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アルドール反応 |
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今回は、有機合成上重要で、天然物合成にも最もよく使われているアルドール反応についてのメカニズム、様々な応用、最近の研究の動向を調べてみることにした。まずはアルドール反応(Aldol Reaction)を知らない方のためにアルドール反応から説明してみよう。
▼ アルドール反応とは?
この反応は古くはプロトン性溶媒中でナトリウムエトキシドなどの塩基を用いて、エノラートを発生させそれをカルボニル化合物と反応させていた。このエノラートを出すために使われる、金属種に関しても膨大の量の研究がなされていて、主に、リチウム、ホウ素、ケイ素、等が用いられている。各種エノラートを用いるアルドール反応の特徴を簡単に述べてみよう。
▼ 各種金属エノラートからのアルドール反応
・リチウムエノラート プロトン性溶媒中では、エノラート生成にアルコキシド程度の塩基性を持つものしか使用できないため、エノラートを平衡的にしか生成できない。しかし、THF等の非プロトン性溶媒中では、LDAやLHMDSなどの強く、嵩高い塩基を用いてエノラートを定量的に発生させることができる。嵩高い塩基を用いるのはカルボニル基への求核付加を抑えるためである。
エノラートの立体配置はカルボニル化合物の構造、塩基、溶媒等に大きく影響され、トランスエノラートからはアンチ体、シスエノラートからはシン体のアルドール付加体が優先して選択的に得られる。反応は6員環遷移状態をとおり進行する。
・ホウ素エノラート リチウムエノラートと同じように嵩高く、強い塩基を用いて発生させるが、アルドール付加体は一般にはリチウムエノラートより高い選択性が発現する。これは、アルドール反応の際通る6員環遷移状態でC-B、O-B結合がC-Li、O-Li結合よりも短く相対的安定性の差が高まるためである。
・ケイ素エノラート 他の金属種のエノラートは単離することが困難であるが、ケイ素エノラートは安定で単離精製することができる。またケイ素エノラートは他の金属種が塩基性条件下で反応するのに対し、TiCl4、SnCl4、TMSOTf等のLewis酸存在下でアルデヒドと反応しアルドールを与える。1)(向山アルドール反応)シン、アンチの生成比は、用いるアルデヒドやケイ素エノラート上の置換基の嵩高さ、Lewis酸の大きさなどによって大きな影響を受ける。
この他にも様々な金属種が使われていて、それぞれ特徴があるが主なものは上記の3つのものである。近年では、これらのエノラート(主にケイ素エノラート)に様々なキラル触媒を用いた、不斉アルドール反応も多く報告されている。次にちょっと観点を変え、リチウムエノラートの溶媒のaggregation(会合)を考えたメカニズムについて説明してみよう。
▼ 解離機構と非解離機構2)
例としてTHF中、塩基としてかさ高いLDAを用い、-78℃でリチウムエノラートを発生させ、アルデヒドを作用させるメカニズムを説明する。この反応メカニズムには、溶媒等の会合状態を考えない解離機構(図2)と会合状態を考慮する非解離機構(図3)がある。
図2 解離機構
一方、非解離機構においてはLDAは嵩高い置換基を持っているため、会合状態1.63でTHF中溶解し二量体を形成している。リチウムアミドは二量体のまま反応に関与するが、真の活性種である開環二量体がプロトンを引き抜き、エノラートとアミドとの混合環状二量体がまず生成する。この過程が繰り返されることによりエノラート二量体が生じ、これがさらに会合し四量体になる。
図3 非解離機構
アルドール反応において解離機構は溶媒を考慮せず単量体のエノラートが六員環遷移状態を通りアルドール付加体が生成するという考えである。一方非解離機構では、図のような四量体のリチウムにアルデヒドのカルボニルが配位し四量体内に取り込まれ、これをこれが繰り返されるという機構である。リチウムエノラートや生成物アルドラートが会合していることを考えると非解離機構の方が正しいように考えることが出来る。しかし文献より四量体エノラートの状態はこのような結晶構造が存在していることが確認されているが、pre-aldol
complex中間体は結晶構造を得られていないとある。 最後に現在のアルドール反応の研究例を数例述べてみる。
▼ 最近のアルドール関連の研究
最近でも様々なアルドール反応の研究が報告されている。一例をあげてみよう。
・水系溶媒中での触媒不斉アルドール反応3)(図4)
図4 水系溶媒中での触媒不斉アルドール反応
