[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第115回―「分子機械と天然物の化学合成」Ross Kelly教授

[スポンサーリンク]

第115回の海外化学者インタビューは、ロス・ケリー教授です。ボストンカレッジ化学科に所属し、天然物や分子デバイス(モーター、ブレーキなど)の合成に取り組んでいます(訳注:現在はリタイアして名誉教授になっています)。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

私が育った1950年代には、化学セットには良いもの(粉末マグネシウムなど)が入っていましたし、火薬の原料(硫黄、粉末炭、塩分計)は12歳の子供でもドラッグストアで何も訊かれず入手できました。私を化学の世界に引き込んだのは、当然ながら、ロケットや爆弾、手作りの花火などです。最近では「危険な」化学物質を簡単に手に取れません。子供たちの安全性は高まっているにせよ、幼い頃に手に取れる「爆発や悪臭」の魅力なくしては、将来的に化学の道に進む人が減るのではないかと危惧しています。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

物を設計したり、作ったりするのが好きなので、分子を設計したり、作ったりすることでキャリアを過ごしてきました。もしそうしなかったなら、代わりに他のものを設計したり作ったりして楽しんでいたと思います。機械技師、メカニック、マシニスト、家具職人(趣味で家具をデザインしたり組み立てたりしています)になることは魅力的です。

Q. 現在取り組んでいることは何ですか?そしてそれをどう展開させたいですか?

研究テーマについて語るのが一般的でしょうから、自分自身が役立たずと取られるリスクはあるものの、質問に答えましょう。

過去5年ほどの間、私は研究を辞めようとしてきました。幸いなことに、資金調達の危機によって余儀なくされる現代的事情によってではなく、私に選択権があったときに辞められました。これからは学部生に有機化学を教えていきますが、楽しくやれているので、おそらく向いているのでしょう。

賢者(愚者?)に一言:講義での有機化学実演は人気が落ちているとのことですが、学生たちは本当に気に入ってくれていますし、授業を盛り上げてもくれます。私はほぼ毎回の授業で何かをしています。「実演」は手間のかかるものばかりではありません。様々な食品やドラッグストアの商品などから成分表を映し出したり、臭気のある身近な化学物質のサンプルを配ったりするのは、実社会とのつながりが持てる簡単な方法です。

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

レオナルド・ダ・ヴィンチライナス・ポーリングを思い浮かべます。レオナルドは驚異的な創造力を持っていたし、彼の工学的アイデアは魅力的だと思います。ポーリングは驚くほど賢く、多くのことを考え出しました。二重らせんの構造を見落としていた理由の説明を聞いてみたいものです。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

私たちの多くは大学院生やポスドクの頃、研究室で例外的に優秀だったがゆえに、アカデミアでの現場仕事を終える羽目になります。皮肉なことに、ほとんどの人が研究室での楽しみやこの立場に導いた作業を放棄しなければならないのです。私自身も研究室では久しく何もやっておらず、たまに学生に技術を見せるぐらいです。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

読書が好きなので、本棚(もしくはKindle)いっぱいの本を持っていきたいのですところですが、もし一冊だけ持っていくとしたら、ドストエフスキーの古典『罪と罰』にするでしょう。これには奇妙な理由があります。これまでの人生で何度か『罪と罰』を読もうとしたことがあるのですが、一度もハマれていません。もし島で唯一の本だとすれば、最後まで読めてしまうのではないかと期待しています。

[amazonjs asin=”B00H6XBEK4″ locale=”JP” title=”罪と罰 1 (光文社古典新訳文庫)”]

音楽についてはそこまでの長時間、聴いてきていないので、ラジコン模型飛行機を持ってきて飛ばす方がずっといいですね。理解できない人も多いと思いますが、音楽を聴くよりも、その方がリラックスできます。

Q.「Reactions」でインタビューしてほしい化学者と、その理由を教えてください。

難しい質問です。一番興味ある人(エミール・フィッシャー)は既に故人なので、インタビューは難しいですね。

 

原文:Reactions –  Ross Kelly

※このインタビューは2009年5月8日に公開されました。

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第144回―「CO2を捕捉する多孔性金属-有機構造体の開発」My…
  2. 第83回―「新たな電池材料のモデリングと固体化学」Saiful …
  3. 第29回「安全・簡便・短工程を実現する」眞鍋敬教授
  4. 第132回―「遷移金属触媒における超分子的アプローチ」Joost…
  5. 第60回「挑戦と興奮のワイワイ・ワクワク研究センターで社会の未来…
  6. 第32回 液晶材料の新たな側面を開拓する― Duncan Bru…
  7. 第35回「金属錯体の分子間相互作用で切り拓く新しい光化学」長谷川…
  8. 第43回「はっ!」と気づいたときの喜びを味わい続けたい R…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 有機分子触媒の化学 -モノづくりのパラダイムシフト
  2. 第51回ケムステVシンポ「光化学最前線2025」を開催します!
  3. ランタノイド Lanthanoid
  4. 製薬系企業研究者との懇談会(オンライン)
  5. 2021年化学企業トップの年頭所感を読み解く
  6. 研究動画投稿で5000ユーロゲット?「Science in Shorts」
  7. 広がる産総研の連携拠点
  8. 天才児の見つけ方・育て方
  9. ダニエル レオノリ Daniele Leonori
  10. 高校生・学部生必見?!大学学術ランキング!!

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年9月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

データ駆動型生成AIの限界に迫る!生成AIで信頼性の高い分子設計へ

第663回のスポットライトリサーチは、横浜市立大学大学院 生命医科学研究科(生命情報科学研究室)博士…

MDSのはなし 骨髄異形成症候群とそのお薬の開発状況 その2

Tshozoです。前回はMDSについての簡易な情報と歴史と原因を述べるだけで終わってしまったので…

水-有機溶媒の二液相間電子伝達により進行する人工光合成反応

第662回のスポットライトリサーチは、京都大学 大学院工学研究科 物質エネルギー化学専攻 阿部竜研究…

ケムステイブニングミキサー 2025 報告

3月26日から29日の日本化学会第105春季年会に参加されたみなさま、おつかれさまでした!運営に…

【テーマ別ショートウェビナー】今こそ変革の時!マイクロ波が拓く脱炭素時代のプロセス革新

■ウェビナー概要プロセスの脱炭素化及び効率化のキーテクノロジーである”マイクロ波…

予期せぬパラジウム移動を経る環化反応でベンゾヘテロールを作る

1,2-Pd移動を含む予期せぬ連続反応として進行することがわかり、高収率で生成物が得られた。 合…

【27卒】太陽HD研究開発 1day仕事体験

太陽HDでの研究開発職を体感してみませんか?私たちの研究活動についてより近くで体験していただく場…

熱がダメなら光当てれば?Lugdunomycinの全合成

光化学を駆使した、天然物Lugdunomycinの全合成が報告された。紫外光照射による異性化でイソベ…

第59回有機反応若手の会

開催概要有機反応若手の会は、全国の有機化学を研究する大学院生を中心とした若手研究…

多環式分子を一挙に合成!新たなo-キノジメタン生成法の開発

第661回のスポットライトリサーチは、早稲田大学大学院先進理工学研究科(山口潤一郎研究室)博士課程1…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP