[スポンサーリンク]

一般的な話題

“マイクロプラスチック”が海をただよう その2

[スポンサーリンク]

Tshozoです。マイクロプラスチックの悪影響の続き(前回記事)。まだまだこんなものではなさそうで、物理的に呑み込んでも面倒ですが化学的にはどんな悪影響が懸念されるのでしょうか。

悪影響の詳細-その2

前回の記事で、物理的に腹に詰まる、ということを書きました。これは詰まらんくて喰った後に排出された後の話。ただよってる間に、一杯有害物質をくっつけてしまうようなのです。

その代表例がPCB(ポリ塩化ビフェニル)→ 。 これは相当に非常に毒性の高い材料(油系)で昔よく絶縁油等に使われてたのですが、こうしたマイクロプラスチック(油系)にはかなり親和性がよいのか、吸着しやすいみたいなのです。下の図はそれが世界中に存在するということを示すものです。分量は樹脂ペレット1gあたりngレベルとまぁ非常に少ないのですが、PCB「だけ」でこれだけあるんですから、他のものも併せるとどうなることやら。都市 沿岸部を中心に発生しており空恐ろしくなります。

PW_08.png単位はng/1gペレット こちらより引用(元論文) → 

PW_10.pngちなみに樹脂ペレットはこんな感じのもの これを溶かして成形したりイロイロする

 そして、これが一過性でない。下記の図は、人間の寿命に対してこうしたプラスチック類がいかに長く存在するか、ということを示したものです。つまりこの間マイクロプラスチックはいろんな面倒なものを吸着しつつ、小さく壊れてまたさらに表面積が増えて色々吸着して・・・というように何年もへたすりゃ何百年もグルグル世界中を旅することになります。海底にも堆積しているという報告もあり、実は凄まじい量が既に世界中に出ているんではという気がしています。

PW_11.png如何に長くプラ類等が海洋中で存在するかを示す非常にわかりやすい図
こちらより筆者が加筆して引用 → 

 加えて世に回ってるのはポリプロピレンのような汎用性プラスチックだけではなく、「超耐熱」とか「超耐久」とかいう、いわゆるエンジニアリングプラスチックも存在します。こいつはまたさらに分解されにくく、いっそのこと「リサイクルも面倒なので全部燃やしてしまえ」、という暴論すら結構妥当なのではないかという気にすらなります。

PW_13.pngエンプラ類の分子構造
使用状況にもよるが、
ポリエチレン等よりもずっと強靭で分解されにくい

どう防ぐか

化学に携わっているものとして商売に差し障りがあるのであんまり言ってはならんことかもしれませんが、

使わない、使うにしても最小限にする、漏れ出させない

が基本かと。なお今回のように「漏れ出した」プラスチック分は回収しなくちゃいかんのですが、誰がどの負担でやるねん、ということはルールにすらなってません。要はお互い様なのですが、今のところ捨てたもん勝ち。おかしいですね。WTOとかのおカネにからむような話はガンガン進めるのに。こういう国家間で発生する廃棄物の「輸出」も本気で国家間の枠組みを作って責任を応分してやらないと、近いうちにリョコウバトの悲劇のような事象が起こらないとも限りません。というか、起きてるかもしれません。危機を煽るつもりはありませんがこの点に関してはオオカミ少年になっても少なくとも悪い方にはいかない気がしています。

PW_12.jpgアメリカリョコウバト 20世紀の初頭に絶滅 かつては数億羽いたと言われる

 なお作ったもん(化学会社)が最後まで責任を持て、という意見を見たことがありますが、それもあまりにも極端な気がします。もしそれをやるとするといろんなものの価格が凄まじく高騰するんじゃないでしょう。もちろん生産者の自発的な取組みとして、そういう仕組みはある程度必要だと思いますが、全部その責任を生産者に押し付けるというのは「消費者の暴力」ではないかという印象すら受けます。互いに応分の負担をしながら被害を最小限に食い止める、それがあるべき形だと思います。

ともかく根本的な解決は出来なくとも、日々の行動と仕事を規律することはできるはず。ものぐさな筆者ですが、それくらいは最大限試みたいものです。

それでは今回はこんなところで。

参考文献

元記事 ”Tiny plastic dwellers have big impact on our oceans” → 

“Algalita Marine Research Institute” → ●
UNEP報告書 2011年度 ”Plastic debris in the ocean” → 
Maria Gorycka “ENVIRONMENTAL RISKS OF MICROPLASTICS” → 
“Unrecognised Pollutant Risks to the Great Barrier Reef” →
“Plastic Debris in the California Marine Ecosystem” → 
“Macroplastics, microplastics and environmental impacts” Amsterdam University → 
“Concentrations of PCBs in beached plastic pellets” Teuten et al. (2009) → 
“Microplastics in Facial Exfoliating Cleansers” → 

Avatar photo

Tshozo

投稿者の記事一覧

メーカ開発経験者(電気)。56歳。コンピュータを電算機と呼ぶ程度の老人。クラウジウスの論文から化学の世界に入る。ショーペンハウアーが嫌い。

関連記事

  1. 無保護アミン類の直接的合成
  2. 韓国チームがiPS細胞の作製効率高める化合物を発見
  3. ノーベル化学賞受賞者に会いに行こう!「リンダウ・ノーベル賞受賞者…
  4. 化学者も参戦!?急成長ワクチン業界
  5. 核酸医薬の物語1「化学と生物学が交差するとき」
  6. 研究助成金及び海外留学補助金募集:公益財団法人アステラス病態代謝…
  7. 決め手はジアゾアルケン!!芳香環の分子内1,3-双極子付加環化反…
  8. 「脱芳香族的二重官能基修飾化反応の研究」ーイリノイ大学David…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 偶然生まれた新しい青色「YInMnブルー」の油絵具が日本で限定発売される
  2. ペッカ・ピューッコ Pekka Pyykkö
  3. 国公立大入試、2次試験の前期日程が実施 ~東京大学の化学の試験をレビュー~
  4. 電気化学ことはじめ(2) 電位と電流密度
  5. エーザイ 巨大市場、抗ガン剤開発でライバルに先行
  6. Mestre NovaでNMRを解析してみよう
  7. MSI.TOKYO「MULTUM-FAB」:TLC感覚でFAB-MS測定を!(2)
  8. 始まるPCB処理 利便性追求、重い代償
  9. 未来のノーベル化学賞候補者
  10. 新コンテンツ「ケムステまとめ」をオープン

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2014年9月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP