[スポンサーリンク]

一般的な話題

ルーブ・ゴールドバーグ反応 その1

[スポンサーリンク]

 

ルーブ・ゴールドバーグ装置(Rube Goldberg Machine)と呼ばれる装置があります。

ボールが転がったりドミノが倒れたりしながら様々なカラクリを通過していく、見ていてとても楽しい装置です。「ピタゴラ装置」などと呼ばれているものが有名です。

タイトル図は「凍りついた道を安全に歩くための装置」!! (Rube Goldberg Machineのサイトから引用しました。)

氷の上で滑ってしまったら……

A パドルを蹴り上げて、

B 指が下がり、

C 亀は指ではじかれると指にかみつくので首がのびて、

D トングが開き、

E 枕が落ちてきて、ふかふかな所に転落して安全!!

装置が作動する前に既に転倒している気がしますが、

そもそも、亀が指にかみつくより先に、装置を取り付けられた犬にかみつかれそうですが、

見ていてとても楽しい装置ですね。

化学反応の反応機構を眺めているとついつい眠くなってしまうこともありますが、眺めていて楽しい反応があればいいですよね。

そんな反応をルーブ・ゴールドバーグ反応と名付け、紹介してみようと思います。

 

*なお、ルーブ・ゴールドバーグ装置は、普通にすれば簡単にできることを、手の込んだカラクリを多数用い、それらが次々と連鎖していく事で表現した装置のことだそうです。しかし今回紹介する反応は、普通にすれば簡単な反応というわけではありません。多数のカラクリを用いており、眺めていて楽しい反応を勝手にルーブ・ゴールドバーグ反応と呼ぶことにしました。誤解のないように念のため補足しておきます。

今回はBrook転位を使った反応をいくつか紹介したいと思います。

 

Brook転位は下図の一般式で示されるシリル基の転位反応です。

2015-06-01_00-48-56

 

これまでに、Brook転位によって生じる炭素アニオンを使った反応が数多く報告されてきました。このアニオンが飛び回る感じがとてもトリッキーで楽しいではありませんか!

だってほら。

A ボールが転がって、

B 棒に衝突することによって棒が回転し、

C 上に置いてある玉が逆方向に転がりだす!

rubegoldberg_reaction1-1.gif

こんなカラクリ装置に似ていませんか?まぁ多少無理やりですが……

 

Brook転位を非常にうまく利用した報告例として、A. B. Smithらによるジチアンを使ったAnion Relay Chemistryが非常に有名です。

Multicomponent Linchpin Couplings of Silyl Dithianes via Solvent-Controlled Brook Rearrangement J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 6925.

rubegoldberg_reaction1-2.gif

A ジチアンの酸性度の高いプロトンが引き抜かれ、

B エポキシドへ求核攻撃し、

C Brook転位によって再び炭素アニオンが生じ、

D エポキシドへの付加

という一連の流れは図の右側(F~J)のカラクリ装置とよく似ていて楽しいです。

 

先ほどは、ジチアンにシリル基が結合した化合物を用いましたが、アシルシランと呼ばれるカルボニルにシリル基が直結した化合物も面白い化合物です。カルボニルがアニオン種によって求核攻撃を受けると、Brook転位を経てその炭素上にアニオンが生じます。

 

SiR3は比較的小さいTMS(トリメチルシリル)基でさえ非常に嵩高い置換基ですが、炭素-ケイ素結合が長いためにアシルシランへの求核攻撃はわりとスムーズに進行するようです。このアシルシランを使った反応は最近でも多く報告されていますが、今回は武田敬らによる中員環天然物の合成を紹介します。

Formal Total Syntheses of (+)-Prelaureatin and (+)-Laurallene by Diastereoselective Brook Rearrangement-Mediated [3 + 4] Annulation J. Org. Chem. 2010, 75, 3941.

PrelaureatinやLauralleneといった8員環エーテル天然物の共通中間体を[3 + 4]アニュレーションという手法を用いて合成しています。この手法は、アクリロイルシランへのエノレートの1,2-付加、Brook転位、炭素アニオンのカルボニルへの付加、Oxi-Cope転位から成り、かなり複雑です。

rubegoldberg_reaction2-1.gif

5員環や7員環の構築および反応機構なども武田先生らによる報告がなされているので調べてみると面白いと思います。

 

ごく最近では、ストリキニーネの6工程合成にもBrook転位が利用されています。

A synthesis of strychnine by a longest linear sequence of six steps Chem. Sci. 2011, 2, 649.

工程数の短縮にこだわった結果であろう合成戦略で、5-10%という意地の収率にて既知のWieland-Gumlichアルデヒドを得ています。

rubegoldberg_reaction3.gif

この末端の水酸基のアニオンが最終的にエナールに1,4-付加する様は、難攻不落の城ストリキニーネも導火線を用いて爆破すれば陥落するかの如く、です。

rubegoldberg_reaction3-1.gif

案外、化学者はこういったカラクリが好きなようです。新しい研究をして周りを驚かせてやろうなどと考えているからでしょうか。自由な文章になってしまいましたが最後まで読んでいただきありがとうございました。

らぱ

らぱ

投稿者の記事一覧

現在、博士課程にて有機合成化学を学んでいます。 特に、生体分子を模倣した超分子化合物に興味があります。よろしくお願いします。

関連記事

  1. 世界の中心で成果を叫んだもの
  2. 「触媒的オリゴマー化」によるポリピロロインドリン類の全合成
  3. 錯体と有機化合物、触媒はどっち?
  4. もう入れたよね?薬学会年会アプリ
  5. 未来の科学コミュニティ
  6. 導電性ゲル Conducting Gels: 流れない流体に電気…
  7. 直鎖アルカンの位置選択的かつ立体選択的なC–H結合官能基化
  8. この窒素、まるでホウ素~ルイス酸性窒素化合物~

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. α,β-不飽和イミンのγ-炭素原子の不斉マイケル付加反応
  2. 2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル保護基 Troc Protecting Group
  3. ブンテ塩~無臭の含硫黄ビルディングブロック~
  4. Reaxys Prize 2013ファイナリスト45名発表!
  5. 伯東、高機能高分子材料「デンドリマー」、製造期間10分の1に
  6. 有機トリフルオロボレート塩 Organotrifluoroborate Salt
  7. スマイルス転位 Smiles Rearrangement
  8. ポリセオナミド :海綿由来の天然物の生合成
  9. 元素周期表:文科省の無料配布用、思わぬ人気 10万枚増刷、100円で販売
  10. グライコシンターゼ (Endo-M-N175Q) : Glycosynthase (Endo-M-N175Q)

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年3月
« 2月   4月 »
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

注目情報

最新記事

KISTECおもちゃレスキュー こども救急隊・こども鑑識隊

おもちゃレスキューに君も入隊しよう!大事なおもちゃがこわれたら、どうしますか? …

ポンコツ博士研究員の海外奮闘録 〜コロナモラトリアム編〜

事実は小説より奇なり。「博士系なろう」という新ジャンルの開拓を目指し,博士を経て得られた文章力を全力…

乙卯研究所 研究員募集

公益財団法人乙卯研究所から研究員募集のお知らせです。自分自身でテーマを決めて好きな有機化学の研究…

SNSコンテスト企画『集まれ、みんなのラボのDIY!』

先日公開されたこちらのケムステ記事と動画、皆さんご覧になって頂けましたでしょうか?https…

可視光レドックス触媒と有機蓄光の融合 〜大気安定かつ高性能な有機蓄光の実現〜

第351回のスポットライトリサーチは、九州大学 安達・中野谷研究室 で研究をされていた陣内 和哉さん…

可視光全域を利用できるレドックス光増感剤

東京工業大学 理学院 化学系の玉置悠祐助教、入倉茉里大学院生および石谷治教授は、新たに合成したオスミ…

【ジーシー】新卒採用情報(2023卒)

弊社の社是「施無畏」は、「相手の身になって行動する」といった意味があります。これを具現化することで存…

有機合成のための新触媒反応101

(さらに…)…

化学者のためのエレクトロニクス講座~電解ニッケルめっき編~

この化学者のためのエレクトロニクス講座では半導体やその配線技術、フォトレジストやOLEDなど、エレク…

その病気、市販薬で治せます

(さらに…)…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP