[スポンサーリンク]

身のまわりの分子

フッ素ドープ酸化スズ (FTO)

[スポンサーリンク]

酸化インジウムスズ(ITO)と同様に透明導電膜として有名な材料であるフッ素ドープ酸化スズ(FTO)。2つの材料の違いとは?

 

応用例

フッ素ドープ酸化スズ(F-doped Tin Oxide, FTO)とは、酸化スズにフッ素をドープした材料で、主に色素増感型太陽電池ペロブスカイト太陽電池の透明電極に使われています。

 

FTOは大気下気相化学成長(Chemical Vapor Deposition: CVD)法や、スプレー熱分解(Spray Pyrolysis Deposition: SPD)法などを用いてガラス上に成膜します。

 

特長としてITOと同様薄膜にしたときに高い透明性と電気伝導度を示します。

ITOには希少金属であるインジウムが使われていますが、FTOにはそれが使われていないため希少金属の資源保護の観点から利用価値が高まっています。

 

ITOとFTOの違い

ITOとFTOの違いを表にまとめてみました。

 

  ITO FTO
耐熱性 あまりない 十分ある
電気伝導度 (比抵抗値: Ωcm)[1] 1.8 x 10-4 8.5 x 10-4
透明性(全光線透過率)[1] 96% 87%
表面状態 平滑 微細な凹凸

 

ITOとの大きな違いはその耐熱性です。ITOは300℃以上の焼結を行うと電気伝導度 (比抵抗率)が高くなってしまい透明導電膜としての性能がさがってしまいますが、FTOにはそのようなことはありません。

そのため、色素増感型太陽電池やペロブスカイト太陽電池の電子輸送層や多孔質層に用いられる酸化チタン(TiO2)の焼結に必要な温度である500℃に耐えられるためよく用いられているというわけです。

 

一方、FTOは元々の電気伝導度が高いため、その分FTOの層を厚くする必要があります。そのためITOと比べると透明性が低下するといった問題点があります。

また、FTOには表面に微細な凹凸があるため、入射した光が基板の中に閉じ込められてしまいます。そのため光を基板内から取り出す必要のある液晶ディスプレイや有機ELには不向きといった問題があります。

最後に

ITOに変わる透明導電膜として注目されているFTO。レアメタルであるインジウムを使わない、耐熱性があるといったメリットがある一方、デメリットも多くまだまだ改善の必要があるのも事実です。

加えてFTOもフレキシブル素材には使いにくいといった欠点もあります。

FTOやITOといった材料がどうなるのか。今後の研究に期待しましょう。

 

参考文献

[1] 川島卓也, 後藤謙次, 小林一治, 「 高性能FTO基板」フジクラ技報, 110, 32-36, 2006

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4274215229″ locale=”JP” title=”透明導電膜の技術(改訂3版)”] [amazonjs asin=”4781310095″ locale=”JP” title=”透明導電膜の新展開 III 《普及版》 (エレクトロニクス)”] [amazonjs asin=”488231939X” locale=”JP” title=”透明導電膜〈2〉 (CMCテクニカルライブラリー)”]

 

 

 

Avatar photo

レオ

投稿者の記事一覧

Ph.D取得を目指す大学院生。有機太陽電池の高効率を目指して日々研究中。趣味は一人で目的もなく電車に乗って旅行をすること。最近は研究以外の分野にも興味を持ち日々勉強中。

関連記事

  1. アスパルテーム /aspartame
  2. みんなおなじみ DMSO が医薬品として承認!
  3. ファイトスルフォカイン (phytosulfokine)
  4. カルボプラチン /carboplatin
  5. ポリ乳酸 Polylactic Acid
  6. テトラメチルアンモニウム (tetramethylammoniu…
  7. フラノクマリン -グレープフルーツジュースと薬の飲み合わせ-
  8. ミック因子 (Myc factor)

注目情報

ピックアップ記事

  1. 2006年度ノーベル化学賞-スタンフォード大コンバーク教授に授与
  2. 材料開発の変革をリードするスタートアップのプロダクト開発ポジションとは?
  3. 最新の産学コラボ研究論文
  4. Nsアミン誘導体
  5. 親子で楽しめる化学映像集 その2
  6. イグノーベル賞2020が発表 ただし化学賞は無し!
  7. 分子モーター Molecular Motor
  8. アンデルセン キラルスルホキシド合成 Andersen Chiral Sulfoxide Synthesis
  9. 細胞代謝学術セミナー全3回 主催:同仁化学研究所
  10. ヒドロキシ基をスパッと(S)、カット(C)、して(S)、アルキル化

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年3月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

新発想の分子モーター ―分子機械の新たなパラダイム―

第646回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機反応論研究室 助教の …

大人気の超純水製造装置を組み立ててみた

化学・生物系の研究室に欠かせない超純水装置。その中でも最も知名度が高いのは、やはりメルクの Mill…

Carl Boschの人生 その11

Tshozoです。間が空きましたが前回の続きです。時系列が前後しますが窒素固定の開発を始めたころ、B…

PythonとChatGPTを活用するスペクトル解析実践ガイド

概要ケモメトリクスと機械学習によるスペクトル解析を、Pythonの使い方と数学の基礎から実践…

一塩基違いの DNA の迅速な単離: 対照実験がどのように Nature への出版につながったか

第645回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科相田研究室の龚浩 (Gong Hao…

アキラル色素分子にキラル光学特性を付与するミセルを開発

第644回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 総合研究院 応用化学系 化学生命科学研究所 吉沢…

有機合成化学協会誌2025年2月号:C–H結合変換反応・脱炭酸・ベンゾジアゼピン系医薬品・ベンザイン・超分子ポリマー

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年2月号がオンライン公開されています。…

草津温泉の強酸性硫黄泉で痺れてきました【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい!  というわけで、硫黄系の温泉であり、日本でも最大の自然温泉湧出量を誇る草津温泉…

ディストニックラジカルによる多様なアンモニウム塩の合成法

第643回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理工学研究科 村上研究室の木之下 拓海(きのした …

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP