[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

未来のノーベル化学賞候補者

[スポンサーリンク]

今年のノーベル化学賞はゲルハルト・エルトゥル氏に決定しました!(詳しくはケムステニュースにて)

予想が見事に当たった!・・・とは言えませんが、なんとか数多くの予想候補者の中から選ばれ、すこしほっとしたところです。

それでは最後に何年何十年先になるかわかりませんが、「未来のノーベル化学賞受賞候補者」として何人か紹介しましょう。

John F. Hartwig, Stephen L. Buchwald (有機金属触媒)

nobel

両者とも有機金属、特にパラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、銅を用いたアミンのカップリング反応をメインに研究を行っています。有名なものはBuchwald-Hartwigクロスカップリング。アリールハライド・アリールトリフラートとアミン・アルコキシド間の、パラジウム触媒によるクロスカップリング反応です。

2015-09-14_21-39-43

Buchwald-Hartwigクロスカップリング

 

高価なパラジウムを使用する必要がありますが、求核置換反応では通常合成不可能なアリールアミン・アリールエーテルが直接合成できる数少ない方法論です。医薬品を始めとし、含窒素芳香族化合物の需要はきわめて高く、有用性の高い反応のひとつといえます。

その他にもアトムエコノミーが高いヒドロアミノ化反応やその不斉触媒化など、様々な研究を行っています。それと同時に、反応のメカニズムをよく考察し、これらの反応機構をあきらかにしています。

とても素晴らしい業績ですが、正直言ってまだノーベル化学賞をとるにはインパクトが足りません。もし、鈴木章北大名誉教授や辻二郎元東工大教授、玉尾教授らがノーベル賞をとれなければ、一躍ノーベル化学賞候補者に躍り出るかもしれません。まだまだ若いのですぐにとれるといわけではなさそうですが、10年、20年たてば、この反応をもとにしたさらに優れた反応、もしくは彼ら自身がさらなる研究を行うことで、全く新しいを見出す可能性は大いにあります。というわけで、この2人を未来のノーベル化学賞受賞者候補としてあげておきます。

[追記] 2010年のノーベル化学賞は「クロスカップリング反応」が対象となりました。その為、この両者の本分野でのノーベル化学賞は難しいかもしれません。

K. B. Sharpless (クリックケミストリー)

nobel

シャープレス教授は2001年に「触媒的不斉酸化反応の開発」の業績により、野依良治ウィリアム・ノールズとともにノーベル化学賞を共同受賞しています。それなのに、なぜ今回未来のノーベル化学賞受賞者にあげたか――現在彼は研究テーマを完全に一新して、今までとはまったく異なるテーマ「クリックケミストリー」のみを推進しており、またそれが化学的に大変面白いコンセプトだからです。

クリックケミストリーとは、カチッ(Click)と音を立てて結合するような高官能基選択性・高収率・高速反応を基盤として、様々な医薬候補化合物・バイオプローブ・マテリアル創製などを目指す化学です。アジドとアルキンを用いるHuisgen[3+2]環化が、その代名詞的反応として知られています。

Huisgen[3+2]環化


  最近、このコンセプトをもとにした多くの論文が、シャープレス研のみならず、多数の研究グループから報告されてきています。

ツールとして広く使われているとはまだ言えませんが、近い将来、このコンセプトから生物学的・材料化学的技術が生まれてくるかもしれません。化学者フレデリック・サンガーがノーベル化学賞を2度獲得したように、再びノーベル賞を取れる可能性は十分に秘めています(※サンガーはサンガー法と呼ばれるタンパク質のアミノ酸配列決定法、DNA塩基配列の決定法を確立し、これによってノーベル賞を2度受賞している。RNAの配列決定法も確立しており、その業績から3度目もあり得るとすら言われている)。

David W. C. MacMillan (有機分子触媒)

nobel

触媒といえば、なんらかの金属を含む化合物を思い浮かべるかもしれません。しかし、有機分子そのものを触媒として反応を行うことができれば、扱い構造のチューニングが簡単かつ、安定・安価・環境に優しいなどのメリットがあります。このような触媒を有機分子触媒とよび、金属触媒の問題点を克服するアプローチの一つとして注目を浴びています。金属では進行させられない反応を触媒するものすらあります。

分野の中心的存在となっているのが、プリンストン大学のマクミラン教授。プロリンや、二級アミン有機分子触媒を用いる斬新な不斉合成法の開発で、世界をリードしています。安価なアミノ酸であるプロリンを使った不斉触媒分子間アルドール反応を発見したのは、スクリプス研究所のBarbas教授、Listらですが、それを超える勢いで新反応を開発しています。

2015-09-14_21-42-17

List-Barbas アルドール反応

アメリカ化学会もかなり彼に期待しているようです。触媒の反応性が低く、基質一般性に劣る、触媒の使用量が多いなど現状問題点は多数ありますが、触媒量を低減することができたなら、工業的に使われる可能性も大いに秘めています。マクミラン教授は未だ40歳前ですし、20年以内にノーベル化学賞を取る可能性もあるのではないでしょうか。

様々な有機分子触媒(中央がマクミランの開発したMacMillan触媒)

 

