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スポットライトリサーチ

アブラナ科植物の自家不和合性をタンパク質複合体の観点から解明:天然でも希少なSP11タンパク質の立体構造予測を踏まえて

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第340回のスポットライトリサーチは、東京大学 大学院農学生命科学研究科の森脇 由隆 助教にお願いしました。

 

森脇さんは修士課程の学生時代にはタンパク質の発現精製も含めたWetな実験をされていましたが、Dryの分野にも興味を持たれ、現在はタンパク質の構造計算を中心に研究を進められています。特に最近では、タンパク質の立体構造予測プログラムとして話題のAlphaFold2について、特徴や活用方法などを自身でもいろいろ試しながら精力的に発信・普及されており(実は先日のケムステ記事で取り上げたAlphaFold2座談会の発起人その人でもあり、さらにAlphaFold2解体新書の設営・管理も実施されています)、その活躍に国内外から注目が集まっています。

そんな森脇さんは今年の6月に第21回日本蛋白質科学会 若手奨励賞を受賞されており、今回のスポットライトリサーチではこの受賞理由となった「アブラナ科植物の自家不和合性の花粉拒絶反応を制御するタンパク質SRK/SP11複合体の包括的相互作用解析」についての研究を紹介いただきました。

東京大学の村瀬 浩司 特任准教授、高山 誠司 教授、奈良先端大の箱嶋 敏雄 理事・副学長(当時、現特任教授)らと森脇さんがチームを組んで推進されてきたアブラナ科植物の自己・非自己認識についてのご研究は、2020年10月にNature Communicationsにて論文が発表されています。また、プレスリリースも公開されています。植物が自分自身の花粉ではなく他個体の花粉で受粉するためには自他識別のしくみが必要不可欠となりますが、この自他識別のしくみをタンパク質構造レベルで解き明かしたのはこちらの研究が初めてという快挙です。

 

Kohji Murase, Yoshitaka Moriwaki* , Tomoyuki Mori, Xiao Liu, Chiho Masaka, Yoshinobu Takada, Ryoko Maesaki, Masaki Mishima, Sota Fujii, Yoshinori Hirano, Zen Kawabe, Koji Nagata, Tohru Terada, Go Suzuki, Masao Watanabe, Kentaro Shimizu, Toshio Hakoshima* & Seiji Takayama* (*責任著者) ;
“Mechanism of self/nonself-discrimination in Brassica self-incompatibility”,
Nature Communications, 11, 4916, (2020).
DOI: 10.1038/s41467-020-18698-w

 

それでは、タンパク質構造計算の現場感が滲み出る森脇さんのインタビューをお楽しみください!

 

Q1. 第21回日本蛋白質科学会年会 若手奨励賞受賞となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

アブラナ科植物を含む一部の高等植物には自身の雄ずい(雄しべ)から放出される花粉を用いて自身の雌ずい(雌しべ)上で受精する自家受粉を拒否する「自家不和合性」という機構が備わっています。20年ほど前、アブラナ科の自家不和合性は雌ずいの先端(柱頭)に存在する受容体SRKをコードする遺伝子と花粉に存在するタンパク質SP11をコードする遺伝子によってもたらされ、これら遺伝子は多数の対立遺伝子を持つことが示されました。このSRK, SP11の1組の遺伝子ペアのことをSハプロタイプと呼び、株間で組み変わることはほぼありません。そして、同じSハプロタイプ由来のタンパク質SRKとSP11はこの時に限って互いに強く結合することができ、受精を拒否するシグナルを送ることができます。すなわち、アブラナ科の自家不和合性は柱頭上でタンパク質SRKとSP11によるハプロタイプ特異的な複合体が形成されるか否かによって厳密に制御されています。

本研究では、共同研究者の村瀬博士がハプロタイプS8のSRK–SP11複合体結晶構造解析を行い、既知のS9の構造と比較するとともに、100種類以上存在するとされる残りのハプロタイプについての複合体構造のうち最も進化的に離れたタイプを含む9種類を、私が開発した計算手法の工程によって高精度に予測することができました。これらを用いた全11種類のハプロタイプ別複合体の結合自由エネルギー変化の解析により、SRK-SP11複合体の相互作用形式を3通りに大別でき、また各ハプロタイプについて複合体形成に重要な残基を同定することができました。最後に、ハプロタイプS36について計算された複合体モデル構造に基づいてSRK-SP11の複合体形成を損なうような1アミノ酸変異体S36-SP11-H62Rを予想し、実際にS36-SRKを持つアブラナの花の雌ずいにこのSP11変異体を添加するバイオアッセイ実験を行ったところ、本来発現するはずの自家不和合性が消失したことを示し、計算モデルの妥当性を示しました。

 

図 MDシミュレーションによるSRK-SP11相互作用の観察(東京大学プレスリリースより)

自己では複合体構造が維持されるのに対して、非自己ではSRKとSP11の間の親和性が低いためSP11が解離していく様子が観察された。

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください

本研究テーマで私は100通り以上存在するとされるSハプロタイプのうち、SRK, SP11の配列ペアが実験的に決定されている約20種類のハプロタイプについて、まず各SRK, SP11のタンパク質構造を計算によって予測しました。私は学生時代からタンパク質の構造生物学を実験と計算との二刀流で行っており、タンパク質構造を用いた計算科学が相互作用予測に非常に強力であることを知っていました。実はタンパク質―タンパク質の複合体を取り扱った研究課題はこれが初めてだったのですが、構造未知のハプロタイプでのSRK-SP11間のドッキングを行う際に、構造既知のS8, S9ハプロタイプ結晶構造座標上への各分子の単純な置換でうまく安定な構造が得られていない場合に、結合に関与しているアミノ酸の化学的な性質(疎水性・親水性)に注目したり、SRK, SP11の相互作用形式がS8, S9と大きく異なる、系統学的に最も孤立しているS29, S40, S44, S60のClass-IIグループにおいてどのアミノ酸ペアが結合に関与しているかを共進化から逆算して検討したりすることで、安定な複合体構造モデルを得ることができました。これについては学部のときに学んだ化学的な知識や、博士課程で趣味で学んでいた最新のアミノ酸配列解析の背景知識が役になったと言えます。

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか

上述の安定なSRK-SP11複合体モデリングも十分な時間の検討を要しましたが、その前段階であるSP11単体構造のモデリングも当初困難を極めました。SRKの方はハプロタイプ間の配列相同性が80%以上あるため、原始的なホモロジーモデリング法で簡単にもっともらしいモデルを得ることができましたが、SP11は機能ドメインが60アミノ酸残基前後と比較的小さなものでありながら非常に保存性が低く、自然界全体でも類縁配列が稀少な上に各二次構造の構造多様性が大きいことが示唆されていたため、最終的にSP11単体構造のモデリングにおいても、最新の手法をかき集めてそれらを組み合わせるという工夫を要しました。これは最近気づいたことですが、2021年にリリースされたタンパク質構造を予測するソフトウェアAlphaFold2であっても、一部のハプロタイプのSP11構造予測についてはジスルフィド結合ペアが明確に違ったまま予想されており、改めてこの構造モデリングが困難であることが示されました。そこで分子研でのポスドク時に学んだRosettaというプログラムを用いて、このSP11に特有なジスルフィド結合ペアの距離拘束を入れることでようやくもっともらしい構造候補が得られるようになり、さらにこれをaccelerated MDシミュレーションを用いて安定的な構造に収束させることでようやく構造を精緻化させることができました。これらの技術と知識は自身のこれまでの経験の集大成であると言えます。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか

私の今の研究環境には化学と言ってもフラスコや有機溶媒どころか計算機以外の実験装置がない状態です。しかし元は有機化学を含む実験科学を主体とする化学生命工学科出身だったので、実験化学を今でも非常に重視しており、機会があればまた実験をしたいと考えています。今は微生物や植物に関わる多様な有機物の酵素反応や代謝について興味があり、酵素を用いた化学反応の解析と、目的とする有機化合物を生産するように変異を入れる酵素改変の理論的な予想に取り組んでいます。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします

この研究課題で使うことになった様々なソフトウェアや計算技術手法およびバックグラウンドとなる知識は、このために勉強したというよりはむしろ今までに「面白いなーちょっとこれやってみようかな、この経験がいつか役に立つ日が来るかな」と思いながら気分転換に取り組んでいたものの組み合わせであって、個人的な趣味で習得したようなものでした。興味本位で暇な時に何かとりあえず思いつきでやってみるというのはすごく重要なことだと思います。またこのことは研究に限った話ではないと思います。学生の皆様にも、余力と余暇があるときに様々なことを勉強してたくさんの経験を積むことをおすすめしたいと思います。

 

研究者の略歴

森脇 由隆

東京大学 大学院農学生命科学研究科 応用生命工学専攻 生物情報工学研究室

「アブラナ科植物の自家不和合性の花粉拒絶反応を制御するタンパク質 SRK/SP11 複合体の包括的相互作用解析」

 

関連リンク

researchmap: 森脇 由隆 (Yoshitaka Moriwaki)

東京大学プレスリリース「菜の花の自己と非自己を識別するしくみを解明 ~自家不和合性の自他識別機構を三次元構造から明らかに~」

 

 

Shirataki

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目には見えない生き物の仕組みに惹かれ、生体分子の魅力を探っていこうとしています。ポスドクや科学館スタッフを経て、現在は大学発ベンチャー勤務。

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