[スポンサーリンク]

日本人化学者インタビュー

第八回 ユニークな触媒で鏡像体をつくり分けるー林民生教授

[スポンサーリンク]

このインタビューも始まって3ヶ月を過ぎました。各所で非常に良い評価を受けています。今後も続けていきたいと思いますので、応援とご協力よろしくお願い致します。さて、第8回目は第3回目の北原武先生からのご紹介で、京都大学理学研究科の林民生教授にインタビューいただきました。林教授は独自の不斉配位子を合成し、遷移金属触媒を用いた数多くの不斉触媒反応を報告しています。日本が誇る不斉触媒反応分野の第一人者であり、本年度紫綬褒章も受賞致しました。それではインタビューをごらんください。

 

Q. あなたが化学者になった理由は?

「蚊が喰う」(化学 Vol.61, No.4, 2006)などふざけ目versionはすでにいくつか書いています.ここではまた別のホントの理由を述べます. 京都大学工学部合成化学科にたまたま入学してしまったから.受験予備校のような灰色生活が要求される高校生時代は,将来何を学びたいかをゆっくり考える余裕が全くなかった.大学に合格できれば何でもよかった. ところがたまたまの合成化学科生活が一旦始めるととても楽しかった.結果が分かっている3年生の学生実験も楽しめた.

4年生になり研究室に配属されてからは,よい先生方(熊田誠,山本経二,石川満夫,玉尾皓平ら),よい先輩,よい研究テーマに恵まれてますます楽しくなった.比較的短時間でとりあえずの結果が見える有機合成化学が,小さな結果でも目前の事象に喜びを感じる私の性格と相性がよかったのであろう. その後これもたまたま大学に残ることになり,数十年化学を学び続けていると「化学者」と呼ばれて,まあ他に適切な呼ばれ方もないかと納得する.

熊田誠

熊田誠

 

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

なりたいわけではないが,なれば成功したであろう職業として,外科医.細かい手作業と瞬間瞬間の状況判断に自信があるから.なりたかったことがあるのは船乗り.大学の学部生4年間体育会ヨット部所属.波が船体にあたる音を聞いていると一日中幸せであった.

 

Q. 現在、どんな研究をしていますか?また、どのように展開していきたいですか?

遷移金属錯体触媒を用いる高選択的な有機合成反応の開発.最近のヒット作としてはキラルジエン配位子を用いた触媒的不斉合成があげられる.シクロオクタジエンに代表されるジエンを配位子として用いると従来のホスフィン配位子より触媒活性が高くなる反応がロジウム触媒反応を中心にいくつか見つかり,これら触媒反応の不斉化にキラルジエン配位子は便利に用いられる.このあたりにまだまだおもしろそうなネタがいっぱいある.またキラルジエンの次の新しい研究テーマを育てなければならないが,まもなく京都大学の定年となるので,どこまでたどり着けるでしょうか.

hayashi_ligand

 

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

ちょっとはずしてクレオパトラ.塩野七生の「ローマ人の物語」ではとても評価が低いが,クレオパトラには何らかの魅力があったはず.クレオパトラお姉様(なぜか5歳ほど年上の設定)と35歳前後の私が食べ物の好みや今日の出来事などボソボソ話しながらくつろいだ夕食.

 

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

昨年(2009年)12月に中国広州の中山大学で,空気中で酸化されやすい光学活性ホスフィン配位子の再結晶のやりかたを現地の学生に示した.ちゃんとした合成実験は,北大触媒化学研究センター時代の1990年頃に新しい置換基をもつ不斉フェロセニルホスフィンを合成したのが最後.

 

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

今砂漠の島に行かねばならないのならば,村上春樹「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」.とくに村上春樹が好きなわけではない.ちょうど読み始めて,入り込みにくい出だしがようやく終わりおもしろくなりはじめたところ,最後まで読まねば. 音楽一曲ならば,Cream “Sunshine of your love”.通勤の車の中でよく聞いている.この繰り返しフレーズが一日中流れていたらどんなものでしょう.悪くない気がする.

 

Q. 次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。

北原先生にご紹介いただいたこの「化学者数珠繋ぎ」は,やや御年配の先生が登場するシリーズと理解しています.70歳に近くなってもまだ第一線で活躍中の,植村元一,大寺純蔵先生に,おなくなりになる前にひとことお願い致します.

 

関連リンク

 

林 民生教授の略歴

tamio_hayashi林 民生

京都大学大学院理学系研究科教授。1975年京都大学大学院工学研究科合成化学専攻 博士課程修了誤、同大助手に採用、 1989年に北海道大学触媒化学研究センター 教授となる。その後、1994年より京都大学大学院理学研究科化学専攻教授、現在に至る。受賞歴は1991年 日本IBM科学賞 2002年 日本化学会賞、2008年 野依賞 2008年 アーサー・C・コープ スカラー賞、2010年 紫綬褒章など多数。

webmaster

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 第五回 超分子デバイスの開発 – J. Fraser…
  2. 第32回「生きている動物内で生理活性分子を合成して治療する」田中…
  3. 第48回―「周期表の歴史と哲学」Eric Scerri博士
  4. 第19回「心に残る反応・分子を見つけたい」ー京都大学 依光英樹准…
  5. 第55回―「イオン性液体と化学反応」Tom Welton教授
  6. 第10回 太陽光エネルギーの効率的変換に挑むー若宮淳志准教授
  7. 第31回 ナノ材料の階層的組織化で新材料をつくる―Milo Sh…
  8. 第30回「化学研究の成果とワクワク感を子供たちにも伝えたい」 玉…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. natureasia.com & Natureダイジェスト オンラインセミナー開催
  2. カーボンナノベルト合成初成功の舞台裏 (2)
  3. ケムステイブニングミキサー2018へ参加しよう!
  4. 三菱ケミの今期経常益‐1.8%に、石化製品市況弱く
  5. 東レ工場炎上2人重傷 名古屋
  6. モリブデン触媒
  7. 大学院生になっても宿題に追われるってどないなんだが?【アメリカでPh.D.を取る–コースワークの巻–】
  8. 三菱化学が有機太陽電池事業に参入
  9. 大学の講義を無料聴講! Academic Earth & Youtube EDU
  10. 新規抗生物質となるか。Pleuromutilinsの収束的短工程合成

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

注目情報

注目情報

最新記事

化学者のためのエレクトロニクス講座~有機半導体編

このシリーズでは、化学者のためのエレクトロニクス講座では半導体やその配線技術、フォトレジストやOLE…

第120回―「医薬につながる複雑な天然物を全合成する」Richmond Sarpong教授

第120回の海外化学者インタビューは、リッチモンド・サーポン教授です。カリフォルニア大学バークレー校…

DNAナノ構造体が誘起・制御する液-液相分離

第274回のスポットライトリサーチは、佐藤佑介 博士にお願いしました。液-液相分離は近年の一…

常圧核還元(水添)触媒 Rh-Pt/(DMPSi-Al2O3)

一般的な特長Rh-Pt/(DMPSi-Al2O3)は、優れた活性を示す水素還元(水添)触媒です。…

世界最高の耐久性を示すプロパン脱水素触媒

第273回のスポットライトリサーチは、北海道大学触媒科学研究所・中谷勇希さんにお願いしました。…

第119回―「腸内細菌叢の研究と化学プロテオミクス」Aaron Wright博士

第119回の海外化学者インタビューは、アーロン・ライト博士です。パシフィック・ノースウエスト国立研究…

化学者のためのエレクトロニクス講座~化合物半導体編

このシリーズでは、化学者のためのエレクトロニクス講座では半導体やその配線技術、フォトレジストやOLE…

次世代電池の開発と市場予測について調査結果を発表

この程、TPC マーケティングリサーチ株式会社(本社=大阪市西区、代表取締役社長=川原喜治)は、 次…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP