[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

自励振動ポリマーブラシ表面の創製

[スポンサーリンク]

第49回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科・博士課程3年の田造さんにお願いしました。

増田さんの所属する吉田・秋元研究室では、化学エネルギーを使って自らの形状を周期振動的に変化させる「自励振動高分子」に関する研究が精力的に取り組まれています。今回紹介する研究もその流れにあるもので、これを基板表面に修飾することによって機能性表面の創製をめざした研究になります。この成果によって増田さんはこのたび「独創性を開く先端技術大賞」フジテレビジョン賞を受賞され、これを機に紹介させていただくことになりました。

それではいつも通り、増田さんに現場のお話を伺ってみましたのでご覧ください。

Q1. 今回の受賞対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

高分子などのソフトマテリアルから構成される表面・界面(ソフト界面)は、機能性材料として大きな注目を集めています。このソフト界面に生体のモータータンパク質のような自律的な運動機能を付与できれば、新しいナノマシンなどへの展開が可能であると考えました。本研究では、外液一定条件下で周期的な水和・脱水和を起こす自励振動高分子[1,2]を基板上に修飾することで、電荷・親疎水性・膜厚などが自律的に変化する動的な機能性ソフト界面の設計を行いました (図)。

sr_T_Masuda_2

 

最新の発表論文:

Tsukuru Masuda, Aya Mizutani Akimoto, Kenichi Nagase, Teruo Okano, Ryo Yoshida, “Design of self-oscillating polymer brushes and control of the dynamic behaviors” Chem. Mater. 2015, 27, 7395. DOI: 10.1021/acs.chemmater.5b03228

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

本研究で利用した表面開始型原子移動ラジカル重合(SI-ATRP)法は、表面修飾する高分子の鎖長や密度を精密に制御可能な手法です。後述しますが、界面の構造について系統的な検討を行うことが重要でした。また、エネルギー散逸型水晶振動子マイクロバランスで界面の高分子鎖の挙動を検出できたとき、蛍光顕微鏡で化学反応波の伝播をはじめて観察できたときは感動でした。

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

これまで当研究室で扱ってきた材料はµm ~ mmスケールのゲルが中心であったのに対し、本研究ではnmスケールでのつくり込みと機能創出が目的でした。研究を開始した当初は合成と評価手法のノウハウが確立できずに苦戦しました。ひとつひとつ評価方法を確立し、しっかりと界面の構造について系統的に検討することがブレイクスルーにつながったと考えています。このあたりは東京女子医科大学 先端生命医科学研究所との共同研究で実施させていただきました。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

化学は学際的な領域でもあることに魅力を感じています。化学をはじめ工学, 医学, 物理学, 生物学など様々な分野の力を結集・融合することで解決できる問題に挑戦していきたいと考えています。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

本研究においてご指導を賜りました東京大学大学院 工学系研究科の吉田 亮 教授秋元 文 講師、東京女子医科大学 先端生命医科学研究所の岡野光夫 教授長瀬健一 講師に深く感謝申し上げます。まだまだ未熟ですが、これからも研究に励んでいきたいと思います。

学会は高分子学会、バイオマテリアル学会を中心に参加しておりまして、また活動の幅を広げていきたいと思います。今後、実際にお目にかかる機会もあるかもしれません。どうぞよろしくお願い致します。

 

参考文献

  1. R. Yoshida et al., J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 8095. DOI: 10.1021/ja012584q
  2. R. Tamate et al., Chem. Rec. 2016 , DOI: 10.1002 /tcr.201600009.

 

研究者の略歴

sr_T_Masuda_1

増田 造 (ますだ つくる)

所属:東京大学大学院 工学系研究科 マテリアル工学専攻 吉田・秋元研究室

研究テーマ:自励振動ポリマーブラシ表面の創製

略歴:

2012年3月 東京大学 工学部 マテリアル工学科 卒業

2014年3月 東京大学大学院 工学系研究科 マテリアル工学専攻 修士課程修了

2014年4月- 現在 東京大学大学院 工学系研究科 マテリアル工学専攻 博士後期課程

2014年4月- 現在 日本学術振興会 特別研究員DC1

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 中国へ講演旅行へいってきました①
  2. チェーンウォーキングを活用し、ホウ素2つを離れた位置へ導入する!…
  3. 狙いを定めて、炭素-フッ素結合の変換!~光触媒とスズの協働作用~…
  4. Delta 6.0.0 for Win & Macがリリ…
  5. 有機合成化学協会誌2018年1月号:光学活性イミダゾリジン含有ピ…
  6. 高い専門性が求められるケミカル業界の専門職でステップアップ。 転…
  7. 有機レドックスフロー電池 (ORFB)の新展開:高分子を活物質に…
  8. ホウ素ーホウ素三重結合を評価する

注目情報

ピックアップ記事

  1. 高分解能顕微鏡の進展:化学結合・電子軌道の観測から、元素種の特定まで
  2. フレーザー・ストッダート James Fraser Stoddart
  3. ERATO 野崎 樹脂分解触媒:特任研究員募集のお知らせ
  4. アジサイの青色色素錯体をガク片の中に直接検出!
  5. ChemDrawの使い方 【基本機能編】
  6. 根岸クロスカップリング Negishi Cross Coupling
  7. プラテンシマイシン /platensimycin
  8. スイスでポスドクはいかが?
  9. 魅惑の薫り、漂う香り、つんざく臭い
  10. START your chemi-story あなたの化学を探す 研究職限定 キャリアマッチングLIVE

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年7月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP