[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

ルテニウム触媒を用いたcis選択的開環メタセシス重合

[スポンサーリンク]

meta1.jpg

(画像は下記論文のTOCを引用)

近年、Grubbs・Schrock・Hoveydaらを中心に、立体選択的なメタセシス反応の開発が進められており、ケムステにおいても紹介してきました(こちらとこちら)。
低分子化合物だけでなく、高分子合成においても立体選択的メタセシスが適用されている例として、cis選択的開環メタセシス重合に関するGrubbsグループの論文をご紹介したいと思います。
 
Cis-Selective Ring-Opening Metathesis Polymerization with Ruthenium Catalysts
Keitz, B. K.; Fedorov, A.; Grubbs, R. H.*
J. Am. Chem. Soc., 2012, 134, 2040–2043. DOI: 10.1021/ja211676y 

高分子中の結合でcis含有率が高いと、融点やガラス転移点が低くなったり、結晶化速度が遅くなったりするため、cis含有率を操ることで生成するポリマーの物性を調整することが可能となります。

 

開環メタセシス重合の触媒としてルテニウム・モリブデン・タングステンなどの錯体が用いられておりこれらの触媒を用いた場合、触媒・モノマー・温度など様々な要因がポリマー中のcis結合の含有率に影響を与えることが知られています。

Grubbsグループでは、Grubbs触媒として知られる一連のルテニウム錯体を用いて様々なメタセシス反応を開発してきました。高分子合成にもこれらの触媒は適用されており、Grubbs触媒を用いてノルボルネン類の開環メタセシス重合を行うことでポリノルボルネンが得られますが、第1世代Grubbs触媒を用いた場合、ポリマー中の結合のほとんどはtrans体として得られることが知られていました。今回、ニトラト(nitrato)を有する錯体を用いることで、最大で96%ものcis体を有するポリマーを合成することに成功しています。

meta2.jpg

図2. 今回用いられたルテニウム錯体:1が第2世代Grubbs触媒、2が今回新たに用いられているニトラト錯体

(図は論文より引用)

 

重合は、室温で1時間程度で進行するようです。様々なノルボルネン誘導体をモノマーとして用いて触媒の重合能が調べられていますが、多くのモノマーで80~90%程度のcis率を有するポリマーが得られています。比較のために市販の代表的なルテニウム触媒である第2世代Grubbs触媒を用いた重合も行われていますが、60~80%程度のcis率となっており、ニトラト錯体型の触媒を用いることでよりcis選択的に重合が進行することがわかります。また、シクロオクタジエンなどのシクロアルケン類をモノマーとした重合においても、ニトラト触媒がcis選択的な重合を行うことが確認されています。

 

しかし、一部のモノマーは第二世代Grubbs触媒の方が高いcis選択性を示しました。これは筆者らも驚きだったようで

”However, for monomers 5, 6, and 9, high cis contents were achieved without the use of a specially designed catalyst!”

と「!」付きでその驚きを表現していました。

 
高分子鎖末端に存在する反応点が高活性なため、分子内(backbiting)または分子間でメタセシス反応を起こすなどの副反応が起きやすく、重合の制御はなかなか困難なのですが、1000程度のノルボルネンが重合してもその90%以上がcis体となるように制御されている…と考えると、この触媒の威力をご想像して頂けるのではないでしょうか。
一方、条件さえ整えてあれば市販の触媒でも高いcis選択率を与えたことから、重合の化学はやってみないと分からないことも少なからず存在するようです。「重合する」という高分子化学の最も基礎的な部分でありながら、まだまだ開拓の余地が残されているように思われます。
Avatar photo

suiga

投稿者の記事一覧

高分子合成と高分子合成の話題を中心にご紹介します。基礎研究・応用研究・商品開発それぞれの面白さをお伝えしていきたいです。

関連記事

  1. 溶融する半導体配位高分子の開発に成功!~MOFの成形加工性の向上…
  2. 世界初のジアゾフリーキラル銀カルベン発生法の開発と活性化されてい…
  3. 【8月開催】マイクロ波化学のQ&A付きセミナー
  4. アイディア創出のインセンティブ~KAKENデータベースの利用法
  5. 有機合成化学協会誌2023年1月号:[1,3]-アルコキシ転位・…
  6. 機械学習と計算化学を融合したデータ駆動的な反応選択性の解明
  7. 元素名を名字にお持ちの方〜
  8. 周期表の形はこれでいいのか? –その 2: s ブロックの位置 …

注目情報

ピックアップ記事

  1. 製薬業界における複雑な医薬品候補の合成の設計について: Nature Rev. Chem. 2017-2/3月号
  2. 炭酸ビス(ペンタフルオロフェニル) : Bis(pentafluorophenyl) Carbonate
  3. 有機合成化学協会誌2025年12月号:ホウ素二置換カルベン・不斉水素化・湾曲型両親媒性分子・プロセス化学におけるフロー合成・ヒドロシリル化
  4. 杏林製薬 耳鳴り治療薬「ネラメキサン」の開発継続
  5. コールドスプレーイオン化質量分析法 Cold Spray Ionization Mass Spectrometry (CSI-MS)
  6. 植村酸化 Uemura Oxidation
  7. ポンコツ博士の海外奮闘録XVIII ~博士,WBCを観る~
  8. (+)-11,11′-Dideoxyverticillin Aの全合成
  9. どっちをつかう?:cooperateとcollaborate
  10. “壊れないよう” に作ってきた半導体ポリマーを、あえて “壊れるよう” に作る化学

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年5月
月 火 水 木 金 土 日
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

光前駆体法の活用によって、ヘプタセンで初の一重項分裂を観測!

第725回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 理学研究科化学専攻 有機元素化学研究室(山田研…

【スタッフ・寄稿募集】Chem-Stationで、化学を「伝える側」になりませんか?

Chem-Station(ケムステ)は2000年に開設された国内最大の化学ポータルサイトです。大学・…

第17回大津会議―とある参加者の記録―

2026年9月28日~29日に開催された第17回大津会議についての、とある参加者の記録です。この記事…

第17回大津会議 -Otsu Conference- 2026 開催報告 ~新体制で紡ぐ「有機合成の夢」~

第17回大津会議が2026年9月28日(月)〜9月29日(火)びわ湖大津プリンスホテルにて開催されま…

有機合成化学協会誌2026年10月号:医薬品プロセス開発・σ芳香族性・含窒素複素環・メロテルペノイド二量体・高歪み化合物

有機合成化学協会が発行する「有機合成化学協会誌」2026年10月号がオンラインで公開されています。…

時代は水だ! セメントのように水と混ぜるだけで成形・硬化できる「水硬性」高分子

第724回のスポットライトリサーチは、東京科学大学物質理工学院(大塚研究室)博士前期課程2年の徳満玲…

複雑さを設計して、結晶の動きをプログラムする

第723回のスポットライトリサーチは、高知工科大学大学院工学研究科(林研究室) 博士後期課程3年の樋…

ハロゲンの力で強力な結合を切断!天然物クマリンから医薬品・機能性材料原料のクマラノン類へ

第 722 回のスポットライトリサーチは、立命館大学大学院薬学研究科薬学専攻 精密合…

観察を写真で残す!カメラ内蔵リアクタ EasyMax 102i を使ってみた

反応の温度も、攪拌(かくはん)も、滴下も、サンプリングもいまや自動で記録される時代になりました。とこ…

ケムステ人気新着記事 トップ 5【2026年9月版】

2026年9月にケムステでは21本の新しい記事を公開しました。この記事では、その新着記事の中から、ペ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP