[スポンサーリンク]

一般的な話題

電気化学ことはじめ(2) 電位と電流密度

[スポンサーリンク]

前回の記事ではざっくりと測定をするために必要なセットアップについて紹介しました。今回はもうちょっと原理的なところに立ち返って、測定で実際に観測される電位と電流密度について説明していきます。

そもそも酸化還元反応とは?

さて確認ですが、水は常温で放っておくと水素と酸素に分かれるでしょうか?答えはNoです。室温での地球上には非常に多くの水が存在していますよね。水を水素と酸素に分ける反応は吸熱的であり、実に1.23 eVもの電位が熱力学的に必要です。実際に水を電気分解するにあたっては多電子反応であるために速度論的に遅く、より大きな電位差が必要となります。ここからわかることとして、酸化還元試薬を用いる化学反応においては、ほぼ発熱的な条件下において実験を行うことが必要となります。分子系の反応では電位を制御することができないので、”強い”酸化剤、”強い”還元剤が必要となってきます。例えば、酸化剤のニトロソシウムと還元剤のナフタレニドを使うときには、脱水処理や色々準備が必要かと思います。一方で、それぞれの1電子移動に伴う酸化還元電位はフェロセン/フェロセニウムの酸化還元電位を基準として、+1 V vs. Fc/Fc+、-3 V vs. Fc/Fc+であることが知られています。それでは”強い”と”弱い”ってなんでしょうか?

図1.典型的な酸化還元試薬の電位。数字は文献1より借用。

強い、弱いを規定するための電位 -電位とpHの類似性-

さきほどの”強い”、”弱い”を規定するために、重要となるのが電位です。変な例ではありますが、寒い、暑いという感覚的なパラメータを説明するためには温度が必要となり、そのためには絶対零度や0度などといった基準が必要となります。同様の議論で電位を規定するためには基準が必要となり、理論的な一つの基準は真空準位です。真空準位は荷電粒子が周りからのクーロン相互作用を感じない状態で運動エネルギーが0の状態として定義され、そこからの相対的なエネルギーとして電位が規定されます。先程の温度との類似性という意味では真空準位は絶対零度、適当な参照電極というのは摂氏温度や華氏温度に相当します。また電位と電圧は違っており、それらの差は絶対的であるか、相対的であるかという点です。

それでは電位のアナロジーとして緩衝溶液のpHの概念から説明していきます。Henderson-Hasselbalchの式とNernstの式を並べてみます。

 {\rm pH = pKa+log{[A^-]\over[HA]}}</p>  <p>{\rm E = E_0+{RT\over nF}ln{a_{ox}\over a_{red}}}</p>

あれ??、というくらいほぼ同じです。緩衝溶液では酸と共役塩基の割合を10倍変化させるとpHが1ずれますが、電気化学では酸化還元体の濃度比は10倍変化させると59 mV電位が変わります。そして重要なことに酸塩基あるいは酸化体還元体の濃度比を変えることによりpHあるいは電位を精密に変えることができます。

それでは考え方を変えてみましょう。酸化体と還元体の濃度比を変化させたい(反応させたい)ときには酸化反応であれば、酸化体の濃度を高くすることが必要になります。このことはNernst式から考えると、基準となる酸化還元電位より高い電位に電位を設定することにより、自発的に酸化反応が進行するということに相当します。一方で還元体においては、還元体の濃度を高くしたいので、基準となる酸化還元電位より低い電位に設定することにより、自発的に還元反応を進行することが可能となります。

さてそれでは電気化学が得意としている電極と分子系に対して話をもどしましょう。電気化学がの特異性としては電極の有する電極電位を自由自在に変化することができるという点です。電気化学電位を掃引することによって、電子の有するエネルギーを自由自在に変化させて、分子の持っている酸化還元電位をプローブする、あるいは酸化還元反応を引き起こすことによって化学反応を促進することが可能です。

反応のしやすさを定義するための電流密度

上では反応させるための必要条件としての電位のみ話してきましたが、実際には電流密度として単位面積当たりにどの程度の数の電荷がどの程度の時間に流れたかを定義することが必要となってきます。前回の記事で対極に必要な条件として作用極の数倍程度の大きさを有する電極が必要となると書いたと思いますが、本質的に電流密度の考え方が必要となってきます。あくまで電気化学計測は電気回路をつくって、その中での酸化還元反応を利用した電子の回路を観測するものです。そのため、作用極で行われた化学反応に関与する電子は必ず対極でも同じ数必要となります。庭に水をまくときにホースの先端を小さくすると、出てくる水の勢いが強くなるような感じで、それは断面積が小さいからです。電子の数を単位時間あたりで割ったものが電流に相当しますが、電極面積が多い場合には、一つのサイトあたりでの単位時間あたりでの反応電子数が低くなります。一方で、電極面積が仮に非常に狭い場合には、単位面積あたりでの反応する電流が多くなってしまい、結果的に副次的な反応が必要となってきます。そのために腐食や溶解等といった副次的な反応が起こってしまい、系を荒らす原因となりかねません。ですので、いわゆる反応で使うTOFのような概念と同じ形で、電流密度を規定する必要があります。

まとめると

そもそも酸化還元反応を起こすために必要な電位と電流密度に対して概略しました。次回はポテンショスタットの中身と典型的なCVで何を計測しているのかに関して話をする予定です。

参考文献

1 Neil G. Connelly and William E. Geiger, Chem. Rev. 1996, 96, 2, 877–910. DOI: 10.1021/cr940053x

はいぶりっど。

投稿者の記事一覧

はいぶりっど化学者。好きな言葉は"The sky is not limited"

関連記事

  1. ケムステV年末ライブ2021開催報告! 〜今年の分子 and 人…
  2. ルイス酸/塩基でケイ素を操る!シリレンの原子価互変異性化
  3. 化学物質の管理が厳格化! -リスクアセスメント-
  4. 化学でもフェルミ推定
  5. 侯召民教授の講演を聴講してみた
  6. 日本プロセス化学会2023ウィンターシンポジウム
  7. フッ化セシウムをフッ素源とする立体特異的フッ素化有機分子の合成法…
  8. 有機合成化学協会誌2024年2月号:タンデムボラFriedel-…

注目情報

ピックアップ記事

  1. ヤクルト、大腸の抗がん剤「エルブラット」発売
  2. Skype英会話の勧め
  3. 創薬・医療系ベンチャー支援プログラム”BlockbusterTOKYO” ビジネスプラン発表会を開催!
  4. 結晶学分野に女性研究者が多いのは何故か?
  5. <無料試薬サンプル進呈>バイオ試薬トライアルキャンペーン2026【東京化成工業】
  6. マテリアルズ・インフォマティクスの推進を加速させるためには?
  7. Semiconductor Photocatalysis: Principles and Applications
  8. N-ヘテロ環状カルベン / N-Heterocyclic Carbene (NHC)
  9. 有機テルル媒介リビングラジカル重合 Organotellurium-mediated Living Radical Polymerization (TERP)
  10. 超難関天然物 Palau’amine・ついに陥落

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年9月
月 火 水 木 金 土 日
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

大学院留学してよかったこと, 悪かったこと【英語, 経済面, オーバードクターに関するお話】

海外の大学で、その大学に籍を置く大学 (院) 生として留学することは「学位留学」と呼ばれたりします。…

光前駆体法の活用によって、ヘプタセンで初の一重項分裂を観測!

第725回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 理学研究科化学専攻 有機元素化学研究室(山田研…

【スタッフ・寄稿募集】Chem-Stationで、化学を「伝える側」になりませんか?

Chem-Station(ケムステ)は2000年に開設された国内最大の化学ポータルサイトです。大学・…

第17回大津会議―とある参加者の記録―

2026年9月28日~29日に開催された第17回大津会議についての、とある参加者の記録です。この記事…

第17回大津会議 -Otsu Conference- 2026 開催報告 ~新体制で紡ぐ「有機合成の夢」~

第17回大津会議が2026年9月28日(月)〜9月29日(火)びわ湖大津プリンスホテルにて開催されま…

有機合成化学協会誌2026年10月号:医薬品プロセス開発・σ芳香族性・含窒素複素環・メロテルペノイド二量体・高歪み化合物

有機合成化学協会が発行する「有機合成化学協会誌」2026年10月号がオンラインで公開されています。…

時代は水だ! セメントのように水と混ぜるだけで成形・硬化できる「水硬性」高分子

第724回のスポットライトリサーチは、東京科学大学物質理工学院(大塚研究室)博士前期課程2年の徳満玲…

複雑さを設計して、結晶の動きをプログラムする

第723回のスポットライトリサーチは、高知工科大学大学院工学研究科(林研究室) 博士後期課程3年の樋…

ハロゲンの力で強力な結合を切断!天然物クマリンから医薬品・機能性材料原料のクマラノン類へ

第 722 回のスポットライトリサーチは、立命館大学大学院薬学研究科薬学専攻 精密合…

観察を写真で残す!カメラ内蔵リアクタ EasyMax 102i を使ってみた

反応の温度も、攪拌(かくはん)も、滴下も、サンプリングもいまや自動で記録される時代になりました。とこ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP