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化学者のつぶやき

第1回ACCELシンポジウムを聴講してきました

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イノベーション創出を目指すトップサイエンティストが、産業化との橋渡しに関わる人材と両輪で取り組む、日本ではまだ見慣れぬ形式の研究費「ACCEL」。これに匹敵するスケールのグラントは日本にほぼないため、採択者は研究者コミュニティ内外から大きな注目を集めています。

支援を受けたトップサイエンティストたちは、いったいどのような未来像を見ているのだろうか?また、ACCELという仕組みは何を目指しているのだろうか?

そのような疑問や期待に応じて、関係者が一堂に会し議論を交わすシンポジウム「第1回ACCELシンポジウム~トップサイエンスからトップイノベーションへ~」が2015年9月12日に開催されました。

筆者も聴講する機会に恵まれましたので、あくまで個人的目線ですが、様子を簡単に紹介してみたいと思います。

※現地は写真撮影禁止だったため、文章中心の紹介になりますことをご了承ください。

 

ACCEL(アクセル)とは?

科学技術振興機構(JST)が2013年(平成25年度)より新しく立ち上げた、イノベーション創出指向型グラント(研究費)です。研究者が受領できる研究費としてはおそらく最高級の額面(5年、年間3億円程度まで)を誇ります。

他の大多数のグラントと一線を画する点は、傑出した学術研究シーズを持つ「トップ研究者」が、その社会実装を通じたイノベーションを目指す「プログラムマネージャー(PM)」とタッグを組んで進めるという方式にあります(参考:プログラムの概要)。

これにより、現時点では実用化されていない技術の権利化、ベンチャー設立、他事業への展開など、学術的活動だけでは困難な方向へも持続的な道を付けることを主眼としています。

採択者の履歴を見るとわかりますが、ERATOやCRESTなどといった巨額のグラントで既に得たトップクラスの学術的成果を、さらに展開させて行く位置づけと捉えることができます。

このような研究費ですから、当然ながら誰もが貰えるわけではありません。

日本が誇る、押しも押されぬトップ中のトップ研究者だけが採択されています。立ち上げたばかりのグラント方式を持続的な事業に仕上げるべく、そこまでスレスレの人材は選べない・・・という事情ももちろん手伝ってのことかも知れませんが。

 

会場の様子・進行

シンポジウム会場は丸ビルのホール。100人強程度収容する場所としては立派な会場であり、JSTの気合いの入れようがうかがえます。同時期に始まったイノベーション指向型グラントImPACTのキックオフフォーラムも同じ会場だったそうで、この手のイベントには使いやすい場所なのかも知れません。

さて肝心の会ですが、NHKの科学解説委員・アナウンサーの2人が進行を務めつつ、プロジャーナリストならではの視点から、研究者・PMに質問を投げかけつつ進んでいました。

まずは文部副大臣の藤井基之氏が開幕の挨拶。その後、経営共創基盤CEOの冨山和彦氏による基調講演がありました。

冨山氏はG型/L型大学の提唱で議論を呼んだ方でもありますが、著書にもある以下の図を示しつつ、グラントの主旨・思想枠と現代日本における必要性を分かりやすく説明しておられました。

ACCEL_sympo_3

冨山和彦なぜローカル経済から日本は甦るのかから引用

アプリ開発などで簡単にベンチャーが立ち上がっていた一昔前(右下のII)から、Heavy Scienceに軸足を置く産業創出(右上のI)へ主流が移るだろう世界的潮流があり、インターネットが爆発的に普及した時代の再来がうかがえる、しかしそれに適した研究開発エコシステムが日本には欠けている、というのが要点です。その現状を踏まえ、ACCELをその代表例にしたい思いがあるようです。
その後は、第1部(平成26年度採択者)、第2部(平成25年度採択者)を2部構成で進みました。採択された研究課題について、解決する社会問題、可能なイノベーションについて簡単に紹介が持たれました。作り込まれた動画で概要が紹介された後、研究者自身の言葉によるプレゼンが行われます。

ACCEL採択者一覧(シンポジウム公式ページより引用)

ACCEL採択者一覧(シンポジウム公式ページより引用)

トップサイエンティストが一堂に会してビジョンを語るわけで、必然スケールの大きな話ばかりとなり、正直圧倒されました。化学領域からの採択者が多いことも手伝って、どのような成果が出てくるか、見逃せない布陣であること間違いありません。大変面白く聴かせて頂きました。

プレゼン後に進行役から投げかけられた質問は、総じて「ライバルはどこの国か?」「実際どの程度大きなインパクトが見込めるのか?」「社会はどう変わっていくのか?」といった類のものでした。産学連携+イノベーションを本気で推し進めたいACCEL側の姿勢と、そのための雰囲気作りを率先して行おうとする意識が見えていたように思います。筆者自身も大きな目線で課題設定を行うためには、何が必要なのかといろいろ考えさせられました。

また第2部後半では、「優れた発想を生み出す土壌とは?」「PMという職業とは何なのか?」などのテーマをもとに、採択者とPMを交えたパネルディスカッションがフランクに繰り広げられました。

総じて皆さん十人十色な発言を呈しており、研究者陣のキャラクターは強烈であることを改めて感じました。それ以上に印象的だったのは、PM陣も負けず劣らず個性的な方々揃いということです。一癖も二癖もある研究者と対等に議論し合うことを求められる役職ですから、それぐらいじゃないと務まらないのかも知れません。

PMの多くは企業での研究マネジメント経験を持つ、老齢の方が着任されている様子です。研究者の補佐役と言うより、研究シーズを社会にどう還元し、繋げていくかの企画を主体的に考えねばならない役割のようです。どちらか主か従かという見方は意味を持たず、まさに両輪でプロジェクトを回していかねばならない存在だと感じました。その意味では、研究者とPM、二人の息がぴったり合わない限り、このスケールのプロジェクトは上手くまわらなそうだという印象も受けました。

PM制は米国DARPAなどでも採用される方式だそうですが、その本場でも「PMは教育して育つものではない」「若い人材にやらせてみて、手痛い失敗をしてもらい、それを糧に大きくなってもらう」というスタンスで担当させるような役職なのだとか。確かに起点となる研究テーマ自体が超個性的ですから、各プロジェクト毎に注力すべき点はまったく違いそうです。それに加えて、日本ではほぼ前例のない職種ですから、むしろ現場主義・個性的な方式を色濃く執らねばならない仕事になると言えるのではないでしょうか。

そして最後は、理研の松本洋一郎氏によるクロージングリマークで幕を閉じました。

 

おわりに

大学のシーズを産業化するという、イノベーション・産学連携を謳う巨額グラントの嚆矢ですが、日本にとっては比較的新しい取り組みということで、まだまだこなれていない部分も多そうな制度ではあります。ひな壇に立っていた講演者・研究者・PMの方々も、アメリカ式とは違う、日本の土壌にマッチした制度を目指し発展させていくことを、強く意識されていたように思います。こういう意欲的な姿勢には、大いに期待を寄せたいところです。

 

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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