アモール」の発見
  6. アミンの新合成法2
  7. マイケル・レヴィット Michael Levitt
  8. 健康食品 高まる開発熱 新素材も続々
  9. ドミトリ・メンデレーエフの墓
  10. 武田薬品工業、米バイオベンチャー買収へ 280億円で

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

有機ホウ素化合物を用いたSNi型立体特異的β-ラムノシル化反応の開発

第166回目のスポットライトリサーチは、慶應義塾大学理工学部博士課程・西 信哉(にし のぶや)さんに…

アルキルアミンをボロン酸エステルに変換する

不活性C(sp3)–N結合をボリル化する初めての反応が開発された。入手容易なアルキルアミンから様々な…

生物の仕組みに倣う:背景と光に応じて色が変わる顔料の開発

第165回目のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院工学研究科 ・坂井美紀(さかい みき)さんに…

イミデートラジカルを用いた多置換アミノアルコール合成

イミデートラジカルを用い、一挙に多置換アミノアルコールを合成する方法が開発された。穏和な条件かつ位置…

ジェフリー·ロング Jeffrey R. Long

ジェフリー·ロング(Jeffrey R. Long, 1969年xx月xx日-)は、アメリカの無機材…

【なんと簡単な!】 カーボンナノリングを用いた多孔性ナノシートのボトムアップ合成

第 164 回目のスポットライトリサーチは東京大学大学院新領域創成科学研究科 物質系専攻の森泰造 (…

PAGE TOP