東京大学の小林らは水を含む溶媒下、水中でも安定なルイス酸として作用するPb(OTf)2、図のようなキラルなクラウンエーテルを使った場合Z-シリルエノールエーテルに対し、ベンズアルデヒドを作用させると、、syn体に対して55%eeでエナンチオ選択的なアルドール反応が行えることを報告した。Pb(OTf)2はそれほど強いルイス酸でなく、有機溶媒中では収率が低いことから水が反応を促進していると考えられる。
・LLB-KOH触媒による直接的不斉アルドール反応4)(図5)
図5 LLB-KOH触媒による直接的不斉アルドール反応
アトムエコノミーのためシリル化されたエノラート等を使わず、非修飾ケトンを用いる不斉アルドール反応は酵素では報告されているが、人工低分子触媒を用いる反応は今まで報告されていなかった。筆者らは人工低分子触媒としてLLB(ランタンーリチウムBINOL錯体)を用い、触媒的不斉アルドール反応を報告している。この反応では、LLBと強固な錯体形成を起こしている強塩基(KOH)がエノラート生成を有利にし、ランタンにより活性化されたアルデヒドと反応することによって不斉誘起が起こっていると考えられる。
・ドナーとしてα-ヒドロキシケトンを用いた触媒的不斉アルドール反応5)(図6)
図6 ドナーとしてα-ヒドロキシケトンを用いた触媒的不斉アルドール反応例
ドナーとしてα-ヒドロキシケトンを用いるアルドール反応は難しく、今まで報告されていたものでは収率、エナンチオ選択性も低かった。しかし、図6のような触媒を用いると、α位にヒドロキシル基をもつアルドール反応も高収率で、エナンチオ選択性もよく進行することが報告された。
その他に二ホウ素化エノラートを中間体とする不斉ダブルアルドール反応6)等、多くの興味深い反応が報告されている。
以上アルドール反応について簡単に述べてみたが、まとめると何冊かの分厚い本になるくらいの研究が過去、現在にになされている。古くから知られていて、これほど多くの研究がなされている反応は数少なく、有用な反応であると言えるであろう。また、知っている分かりやすい基礎的なものほど、応用がきき、内容が深いものであるので、ご自分でもぜひ他にもいろいろと調べてみて欲しい。 化学って面白いよね! (2001.6.4 by ブレビコミン)
▼参考、関連文献
・大学院講義有機化学I,II 野依良,治ら編 東京化学同人(1999) 1)T.Mukaiyama,K.Banno,K.Narasaka,J.Am,Chem,Soc.,96,7503(1974) 2)J.Am.Chem.Soc.,Vol.115,3380-3381(1993) 3)Satishi Nagayama and Shu Kobayshi J.Am.Chem.Soc,122,11531-11532(2000) 4)季刊「化学総説」No.47有機合成化学の新潮流 東京化学同人(2000) 5)Barry M, Trost,Hisanaka Ito et al.,J.Am.Chem.Soc.123,3367(2001) 6)Atsushi.Abiko et.al.,J.Am.Chem.Soc.,121,7168(1999) J.Am.Chem.Soc.,123,4605(2001)
近年のアルドール反応に関しての総説をまとめた本。アルドール反応を研究している著名な研究者が多くの例を挙げてアルドール反応を解説。 . . . .
▼関連リンク
・固体超強酸を用いた有機反応;アルドール反応の検討(PDF) ・ボロンアルドール反応の新展開(東京化成 寄稿論文 PDF) ・触媒的不斉合成技術の開発(東京大学薬学部 柴崎正勝教授) ・シリルジアゾ酢酸エステルのアルドール反応(ITLab) ・ランタノイド有機合成(Chem-Station) ・多種類化合物群の効率的合成を指向した分子レベルでの反応開発(東京大学薬学研究科 小林修教授 PDF)
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【用語ミニ解説】
■プロトン性溶媒
アルコールや水、アミン、酸など。それに対して非プロトン性溶媒はDMSO、アセトニトリル、THF、ベンゼンなどを指す。
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■LDA
Lithium Diisopropyl Amide。
立体的な嵩高さから求核性が低いため、塩基として作用する。
■LHMDS
Lithium hexamethyldisilazide 。
酸は電子対を受け取るあらゆる物質であり、塩基は電子対を供与するあらゆる物質である。この定義にあてはまる酸をルイス酸、塩基をルイス塩基と呼ぶ。
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