Phil S. Baran (天然物合成)

nobel

天然から産出される生物学的・有機合成化学的に「面白い」化合物を、いかにして人工的に合成するか?――そういった研究は100年以上前から行われており、ハーバード大の故ウッドワード教授、同じくハーバード大のコーリー教授などがその代表的研究者としてあげられます。ウッドワードの再来、ポストコーリー、合成化学のライジングサンと称される、スクリプス研究所のバラン教授はいまだ30歳。26歳のときから既に研究室を運営しており、多くの複雑な骨格を有する天然物をいとも簡単に合成しています。

最近になって彼は、Natureに「保護基フリーの天然物の全合成」を報告しました。これは純粋な天然物合成では稀なことであり、サイエンスとして認められる研究を行っている証拠でもあります。「天然物合成はもはやサイエンスではない」と言われて月日が経っているなかで、こういう優れた研究を行うグループもあるわけです。

同じく天然物合成分野でノーベル化学候補者にも挙げられていた、スクリプス研究所のニコラウ教授、コロンビア大学のダニシェフスキー教授、オックスフォード大学のレイ教授でも成しえていない「天然物合成でのノーベル化学賞」をいつの日か成し得る時が来るかもしれません。

とはいえ正直なところを言えば、化合物の酸化段階が少なく、カスケード反応(連続的な反応)によりうまく作っているように見せられる化合物を選択しているなど、ノーベル化学賞には程遠いのが現状です。ほとんど方法論が確立されているポリケチド系の化合物や、酸化段階が高いために既存法ではどんなに多段階かけても作れない化合物、テルペン系の化合物なども、このようにいとも簡単に作ることができたなら、「21世紀のアートな天然物合成」で受賞できる可能性はあるのではないでしょうか。

次回に続きます。

webmaster

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 化学者が麻薬を合成する?:Breaking Bad
  2. 含ケイ素三重結合化合物(Si≡Mo、Si≡C)
  3. 【マイクロ波化学(株)環境/化学分野向けウェビナー】 #CO2削…
  4. 第一手はこれだ!:古典的反応から最新反応まで3 |第8回「有機合…
  5. 化学の力で複雑なタンパク質メチル化反応を制御する
  6. 細胞を模倣したコンピューター制御可能なリアクター
  7. 第九回ケムステVシンポジウム「サイコミ夏祭り」を開催します!
  8. 渡辺化学工業ってどんな会社?

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. Al=Al二重結合化合物
  2. 福山還元反応 Fukuyama Reduction
  3. 夏の必需品ー虫除けスプレーあれこれ
  4. 【速報】2018年ノーベル化学賞は「進化分子工学研究への貢献」に!
  5. バイエルスドルフという会社 ~NIVEA、8×4の生みの親~
  6. 導電性高分子の基礎、技術開発とエネルギーデバイスへの応用【終了】
  7. 第139回―「超高速レーザを用いる光化学機構の解明」Greg Scholes教授
  8. 「未来博士3分間コンペティション2020」の挑戦者を募集
  9. バルツ・シーマン反応 Balz-Schiemann Reaction
  10. ついにシリーズ10巻目!化学探偵Mr.キュリー10

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2007年10月
« 9月   11月 »
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

注目情報

最新記事

自己組織化ねじれ双極マイクロ球体から円偏光発光の角度異方性に切り込む

第327回のスポットライトリサーチは、筑波大学大学院数理物質科学研究科 物性・分子工学専攻 山本・山…

第159回―「世界最大の自己組織化分子を作り上げる」佐藤宗太 特任教授

第159回の海外化学者インタビューは日本から、佐藤宗太 特任教授です。東京大学工学部応用化学科に所属…

π-アリルイリジウムに新たな光を

可視光照射下でのイリジウム触媒によるアリルアルコールの不斉アリル位アルキル化が開発されたキラルな…

うっかりドーピングの化学 -禁止薬物と該当医薬品-

「うっかりドーピング」という言葉をご存知でしょうか。禁止薬物に該当する成分を含む風邪…

第五回ケムステVプレミアレクチャー「キラルブレンステッド酸触媒の開発と新展開」

新型コロナ感染者数は大変なことになっていますが、無観客東京オリンピック盛り上がっ…

がん治療用の放射性物質、国内で10年ぶり製造へ…輸入頼みから脱却

政府は、がんの治療や臓器の検査をする医療用の放射性物質の国内製造を近く再開する。およそ10年ぶりとな…

三洋化成の新分野への挑戦

三洋化成と長瀬産業は、AI 技術を応用した人工嗅覚で匂いを識別する「匂いセンサー」について共同で事業…

ケムステSlack、開設二周年!

Chem-Stationが立ち上げた化学系オープンコミュニティ、ケムステSlackを開設して早くも二…

過酸がC–H結合を切ってメチル基を提供する

光増感剤とニッケル触媒を用いたC(sp3)–Hメチル化が開発された。合成終盤でのメチル化に威力を発揮…

化学の祭典!国際化学オリンピック ”53rd IChO 2021 Japan” 開幕!

2021年7月「オリンピック/パラリンピック 東京2020大会」も無観客ではあるものの無事開幕されま…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP