[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

【書籍】英文ライティングの基本原則をおさらい:『The Element of Style』

[スポンサーリンク]

今回紹介する書籍『The Element of Style』は、いわゆるライティング基礎を扱った古典です。欧米の大学でも教材として用いられた実績を持つ、各方面から定評のある名著です。

文学的表現を対象とするのではなく、科学論文に必須な”Keep Simple”を追求したライティングスタイルがテーマです。簡潔明快な英文ライティングを行うための基本原則がまとまっている、広く理系にとって有益な書物だと思えます。


例えば、

原則として、パラグラフはトピックセンテンスで始める; 始まりと対応する形で終える
カンマの打ち方
能動態を使う
不要な語を省く
強調する語は一文の中で最後に置く

などなど、ごくごく基本的な事項ながら、ネイティブでもしばしば誤りがちなことがらも多く取り上げられています。

初版は1918年、最新第4版も1999年刊行と古い本ですが、極めて根源的な原理原則を扱うためでしょう、全く古びた内容になっていません。

論文を日常的に読み書きするプロ研究者(の卵)であれば、ことさらに必要ないレベルの書籍かも知れません。しかしその前段階にある、英作文トレーニングを試みる学生・社会人の基礎固め・補助教材として見れば、とても有益なものの一つと思えます。逆に言うなら、ここに書かれている内容が過不足無く押さえられていないようでは、ちゃんとした骨格の英語は書けないと知るべきなのでしょう。

AmazonやiTunesなどから買っても良いのですが、本書は既に著作権が失効しており、実はWebでその全てが読めます。もっと有難いことに、日本語訳されたものが公開されてもいます。筆者はこのサイトをPDF化して携帯しています。英語の苦手な日本人には、特にオススメです。

この上なく優れた書き手は時にレトリックのルールを破ることがあると、古くから知られている。しかしながら彼らがそうするときはたいてい、その文にはルールを破るに値するメリットがあることが、読み手にも分かるものだ。同様にうまく書けるという確信がない限り、おそらく原則を守るのが最善だろう。優れた書き手の指導により、日常利用に適した簡素な英語を書くことを学んだその後で、スタイルの秘密を探求させ、文学の達人たちを研究することへと目を向けさせよう。(日本語訳・序論より引用)

研究を含めた創作活動には常時チャレンジが必要ですが、最初から奇抜なことや突拍子も無いことをやろうとしても、たいていうまく行きません。失敗したあとに戻ってこれるような土台、それを底上げし固める地道な作業努力が、プロとしてやっていくには不可欠となります。

こういった根本的内容を時間のあるたびに再確認しておくことは、どのステージにあっても、きっと役立つに違いありません。

 

関連リンク

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 元素名を名字にお持ちの方〜
  2. 【第48回有機金属化学セミナー】講習会:ものづくりに使える触媒反…
  3. 無保護環状アミンをワンポットで多重官能基化する
  4. 研究活動の御用達!PDF加工のためのクラウドサービス
  5. 第25回 名古屋メダルセミナー The 25th Nagoya …
  6. 水分子が見えた! ー原子間力顕微鏡を用いた水分子ネットワークの観…
  7. 若手研究者vsノーベル賞受賞者 【基礎編】
  8. ヒト胚研究、ついに未知領域へ

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 国際化学オリンピック2022日本代表決定/化学グランプリ2022応募始まる
  2. (−)-Salinosporamide Aの全合成
  3. 長井長義の日記など寄贈 明治の薬学者、徳島大へ
  4. 超高速レーザー分光を用いた有機EL発光材料の分子構造変化の実測
  5. 近年の量子ドットディスプレイ業界の動向
  6. H・ブラウン氏死去/米のノーベル化学賞受賞者
  7. トロスト不斉アリル位アルキル化反応 Trost Asymmetric Allylic Alkylation
  8. フェティゾン試薬 Fetizon’s Reagent
  9. 冬のナノテク関連展示会&国際学会情報
  10. とある難病の薬 ~アザシチジンとその仲間~

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2010年11月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

光と水で還元的環化反応をリノベーション

第609回のスポットライトリサーチは、北海道大学 大学院薬学研究院(精密合成化学研究室)の中村顕斗 …

ブーゲ-ランベルト-ベールの法則(Bouguer-Lambert-Beer’s law)

概要分子が溶けた溶液に光を通したとき,そこから出てくる光の強さは,入る前の強さと比べて小さくなる…

活性酸素種はどれでしょう? 〜三重項酸素と一重項酸素、そのほか〜

第109回薬剤師国家試験 (2024年実施) にて、以下のような問題が出題されま…

産総研がすごい!〜修士卒研究職の新育成制度を開始〜

2023年より全研究領域で修士卒研究職の採用を開始した産業技術総合研究所(以下 産総研)ですが、20…

有機合成化学協会誌2024年4月号:ミロガバリン・クロロププケアナニン・メロテルペノイド・サリチル酸誘導体・光励起ホウ素アート錯体

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年4月号がオンライン公開されています。…

日本薬学会第144年会 (横浜) に参加してきました

3月28日から31日にかけて開催された,日本薬学会第144年会 (横浜) に参加してきました.筆者自…

キシリトールのはなし

Tshozoです。 35年くらい前、ある食品メーカが「虫歯になりにくい糖分」を使ったお菓子を…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP