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偶然生まれた新しい青色「YInMnブルー」の油絵具が日本で限定発売される

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2009年、オレゴン州立大学にて電子工学の実験で偶然生まれた新しい青色の顔料「YInMnブルー」。美しいだけでなく、従来の青い顔料のような毒性を持たず、耐久性もあり、赤外線を反射するので建物の中を涼しく保つ効果が期待できる次世代の青色なんです。その「YInMnブルー」が寺田倉庫株式会社の画材ラボ「PIGMENT TOKYO」より、20mlのチューブに入って数量限定8,800円で発売されました。(引用:GIZMODO7月7日)

色は人の心理と行動に与えると言われており、看板や建造物には目的に応じてカラーが使われています。青色は、爽快感、冷静を与えるため夏の季節には生活品に多用されています。そんな青色に関して新しい顔料「YInMnブルー」を使った油絵具が日本で発売されました。

YInMnブルーは名前の通り、イットリウムとインジウム、マンガンが含まれており組成式はYIn1-xMnxO3です。この素材はオレゴン州立大学のMas Subramanian教授のグループが、エレクトロニクス向けの無機固体材料を研究していた時に発見し、青色色素として有望であることを見出してJACSに発表しました。

そもそも既存の青色にはいくつかの課題があり、例えばコバルトブルーにはコバルトの毒性が懸念され、プルシアンブルーも酸性下でシアン化水素が放出されるリスクがあります。ウルトラマリンアズライトは熱や酸に対して不安定で、安定性、安全性、元素の入手性すべてが良好な青色色素を作ることは大きな課題でした。そんな状況の中、酸化イットリウムと酸化インジウムに対して酸化マンガンを添加して焼成すると鮮やかな青色を示すことが確認されました。この現象を示す構造特異性について単結晶構造解析やDFT計算の結果から、マンガンイオンが三方両錐形で配位しているからだと論じられています。

3:00付近から発見の経緯、5:27付近から結晶構造の説明

YInMnブルーには近赤外光を良く反射するという建築材料にとっては好都合な性質を持っていて、また酸や塩基に対しても安定であるため新しい色素として有望であることが分かりました。研究グループでは特許を論文発表前に出願しており、無機複合酸化物系顔料を製造・販売しているShepherd Color社がライセンス契約を締結し製品化を行っています。

画材を取り扱うPIGMENT TOKYOではYInMnブルーの粉体とアクリル絵具を販売されていましたが、今月より数量限定で油絵具として発売されました。

20 mlで8800円と他の青色の油絵具よりお高いですが、一線を画す非常に鮮やかな発色をするそうです。水彩画用絵具を使った比較をみると、他の青色よりも深い青色でより一層涼しく感じる気がします。

化学的な興味としては、光に対してどれほどの耐久性があるのか関心があり、この絵具を建材などに塗布して耐久性を他の青色と比べると面白いと思いました。この色素がよりいろいろなところで使われるようになることを期待します。

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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