[スポンサーリンク]

一般的な話題

韓国チームがiPS細胞の作製効率高める化合物を発見

[スポンサーリンク]

GREEN2012RSC133t.png

アンゲバンテ・ケミ―』と言えば、インパクトファクター10超、化学専門誌の中でもハイインパクト雑誌として有名です。2012年9月[1]、iPS細胞(誘導多能性幹細胞)の作製効率を高める物質が、この有名誌に報告されました。自前のケミカルライブラリーから選抜、構造活性相関を経て構造展開された分子は、C18H15N3O2,原子数38,分子量302の物質です。

※参考:ケムステ記事「化学物質でiPS細胞を作る

何千何万という化合物を図書館のごとく膨大に集めたケミカルライブラリーから新規有用化合物を選抜した報告が、最近は多いですね。レポーターアッセイ系の整備にともない、化合物の莫大な組み合わせを取り扱うコンビナトリアルケミストリーの分野も新しいフェーズに移行しているのでしょうか。「特定の遺伝子産物の機能だけ特異的に影響する化合物が必ずあるはずだ」というケミカルゲノミクスの考え方も、現実味を帯びはじめているのかもしれません。

 

  • コードネーム:再分化刺激化合物RSC133

山中因子(ケムステ記事「化学物質でiPS細胞を作る」参照)のひとつOct4遺伝子と、GFP緑色蛍光タンパク質)遺伝子の、融合産物を培養細胞で発現させ、蛍光を指標に選抜したとのこと。自前のケミカルライブラリーから、こうしてモノを取りました。

GREEN201212RSC133b.png

GFP(Green Fluorscent Protein)を活用したハイスループットスクリーニング

そこから構造活性相関を経て構造展開された分子がこちら[1]。ほう、不斉点もなく簡単に合成できそうですね。

GREEN201212RSC133a.png

再分化刺激化合物RSC133の構造

標的タンパク質はと言うと、コンピュータシミュレーションによればDNAメチル化酵素。予想通り、培養細胞にモノを投与して、細胞抽出液を調べてみると、酵素活性も下がっていたとのこと。計算機上(in silico)と生細胞上(in vivo)のデータがあっても、精製した酵素タンパク質標品を使ったガラス器具上(in vitro)のデータがないようなので、ホントにDNAメチル化酵素が標的かは分かりませんが……。まぁDNAメチル化酵素阻害剤アザシチジン(ケムステ記事「化学物質でiPS細胞を作る」参照)が先行報告[2]されていたので、たぶんそうだ、と言いたいのでしょう。

DNAメチル化制御と言えばエピジェネティクスですか。

この化合物を上手く使えば、iPS細胞の作成期間も短縮され、培養液や維持費などに必要な費用も低減できるとのこと。韓国に負けず、日本の研究陣にも、引き続き期待したいところです。

  • 参考文献

[1] "A Novel Small Molecule Facilitates the Reprogramming of Human Somatic Cells into a Pluripotent State and Supports the Maintenance of an Undifferentiated State of Human Pluripotent Stem Cells." Lee J et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2012 DOI: 10.1002/anie.201206691
[2] "Dissecting direct reprogramming through integrative genomic analysis." Mikkelsen TS et al. Nature 2008 DOI: 10.1038/nature07056

 

  • 関連書籍

 

 

Avatar photo

Green

投稿者の記事一覧

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. 巧みに設計されたホウ素化合物と可視光からアルキルラジカルを発生さ…
  2. MEDCHEM NEWS 33-3 号「30年後の創薬研究」
  3. ルイス酸/塩基でケイ素を操る!シリレンの原子価互変異性化
  4. 「anti-マルコフニコフ型水和反応を室温で進行させる触媒」エー…
  5. 有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコ…
  6. 紫外線に迅速応答するフォトクロミック分子
  7. 近赤外光を青色の光に変換するアップコンバージョン-ナノ粒子の開発…
  8. 研究者のためのCG作成術③(設定編)

注目情報

ピックアップ記事

  1. 研究活動の御用達!PDF加工のためのクラウドサービス
  2. スタンリー・ウィッティンガム M. S. Whittingham
  3. チアゾリジンチオン
  4. 化学でもフェルミ推定
  5. 化学のあるある誤変換
  6. プメラー転位 Pummerer Rearrangement
  7. ペプチド縮合を加速する生体模倣型有機触媒
  8. 第16回 結晶から結晶への化学変換 – Miguel Garcia-Garibay
  9. ガラス工房にお邪魔してみたー匠の技から試験管制作体験までー
  10. 手術中にガン組織を見分ける標識試薬

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年12月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

注目情報

最新記事

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコゲン結合・有機電解反応・ロタキサン・配位重合

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年3月号がオンラインで公開されています!…

CIPイノベーション共創プログラム「未来の医療を支えるバイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第105春季年会(2025)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「未来の医療…

OIST Science Challenge 2025 に参加しました

2025年3月15日から22日にかけて沖縄科学技術大学院大学 (OIST) にて開催された Scie…

ペーパークラフトで MOFをつくる

第650回のスポットライトリサーチには、化学コミュニケーション賞2024を受賞された、岡山理科大学 …

月岡温泉で硫黄泉の pH の影響について考えてみた 【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい! というわけで、硫黄系温泉を巡る旅の後編です。前回の記事では群馬県草津温泉をご紹…

二酸化マンガンの極小ナノサイズ化で次世代電池や触媒の性能を底上げ!

第649回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院環境科学研究科(本間研究室)博士課程後期2年の飯…

日本薬学会第145年会 に参加しよう!

3月27日~29日、福岡国際会議場にて 「日本薬学会第145年会」 が開催されま…

TLC分析がもっと楽に、正確に! ~TLC分析がアナログからデジタルに

薄層クロマトグラフィーは分離手法の一つとして、お金をかけず、安価な方法として現在…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP