[スポンサーリンク]

ケムステしごと

BASFとはどんな会社?-1

[スポンサーリンク]

BASF_01.PNG

 今回は世界最大の化学企業、BASFをご紹介します。

Tshozoです。

今回は「どんな会社?」大企業バージョン、BASFを紹介致します。世界最大の化学企業のことをあまりご存知ない方が多いのではと思い、投下することにしました。どうかお付き合いください。

BASFとは「Badische Anilin und Soda Fabrik」、「バーデンアニリン炭酸化工」のドイツ表記の頭文字を取ったもので、正式には「ベーアーエスエフ」と読みます。2011年時点で名実ともに世界最大の化学会社で、これまで数々の金字塔を打ち立ててきました。そのBASFは一体どのようなコンセプトに基づき研究活動を進めているのでしょうか? その一端が少しでも伝わればうれしい限りです。有難いことに同社はシンポジウム等で研究姿勢を明示するプレゼンを多数実施しており、本内容もそれを参考にしております。最後にまとめて資料の出先を紹介しますので、興味のある方は是非ご覧ください。

まずは同社の紹介と沿革から始め、現在どのような仕組みで研究活動を続けているのかを1回目(今回)として紹介し、2回目(次回)で近々の研究成果を紹介していきます。

 

 1.BASFの粗い研究史

BASFの歴史はかなり長いので、創業期をやや詳しく、その後をサマリーとしてご紹介します。

『創業期』

BASFの創業者はFriedlich Engelheimという方です。イギリスのPerkinによりAniline染料が開発されたのを受け、ガス灯からのタール回収という小まい事業から染料事業へと大きく舵を切りました。具体的には1867年に「Fuchsine染料(紫)」の無ヒ素合成技術をフランス人化学者から買上げ、その技術を応用してAniline系染料、Induline系染料の合成に成功、さらに染料界に革命を起こした「Indigo(藍)」を合成、一大染料会社として事業を拡大していくことになります。なおこのころ、社名ともなるSoda(炭酸ナトリウム)の事業化にも乗り出しました。

BASF_02

 『その後』

その後をざっとまとめると(乱暴)下図のようになります。「社外有識者の発見・知見を有効に育てて事業を拡大する」というモデルが染料開発の頃から共通して存在することがわかります。実はIndigoもそうで、後にBoschを見出したBrunck社長が大枚をはたいて研究を行い上市に成功したのでした。

このモデルはBASFの企業文化ともなっていきます。大体30年ごとに極めてインパクトの高い成果を出している周期性も気になるところです(なお戦争犯罪に問われた化学トラスト「I.G.Farben」を主導する期間があります。この点は本件と趣旨が異なるため割愛しますが、以前紹介した「大気の錬金術」に詳しく記載されていますのでそちらをご覧ください)。

BASF_03.PNG

BASFの金字塔の数々・我々の生活にインパクトを与えるものばかり

HaberとBosch、高分子の開祖Staudinger、Wittigなど高名なメンバが勢ぞろい

 2.現在のBASFの研究体制

まず同社がどのくらい「将来のメシのタネ」に投資しているかを紹介しましょう。2011年に同社が投下した研究費は約15億ユーロ(約2000億円・研究人員は約1万人)です。もちろん十分多いのですが、2011年度売上げ8兆円に対し比率は約2.5%とやや少ない感は否めません(例:富士フィルムや住友化学で6%程度)。

BASF_05

2011年のBASF研究投資総額と投下割合・アグリ関係が多いのが特徴

“Corporate Research” とは分野を絞らず長期的に行う企業内研究のこと

 この資本不足を補っていると考えられるのは同社の文化とも言える「外部の活用」です。同社の資料内では「Open Innovation」と呼んでいますが、要は自前で全部やらず、外部(企業・研究機関)の知見をうまく活用しようという仕組みを作っているのです。

BASF_07

BASFの研究システム概念図

 1990年代は80%近くの研究開発活動を欧州圏内で行っていましたが、現在ではNAFTAやアジアへシフトが進んでいます。またその数もこの15年で6倍と巨大になっていることがわかります。

BASF_08

BASFの研究開発数と地域変遷

この数のうち5割が企業相手、残り5割が大学・研究機関相手

 ところが・・・こんなの一般の化学会社ならどこでもやってるはずだと考えた方。その通りです。以前紹介した3M然り、JSR然り、今後紹介しようと思っているDow、Dupontなど、日米欧限らず世界中の社外(大学・企業・研究機関)を活用しまくっており、BASF特有の特徴でも何でもないんじゃないかと。自分も最初そう思いました。

ですが、BASFが決定的に異なる点があります。それは同社の事業範囲です(下図は2006年時点の結果ですが、現在もほぼ同じです)。

BASF_06

1990年~2006年までの主要化学企業の事業範囲変遷

 つまりICIやHoechstなど、他の巨大化学会社が1社であることを『諦めた』現在、BASFは「川上から川下まで」のテクノロジーにアクセス出来る唯一の会社なのです。製薬もアボット・ラボラトリーズへ売却しましたが医薬品原料合成は継続していますので、一部継続しているようなものです。

【以降はかなり筆者の解釈が入りますのでご参考程度に・・・】この事業範囲の広さは他の会社に比し、研究開発の成功率という点で大きな差を生むと思います。3M社の哲学と共通するのですが、「広範囲のレベルの高いテクノロジーにすばやくアクセス出来る」ことで開発プロジェクト成否を早いタイミングで実証・判断出来ることにつながるからです。

もちろん、上記のテクノロジー保有のためには採算上の重荷が伴います。Dow Chemicalを除く多くの企業はこの採算上の都合から、分社化という道を選んでいます。ただこの分社化はInnovationに対し「組織の壁」という見えざる不利益をもたらします。

企業内に居るとわかるのですが、同じ系列・看板下の企業と言えど「別会社」という垣根は心理的・物理的に非常に大きく、ちょっとした相談でも具体的まで進められない場合が数多くあります。

BASFはおそらくこの組織の壁の発生によるコミュニケーションの阻害、それによるInnovationの阻害を危惧し、敢えて分社化を避け1企業として生きていく選択をしているのではないかと思います。ビジネスの場が世界中に広がり、各社が巨大戦艦(1社統合)から駆逐艦(分社化)へと戦略を進める中で戦艦であることを選択したBASF。この選択がどのような結果になるかは「神のみぞ知る」ですが、戦艦好きの筆者としては応援したいところであります。

では今回はここまで。次回は、このBASFの研究開発スタイルにより上市された近々の研究成果をご紹介しましょう。

【参考文献・下記のリンク先をご参照ください】

Avatar photo

Tshozo

投稿者の記事一覧

メーカ開発経験者(電気)。56歳。コンピュータを電算機と呼ぶ程度の老人。クラウジウスの論文から化学の世界に入る。ショーペンハウアーが嫌い。

関連記事

  1. 第七回ケムステVプレミアレクチャー「触媒との『掛け算』で研究者を…
  2. 超微量紫外可視分光光度計に新型登場:NanoDrop One
  3. アメリカで Ph.D. を取る –奨学金を申請するの巻–
  4. 共有結合性有機構造体(COF)の新規合成・薄膜化手法を開発
  5. 有機光触媒を用いたポリマー合成
  6. ルイス酸/塩基でケイ素を操る!シリレンの原子価互変異性化
  7. 水素社会~アンモニアボラン~
  8. 日本薬学会第144年会付設展示会ケムステキャンペーン

注目情報

ピックアップ記事

  1. プロセス化学ー合成化学の限界に挑戦するー
  2. 白血病治療新薬の候補物質 京大研究グループと日本新薬が開発
  3. 可視光光触媒でツルツルのベンゼン環をアミノ化する
  4. 第15回日本化学連合シンポジウム「持続可能な社会構築のための見分ける化学、分ける化学」
  5. 有機反応を俯瞰する ー挿入的 [1,2] 転位
  6. ハートウィグ有機遷移金属化学
  7. 有機合成化学協会誌2021年5月号:『有機合成のブレークスルー』合成反応の選択性制御によるブレークスルー
  8. ソウル大教授Nature Materials論文捏造か?
  9. メタンハイドレートの化学
  10. ピラーアレーン

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年8月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

【産総研・触媒化学研究部門】新卒・既卒採用情報

触媒部門では、「個の力」でもある触媒化学を基盤としつつも、異分野に積極的に関わる…

触媒化学を基盤に展開される広範な研究

前回の記事でご紹介したとおり、触媒化学研究部門(触媒部門)では、触媒化学を基盤に…

「産総研・触媒化学研究部門」ってどんな研究所?

触媒化学融合研究センターの後継として、2025年に産総研内に設立された触媒化学研究部門は、「触媒化学…

Cell Press “Chem” 編集者 × 研究者トークセッション ~日本発のハイクオリティな化学研究を世界に~

ケムステでも以前取り上げた、Cell PressのChem。今回はChemの編集…

光励起で芳香族性を獲得する分子の構造ダイナミクスを解明!

第 654 回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 協奏分子システム研究セ…

藤多哲朗 Tetsuro Fujita

藤多 哲朗(ふじた てつろう、1931年1月4日 - 2017年1月1日)は日本の薬学者・天然物化学…

MI conference 2025開催のお知らせ

開催概要昨年エントリー1,400名超!MIに特化したカンファレンスを今年も開催近年、研究開発…

【ユシロ】新卒採用情報(2026卒)

ユシロは、創業以来80年間、“油”で「ものづくり」と「人々の暮らし」を支え続けている化学メーカーです…

Host-Guest相互作用を利用した世界初の自己修復材料”WIZARDシリーズ”

昨今、脱炭素社会への実現に向け、石油原料を主に使用している樹脂に対し、メンテナンス性の軽減や材料の長…

有機合成化学協会誌2025年4月号:リングサイズ発散・プベルル酸・イナミド・第5族遷移金属アルキリデン錯体・強発光性白金錯体

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年4月号がオンラインで公開されています!…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP