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スポットライトリサーチ

クオラムセンシング阻害活性を有する新規アゾキシアルケン化合物の発見―薬剤耐性菌の出現を抑える感染症治療薬への応用に期待―

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第405回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院統合生命科学研究科 生物工学プログラム 細胞機能化学研究室 (荒川研究グループ)に在籍されていた田中 悠 (たなか ゆう)さんと同研究室所属の長野 遥(ながの はるか)さんにお願いしました。

荒川研究グループでは、土壌細菌の仲間である放線菌の生命現象を遺伝子・酵素・代謝産物の視点から多面的に研究されています。具体的には、抗生物質の生合成メカニズムの解析を中心として、遺伝子情報解析や二次代謝の制御システムの解析などを行っています。

本プレスリリースは放線菌から得られた新規化合物についてで、放線菌 Streptomyces sp. TOHO-M025 株を大量培養したところ、分子式C12H22N2O4 の新規化合物 maniwamycin G が得られ、各種の解析によりこの化合物の立体構造を決定しました。さらに、Maniwamycin G の生合成起源を明らかにするために、同位体標識化合物の取り込み実験を行い炭素起源と窒素起源を明らかにしました。またmaniwamycin G の生理活性試験では、他の maniwamycin 類と同様にクオラムセンシング阻害活性を呈することが明らかとなりました。

この研究成果は、「Journal of Natural Products」誌にて発表され、7月号の表紙に採択されました。また広島大学プレスリリースにも公開されています。

Isolation, Biosynthetic Investigation, and Biological Evaluation of Maniwamycin G, an Azoxyalkene Compound from Streptomyces sp. TOHO-M025

Ayaka Tatsukawa, Yu Tanaka, Haruka Nagano, Atsushi Fukumoto, Yojiro Anzai, and Kenji Arakawa

J. Nat. Prod. 2022, 85, 7, 1867–1871
DOI: doi.org/10.1021/acs.jnatprod.2c00131

研究室を主宰されている荒川賢治 准教授より長野さんと田中さんについてコメントを頂戴いたしました!

本研究は、制御遺伝子改変によるゲノムマイニングで得られたアゾキシアルケン化合物KA57Aの発見に端を発したもので、東邦大学との共同研究によるものです。筆頭著者の達川綾香さんを中心に、今回の紹介記事を書いてくれる田中悠君、長野遥さんが頑張ってくれた成果です。田中君は2019年4月に、長野さんは2021年4月に卒業研究生として入ってきた学生で、本化合物maniwamycin Gを含めたアゾキシアルケン化合物の生合成や生物活性の研究に従事してくれています。田中君は色んな化合物の単離・構造決定・生合成を手掛けてこの3月に卒業して製薬企業に就職しました。また、長野さんは現在博士課程前期1年として実験頑張ってくれています。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

田中さん

微生物が生産する二次代謝産物は、医薬・農薬・食品・工業などの多様な分野で、人類の発展に大きく貢献してきました。その中でも、放線菌という微生物は多くの二次代謝産物を生産することで知られ、天然由来の抗生物質のうち、約7割は放線菌から発見されています。

本研究では、放線菌 Streptomyces sp. TOHO-M025 株を大量培養したところ、分子式 C12H22N2O4 の新規アゾキシアルケン化合物 maniwamycin G を取得しました。構造解析の結果、図に示すような化学構造を有することがわかり、絶対立体配置を (2R,3S) と決定しました。また、 maniwamycin G の生合成起源を明らかにするために、同位体標識化合物の取り込み実験を行ったところ、 炭素起源は 4 つの酢酸 (C-1’,2’, C-3’,4’, C-5’,6’, C-4,5) および L-セリン (C-1〜C-3) であること、窒素起源に関して、C-2 に結合した Nα 位は L-セリン、ヘキセニルアミンユニットにおける Nβ 位はL-グルタミン酸由来であることを立証しました。maniwamycin G の生理活性試験として、検定菌クロモバクテリウム・ビオラセウムの紫色色素ビオラセイン生産を調べたところ、本化合物も他の maniwamycin 類と同様にクオラムセンシング阻害活性を呈することが明らかとなりました。

本研究成果は、未解明なアゾキシアルケン化合物の生合成機構の一端を明らかにすると同時に、新規医薬品の創出への貢献が期待されます。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

田中さん

私は、研究室に配属になる前から、微生物の培養や、生理活性物質の単離に興味を持っていました。研究室に配属されて初めて携わった実験が、maniwamycin G という放線菌由来の新規生理活性物質の単離であったことから、興味を持っていた実験を早速やらせて頂くことになりました。実際に実験をしてみて、微生物の培養の難しさを体感しました。微生物による発酵生産は、培養条件に大きな影響を受けます。このため、培養温度や培地組成、培地中の酸素濃度の変化によって、生産される二次代謝産物も異なる場合が多々あります。本研究を通して、微生物の有用性だけでなく、その気難しさを実感できたことは非常に思い入れがあります。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

田中さん

本研究で大変だったことは、Maniwamycin G の収率が少なかったことです。Maniwamycin G は生産菌の培養液 1 L から 1 mg 程度しか単離できません。解析を行う際には十数 mg の maniwamycin G が必要であったことから、毎週数 L 単位の生産菌の培養を根気強く行っていました。また、培養液から maniwamycin G を精製する際にも、いかにロスを少なくし、収率を上げられるかを考える必要がありました。既に maniwamycin G の精製方法は確立されていましたが、専門書や文献を読むこと化合物の精製方法について学び、各種クロマトグラフィーの精製条件を改めて検討することで、ロスが少なく、純度の高い化合物を得られるように工夫できたと思います。

長野さん

本研究で難しかったのは、Maniwamycin G の単離です。田中さんが書かれているようにManiwamycin G は生産量が非常に少ない化合物です。本テーマは私が研究室に配属されてから初めて携わらせていただいた研究テーマだったこともあり、抽出から単離に至るまで全てが学ぶことばかりでした。知識が乏しかった私は単離に至るまでの手法の手順・原理を改めて調べ直し、どこの過程でロスが出るかを理解し直しました。これにより、単離までの一つ一つの手順を確実に行うことができ、ロスの削減につなげることができたかと思います。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

田中さん

私は自分が長生きするためにはどうしたら良いかを学ぶために生物系の分野に進むことにしました。その中で、生化学や分子生物学などの分野を通して、病気の原因やその治療法に興味を持つようになりました。これらは特に、化学を用いて説明されることから、生物を学ぶためには、化学の知識が必要不可欠ということを感じました。今後も、生物の仕組みを理解していくためにも、化学は使いこなせるようにしていかねばならないと考えています。

長野さん

研究室に入り、自らのテーマの研究を進める上で、有機化学を用いた実験を行う場面が多々あり、化学と生物という学問には深い関わりがあることを知りました。自らの研究を進めるうえで欠かすことのできない化学分野の知識を今後とも増やしていき、研究に活かしていきたいです。また、 化学分野に加え、生物という二つの分野に携わることが出来るからこそ、この経験を活かした仕事に将来も携われればと思います。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

田中さん

私が研究室生活を通して重要だと思ったことは、様々な研究について興味を持つことです。他の学生の研究内容や、自分の専門では無い分野の研究に興味を持つことが、新たな知識を得る機会につながるだけでなく、自身の研究の問題解決のきっかけになることありました。「アイデアは知識から生まれる」という言葉がありますが、自分の研究に関係する分野だけを学ぶのではなく、多様な分野に興味を持ち、知識を得ることが新しい研究のアイデアや、問題を解決にするヒントにつながると思います。

長野さん

私は毎日の研究生活の中で、楽しむ気持ちを常にもつようにしています。学生は、実験以外にも様々なことに時間を割かなければなりません。そんな限られた時間の中で、自分の実験が思い通りにいかないこともあるかと思います。私自身うまくいかないことだらけですが、毎日の研究生活の中で小さなことでも、楽しいという気持ちがどこかにあれば根気強く実験を繰り返すエネルギーに変えることが出来ると思います。これからも楽しんで実験頑張りましょう!

田中さん・長野さん

最後になりますが、本研究を遂行するにあたり、熱心にご指導頂いた荒川先生をはじめ諸先生方、研究室のメンバーに厚く御礼申し上げます。

研究者の略歴

名前:田中 悠(たなか ゆう)

略歴:

2020年3月 広島大学工学部第三類 卒業

2020年4月 広島大学大学院統合生命科学研究科 博士課程前期入学

2022年3月 広島大学大学院統合生命科学研究科 博士課程前期修了

現在の所属:科研製薬株式会社 CMCセンター

修士論文題目:窒素・窒素結合を有する放線菌二次代謝産物の生合成機構および生物活性に関する研究

 

名前:長野 遥(ながの はるか)

略歴:

2022年3月 広島大学工学部第三類 卒業

2022年4月 広島大学大学院統合生命科学研究科 博士課程前期入学

所属:広島大学 大学院統合生命科学研究科 細胞機能化学研究室・荒川グループ

研究テーマ:新規アゾキシアルケン化合物の生合成経路解明

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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