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化学者のつぶやき

チオール架橋法による位置選択的三環性ペプチド合成

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厦門大学・Chuanliu Wuらは、2つのシステインと2つのペニシラミンを導入したペプチドに対して2,3,5,6-tetrafluoroterephthalonitrile(4F-2CN)を作用させ、位置異性体を抑制しつつone-potで三環性ペプチドを合成する手法を開発した。

“Precisely Regulated and Efficient Locking of Linear Peptides into Stable Multicyclic Topologies through a One-Pot Reaction”
Liu, W.; Zheng, Y.; Kong, X.; Heinis, C.; Zhao, Y.; Wu, C. Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 4458. DOI: 10.1002/anie.201610942

問題設定

環状ペプチドは、天然のペプチドに比べて体内動態に優れ、受容体への結合能も改善されることから注目を集めている。より剛直な構造を持つペプチドの方が受容体への結合能が高い傾向にあるが、現状では単環性もしくは二環性のものがほとんどである。

三環性ペプチドのone-pot合成法としては、2005年にPeter Timmermanらによって、1,2,4,5-tetrakis(bromomethyl)benzeneを用いた方法が報告されている[1]。すなわち、ベンジルブロミドをシステイン側鎖チオールで置換して、環状ペプチドを得る。しかしながら、求核攻撃が選択性なく起きてしまうため、少なくとも4種類の位置異性体の混合物が生じてしまい、均質な環状ペプチドを得ることができずにいた。

技術と手法の肝

これまでに、フッ素4置換のベンゼンを、チオールを2つ含むペプチドに作用させるとパラ位の2か所で求核攻撃が起きペプチドを架橋できる報告はいくつかなされていた[2-4]。著者らは以前の報告[4]で用いられている2,3,5,6-tetrafluoroterephthalonitrile(4F-2CN)が、チオールが過剰または近接な場合、2回の求核置換に留まらず4か所全てで求核置換を起こすことを発見した。

4F-2CNの各フッ素イプソ位はの反応性は、反応進行度に応じて異なってくる。チオールが求核置換を起こすとパラ位の反応性が高まり、置換数が増えると反応性は低下するため、反応速度は2回目>1回目>>4回目>3回目となっている。

2つのシステイン(Cys, C)と2つのペニシラミン(Pen, Cysよりも低反応性)を含むペプチドを作用させると、まずCys部位によって架橋が起こり、ついでPen部位で架橋が起こる。これと上述の反応順列を考慮することで、位置異性体をうまく制御できる理屈になっている(冒頭図)。

主張の有効性検証

①位置選択性制御の検証

2つのCysと2つのPenを含む単純なペプチドを4F-2CNと反応させたHPLCチャートの結果を以下に示す。いずれの場合でも4置換体が高収率(85%)で得られている。ただ配列(b)や鎖長(c)によっては、位置異性体が2つ発生する可能性はあるようだ。

冒頭論文より引用

システイン4つを含むだけのペプチドではほとんど位置選択性が出ず、鎖長が短すぎる場合は2置換で止まるという制約がある。

②架橋ペプチドを用いた生物アッセイ

urokinase-type plasminogen activator(uPA)の阻害剤である2環性ペプチドの模倣体を4F-2CN架橋法で合成し、活性を測定したところ、今回合成した三環性ペプチドが、オリジナルよりも高い阻害活性が示すことが分かった(ただし、より活性の高い二環性ペプチドが近年見つかっている模様)。

ヒマワリトリプシン阻害剤の模倣体も合成し活性を特定したところ、ベンジルブロミド系試薬(TBMB)で架橋したものよりも、4F-2CN架橋体のほうが、高活性であった(ただし,天然型阻害剤の方が活性は高いようである)。

議論すべき点

  • 副反応はほとんど起きず、高収率で架橋できる。得られる三環性ペプチドはジスルフィドなどと比べ還元に安定である。
  • ジスルフィドを2対含むペプチドは天然にそこそこあるため、チオール4つの必要性はそこまで問題とならない。
  • 高活性化合物が他に存在するものしか応用として作れていないので、主張としてはどうしても弱くならざるを得ない(フェアなプレゼンであるとも言える)。
  • 単一の生成物が取れるか否かは配列に依存し、位置選択的であるとは言い切れない。ペニシラミンの導入がほぼ必須であるのも欠点か。
  • 現状最も有望な利用法としては、化学修飾型ファージディスプレイ法に組み込むことだろうか。位置選択性が低く、複数種の環状ペプチドがとれてくることを逆手に取れる。

次に読むべき論文は?

  • システインのみを含むペプチドでも位置選択的に架橋できるとよい。SHの反応性予測や、S-Sの選択的切断、SHの選択的保護などを検討している報告は当たってみる価値がある。
  • 二環性ペプチドをファージディスプレイでスクリーニングする、Bicycle Therapeutics社からの研究報告は追跡価値がある。4F-2CN法が取り入れられる可能性は十分あるか。

参考文献

  1. Timmerman, P.; Beld, J.; Puijk, W. C.; Meloen, R. C. ChemBioChem 2005, 6, 821. DOI: 10.1002/cbic.200400374
  2. Spokoyny, A. M.; Zou, Y.; Ling, J. J.; Yu, H.; Lin, Y.-S.; Pentelute, B. L. J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 5946. DOI: 10.1021/ja400119t
  3. Zhang, C.; Welborn, M.; Zhu, T.; Yang, N. J.; Santos, M. S.; Voorhis, T. V.; Pentelute, B. L. Nat. Chem. 2016, 8, 120. doi:10.1038/nchem.2413
  4. Zhang, H.; Liu, R.; Liu, J.; Li. L.; Wang. P.;  Shao;  Yao, Q.; Xu, Z.; Sun, H. Chem. Sci. 2016, 7, 256. DOI: 10.1039/C5SC02431E
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博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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