今年もこの時期がやってきました!!昨日毎年ノーベル賞発表直前に公表される「トムソン・ロイター引用栄誉賞2014」が発表されました。毎年ノーベル賞クラスの研究者(特に論文の引用回数にスポットをあて選出)が受賞され、各分野の最有力候補者の一人であるともいえます。今年は9カ国から卓越した研究業績をもつ27名の研究者の方々が選出されました。
日本からは十倉好紀教授が「新しいマルチフェロイック物質の発見」の功績により物理分野で選出されました。十倉教授の論文引用数はなんと毎年4000以上(Researcher ID参照)。過去にも同賞に選出されており、このことはトムソン・ロイター引用栄誉賞が恒例化された2002年以来初めてのことで同じ日本人としてとても誇りに思います。
さて、化学分野では一体どんな研究者が選出されたのでしょうか?早速見てみましょう。
機能的なメソ多孔体材料の設計
Charles T. Kresge・Ryong Ryoo・Galen D. Stucky
Krege博士、Ryo教授、Stucky教授はメソポーラス材料と呼ばれる無機材料の開発を行いました。
Kresge博士は現在、サウジアラビア最大の国営石油会社であるSaudi Aramcoの最高技術責任者(Chief Technology Officer:CTO)です。ゼオライト(結晶性アルミノシリケート)材料分野の第一人者です。モービル社の研究員であった1992年に界面活性剤を鋳型とした分子鋳型法(テンプレート法)を用い[1]、メソポーラスシリカを開発しました。この材料分野で最も有名なMCM-41の開発者として知られています。
Ryoo教授は韓国科学技術院KAISTの教授であり、1999年にメソポーラスシリカを鋳型として多孔質炭素を合成しました。[2] この合成法は多孔質炭素だけでなく様々なナノポーラスな材料の合成法として活躍しています。なお本賞としては韓国からはじめての選出になります。
Stucky教授はMCM-41と同様に多用されるメソポーラスシリカSBA-15の開発者として知られています[3]
図:メソ多孔性体材料イメージ
近年多くの機能的なメソ多孔体材料がありますが、メソポーラスシリカは非常に大きな表面積を有しており、触媒担持やドラッグデリバリー、バイオセンサーに用いられている高い機能性材料です。メソポーラスシリカについてもっと知りたい方はこちらからどうぞ!!
可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合の開発
Graeme Moad・Ezio Rizzardo・San H. Thang
RAFT重合はリビングラジカル重合の一種で、1998年にオーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の研究者Moad博士、Rizzard博士およびThang博士により発見された重合法です。[4] 所定の分子量を持つ、ブロック、グラフト、くし型、星型といった複合構造を有する高分子を合成することが可能であり、水溶液を含む幅広い反応条件にて、多様なモノマーに対して適用することができます。RAFT重合では、適切な連鎖移動剤の存在下で、置換モノマーの一般的なフリーラジカル重合にRAFT平衡に関する反応が加わります。通常、RAFT剤に用いられるのはジチオエステルやジチオカルバメート、トリチオカルボナート、キサンタートなどのチオカルボニルチオ化合物であり、可逆的な連鎖移動反応によって重合反応を介します。適切なRAFT剤を用いることで、狭い分子量分布(PDI)で高い鎖末端官能基率のポリマーを合成することができるためエレクトロニクスから細胞生物学にいたるあらゆる分野で利用されています。
図:RAFT重合
有機ELの発明
Ching W. Tang・Steven Van Slyke
1987年、イーストマン・コダック社に在籍していたTang博士(現在ロチェスター大学教授)と Slyke博士は液晶ディスプレイに用いられている透明導電膜のITOとAl電極との間に発光する有機材料を数十nmほどの極薄膜積層した有機ELを世界で初めて発明しました。[5] 発明当時は発光時間が非常に短いものだったのですが、この25年ほどで有機ELの実用化研究が進み、現在では韓国のサムスンのスマートフォン「Galaxy」シリーズのディスプレイなど液晶に代わる新たな技術として注目を集めています。また照明への実用化に向けた研究も進んでおり、特に白色有機EL照明は蛍光灯に代わる新たな照明として注目を集めています。
サムスン「Galaxy」
この3つのテーマが今年のノーベル化学賞として選ばれるのでしょうか?今年のノーベル化学賞は10月8日に発表です。今年のノーベル化学賞も楽しみに待ちましょう!!
関連文献
- Kresge, C. T.; Leonowicz, M. E.; Roth, W. J.; Vartuli, J. C.; Beck, J. S. “, Nature 1992, 359, 710. DOI: 10.1038/359710a0
- (a)Ryoo, R.; Joo, S. H.; Jun, S. J. Phys. Chem. B 1999, 103, 7743. DOI: 10.1021/jp991673a (b)Sakamoto, Y.; Kaneda, M. Terasaki, O.; Zhao, D. Y.; Kim, J. M. Stucky, G. Shin, H. J. Ryoo R. Nature, 2000, 408, 449. DOI: 10.1038/35044040
- Zhao, D.; Feng, J.; Huo, Q.; Melosh, N.; Fredrickson, G.; Chmelka, B.; Stucky, G. Science 1998, 279, 548. DOI: 10.1126/science.279.5350.548
- Chiefari, J.; Chong, Y. K.; Ercole, F.; Krstina, J.; Jeffery, J.; Le, T. P. T.; Mayadunne, R. T. A.; Mejis, G. F.; Moad. C. L.; Moad, G.; Rizzardo. E.; Thang, S. H. Macromolecules 1998, 31, 5559. DOI: 10.1021/ma9804951
- Tang, C. W.; VanSlyke, S. A. Appl. Phys. Lett. 1987, 51, 913. DOI:10.1063/1.98799
外部リンク
- Charles T. KresgeーWikipedia
- Ryong RyooーWikipedia
- The Stucky Group: Stucky教授の研究室HP
- The Ching W. Tang Group: Tang教授の研究室HP
- Ching W. Tang – Wikipedia