[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

メソポーラスシリカ(1)

[スポンサーリンク]

近頃(昔から?)頻繁にJACSやAngewanteでも目にするようになったメソポーラス(mesoporous)の文字。メソポーラス材料と言えばそのままメソ(サイズの径の孔を持つ)ポーラス(=多孔質)材料のことですが、例えば「メソって何よメソって?」なんていう疑問をお持ちの方は案外多いのではないでしょうか。そんな疑問を解決しながら、とりわけメソポーラスシリカ(構成元素が二酸化ケイ素)について簡単に書いてみます。

  • メソとは

先述の疑問に早速答えてしまいます。IUPACの規定によると、2?50nmの領域をメソと呼ぶそうです(図1)[3]追記。それ以下をマイクロ、それ以上をマクロ領域と呼ぶのが一応の決まりだそうですが、例えば高分子化学におけるマイクロエマルション重合では100nm以下のミセルを用いればこれをマイクロエマルションと呼ぶそうですから、慣れるまでは少々ややこしいかもしれません。
ともかく、これでメソポーラス材料とは「直径が2~50nmの微細孔を持つ多孔性材料の総称であることがわかりました。



図1

  • メソポーラスであることのウリ

天然にも多く存在する(が故にその研究の歴史は長く、錬金術の時代から?すでに研究対象であった)ゼオライトは、そのマイクロ孔の小ささ故に、小さな分子(水、メタン、ベンゼン等)しか孔の中に入れないという制限がありました。(無論、孔の中ではなく外側の表面はアクセス可能なわけですが)これに対して、メソポーラス材料はその十分に大きなメソ孔のサイズ故に、多くの化合物を孔の中に導入することができます。多彩な化合物が入れるということは、つまり孔の中で多彩な反応を扱うことも可能となるわけで、この特徴を活かした不均一系反応場としての応用や(表面)修飾の容易さこそが、マイクロポーラス材料に無くてメソポーラス材料にある魅力の一つだと思います。

  • メソポーラスシリカの合成(1)FSM-16



図2. (参考文献[2]より)
1990年に早稲田大学の加藤忠蔵教授の(現在は黒田一幸教授が率いておられる)グループにより、層状ケイ酸塩の一種であるカネマイト(kanemite)に含まれるNa+を、イオン交換によりアルキルトリメチルアンモニウムイオン(界面活性剤でカウンターイオンがブロマイドおよびクロライドのものが市販されている、アルキル鎖の炭素数=12?20。CTAB(しーたぶ)※追記など。)と置き換え、これを焼成(calcination、500oC超の高温釜で焼くこと。)することにより有機物を分解除去することで、高表面積(?1000m2/g)かつ細孔径分布が狭い(?2nm)シリカ材料を得られることが報告されました[1]。その後、同グループの黒田教授と豊田中央研究所の稲垣伸二氏らにより、反応条件の最適化によって上記の3Dイメージ画像のような蜂の巣型構造(2Dヘキサゴナル、p6mm)が得られることが報告され[2]、この材料はその構造の生成機構からFSM-16(Folded Sheet Material)と呼ばれています。…(ここまで書いておいて何ですが、この「16」の由来をご存知の方は居らっしゃいますか?ひょっとしてただのサンプル番号か何か…)

続きます

  • 関連文献
[1] Yanagisawa, T.; Shimizu, T.; Kuroda, K.; Kato, C. Bull. Chem. Soc. Jpn. 1990, 63, 988. DOI:10.1246/bcsj.63.988.
[2] Inagaki, S.; Fukushima, Y.; Kuroda, K. J. Chem. Soc., Chem. Commun. 1993, 8, 680. DOI: 10.1039/C39930000680
後日追記
[3] Everette, D. H. Pure Appl. Chem. 1972, 31, 577. DOI:10.1351/pac197231040577

IUPAC Gold Book URL:  http://goldbook.iupac.org/M03853.html

※追記
CTABはCetyl Trimethyl Ammonium Bromideの略で、これはアルキル鎖の炭素数が16の界面活性剤ですが、炭素数が異なるものでもCTABもしくはCnTAB(n=炭素数)と表記し、特に口頭ではCTAB(しーたぶ)とだけ言う場合が多いです(実は日本人とこの分野の会話をしたことが無く、北米人の慣習しか知らないのですが)。

Avatar photo

せきとも

投稿者の記事一覧

他人のお金で海外旅行もとい留学を重ね、現在カナダの某五大湖畔で院生。かつては専ら有機化学がテーマであったが、現在は有機無機ハイブリッドのシリカ材料を扱いつつ、高分子化学に

関連記事

  1. 脱一酸化炭素を伴う分子間ラジカル連結反応とPd(0)触媒による8…
  2. カルコゲン結合でロジウム二核錯体の構造を制御する!
  3. 第15回ケムステVシンポジウム「複合アニオン」を開催します!
  4. マテリアルズ・インフォマティクスに欠かせないデータ整理の進め方と…
  5. ランシラクトンCの全合成と構造改訂-ペリ環状反応を駆使して-
  6. クライオ電子顕微鏡でATP合成酵素の回転の細かなステップを捉えた…
  7. アキラル色素分子にキラル光学特性を付与するミセルを開発
  8. 元素紀行

注目情報

ピックアップ記事

  1. カチオンキャッピングにより平面π系オリゴマーの電子物性調査を実現!
  2. 顕微鏡の使い方ノート―はじめての観察からイメージングの応用まで (無敵のバイオテクニカルシリーズ)
  3. 糖鎖を化学的に挿入して糖タンパク質を自在に精密合成
  4. ケミカルメーカーのライフサエンス事業戦略について調査結果を発表
  5. 原子力機構大洗研 150時間連続で水素製造 高温ガス炉 実用化へ大きく前進
  6. 超塩基に匹敵する強塩基性をもつチタン酸バリウム酸窒化物の合成
  7. シリンドロシクロファン生合成経路の解明
  8. 「サンゴ礁に有害」な日焼け止め禁止法を施行、パラオ
  9. 宝塚市立病院で職員が「シックハウス症候群」に…労基署が排気設備が不十分と是正勧告
  10. CAS SciFinder、革新的な新しいサイエンス・スマートAI機能を統合し、研究開発の効率化とイノベーションを促進

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2010年8月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP