[スポンサーリンク]

一般的な話題

汝ペーハーと読むなかれ

[スポンサーリンク]

 

 

以下の文を声に出して読んでみてください

「中性の水のpHは7である。」

恐らく日本国民の半数は

“ちゅうせいのみずのぴーえっち(ぴーえいち)はななである”

と読み、残りの半数は

“ちゅうせいのみずのぺーはーはななである”

と読むのではないでしょうか。

 

では、自動車のBMWはいかがですか?さすがに”べーんべー“と読む人はいなくなったのではないでしょうか。驚くなかれ筆者が幼少のころはそのように読むのが一般的だったのです。

そうです。これらはアルファベットのドイツ語読み風日本語なのです。

ぺーはーというのも昔の方はそのように読む習慣があった名残ですが、現在ではピーエッチピーエイチと読むことが定められていますので、ペーハーと読む人が周りにいたらその人はドイツかぶれだと思ってください。筆者が学生の時、隣のラボで水酸化ナトリウムのことをえぬえーおーはーと呼んでいて失笑してしまったのはいい思い出です(少なくともえぬあーおーはーと呼ぶべきだし)。

 

外国由来のものを日本語で表現する時、外来語として外国語における読みをなんとなくカタカナに置き換えて呼んでしまう借用語というのにしてしまうことがあります。当然化学の世界でもそのような外来語が多数存在していることはご存知のとおりです。多くのものはほぼ万国共通語の英語です。オレフィンクロスメタセシスのことを不飽和二重結合交差複分解と言う人はいません。

 

借用語には圧倒的に英語が多いのは当然の成り行きですが、化学ではドイツ語由来のものもあります。それには歴史的経緯が少なからずあり、化学の黎明期はドイツの化学力は世界一ィであったこと、それに従って我が国の先人化学者がドイツに留学し、その知識を持ち帰ってきたこと、優れた化学の教科書がドイツ語であったことなどが考えられます。現在ではすっかりそのことも忘れがちではありますが、言葉としては定着してますね。

 

今月はNature Chemistry誌にthesisが無くネタがなくなってしまったので、先日Wikipediaで面白いページを見つけたので、その中からドイツ語由来の借用語をいくつか紹介しましょう。

まずは元素から

Kalium 和: カリウム

Natrium 和: ナトリウム

は有名ですかね。英語はpotassium、sodiumなのでドイツ語とはだいぶ異なります。その他にもSelenChromMolybdänなど英語では語尾に-iumとか-umがつくけど和名ではついていないものはほぼドイツ語由来です。ちなみにタングステンの元素記号がWなのはドイツ語のWolframからで、tungstenはスウェーデン語の重い石の意味だそうな。

 

さて次は実験器具から

Messzylinder 和: メスシリンダー 英: graduated cylinder

Messpipette 和: メスピペット 英: Mohr pipette

Messkolben 和: メスフラスコ 英: volumetric flask

メス?はドイツ語messenの測るの意味です。英語では全く異なる名前でほとんど通じませんので気を付けましょう。最後のメスフラスコは酷くて、ドイツ語と英語が混在しています(筆者は個人的にえぬえーおーはーを毎回思い出しているのは内緒です)。たまにフラスコをコルベンと呼ぶ方がいらっしゃいますが、その方はドイツかぶれとみて間違いないでしょう。

 

最後はおまけで

Energie 和: エネルギー 英: energy

Hormon 和: ホルモン 英: hormone

Aspirin 和: アスピリン 英: aspirin

なんかもあります。エネルギーは英語由来だと思ってましたが違うんですね。

 

有機化学ではWittig 和: ウィッティッヒが有名です。よくある間違いとしてWittingと現在進行形にしてしまったり、ヴィティグと英語風に読んだりしてしまいますがこれは誤りです。それを言うならウィッティッヒも厳密には誤りで、ドイツ語風に読むならヴィッティヒでしょうね。一方でアスピリンのBayer社はバイエルとちゃんとドイツ語読みになっているのに対して、Baeyer-Villiger酸化バイヤー・ビリガー酸化となっていて微妙です。ただドイツ人の発音もバイヤーっぽく発音してるのでよしとしますか。

近年パラジウム触媒反応によき用いられる配位子の開発で有名なMITのBuchwald教授は以前浦和レッズに在籍し、監督も務めた方の刷り込みでブッフバルトと読むと思っていましたが、米国人なのでバックワルドと読むと知った時の衝撃たるや(私だけでようか?)。ちなみにこのポスト現在Wikipediaのページはブッフバルトのままです。

 

最後は本当のオマケですが、ドイツ化学会誌Angewandte Chemie(応用化学)はなんと読むでしょうか?

アンゲバンテ ケミー? いえいえ”アンゲバンテ へミー“と読みましょう。ソースはこちら

 

関連書籍

 

ペリプラノン

投稿者の記事一覧

有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。

関連記事

  1. 海外機関に訪問し、英語講演にチャレンジ!~① 基本を学ぼう ~
  2. 実験ワイプとタオルをいろいろ試してみた
  3. 人工タンパク質ナノブロックにより自己組織化ナノ構造を創る
  4. 計算化学:DFTって何? PartIII
  5. C–H活性化反応ーChemical Times特集より
  6. 有機合成の進む道~先駆者たちのメッセージ~
  7. 立体選択的なスピロ環の合成
  8. 分子内架橋ポリマーを触媒ナノリアクターへ応用する

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 未来の製薬を支える技術 – Biotage®金属スカベンジャーツールキット
  2. 食品安全、環境などの分析で中国機関と共同研究 堀場製
  3. 吸入ステロイド薬「フルタイド」の調査結果を発表
  4. プロセス化学ー合成化学の限界に挑戦するー
  5. キラル超原子価ヨウ素試薬を用いる不斉酸化
  6. 農薬メーカの事業動向・戦略について調査結果を発表
  7. 有機合成化学協会誌2022年1月号:無保護ケチミン・高周期典型金属・フラビン触媒・機能性ペプチド・人工核酸・脂質様材料
  8. Metal-Organic Frameworks: Applications in Separations and Catalysis
  9. 引っ張ると白色蛍光を示すゴム材料
  10. 第54回国際化学オリンピックが開催、アジア勢が金メダルを独占

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年2月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728  

注目情報

最新記事

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

光と水で還元的環化反応をリノベーション

第609回のスポットライトリサーチは、北海道大学 大学院薬学研究院(精密合成化学研究室)の中村顕斗 …

ブーゲ-ランベルト-ベールの法則(Bouguer-Lambert-Beer’s law)

概要分子が溶けた溶液に光を通したとき,そこから出てくる光の強さは,入る前の強さと比べて小さくなる…

活性酸素種はどれでしょう? 〜三重項酸素と一重項酸素、そのほか〜

第109回薬剤師国家試験 (2024年実施) にて、以下のような問題が出題されま…

産総研がすごい!〜修士卒研究職の新育成制度を開始〜

2023年より全研究領域で修士卒研究職の採用を開始した産業技術総合研究所(以下 産総研)ですが、20…

有機合成化学協会誌2024年4月号:ミロガバリン・クロロププケアナニン・メロテルペノイド・サリチル酸誘導体・光励起ホウ素アート錯体

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年4月号がオンライン公開されています。…

日本薬学会第144年会 (横浜) に参加してきました

3月28日から31日にかけて開催された,日本薬学会第144年会 (横浜) に参加してきました.筆者自…

キシリトールのはなし

Tshozoです。 35年くらい前、ある食品メーカが「虫歯になりにくい糖分」を使ったお菓子を…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP