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一般的な話題

3.11 14:46 ①

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 東日本大震災から1ヶ月。震災によって亡くなられた方、被災された全ての方々に、衷心よりお見舞い申し上げます。

 

 

3月11日14時

東北の春は遠く、三月になっても雪が降ることがある。その日も、日中は過ごしやすいが、夕方にかけて天気が崩れるとの予報が出ていた。今年の卒業式は雪だろうか?そんなことを考えたりもした。そういえば去年は雪が降ったことを思い出していた。隣の机ではなにやら四年生達が騒いでいる。誰それの誕生日だとか、そんな話だった。机の上に山のように積み上げられた駄菓子。卒論、修論提出を終えた学生達の談笑が居室に響いていた。どこにでもある研究室の日常だった。

 

僕たちは、その数十分後に起こる大災害について、知る由もなかった。

このまま何気ない毎日が、ずっと続くものと、そう思っていた。

 

2011年3月9日11:45

大地震から遡ること二日前に、今思えば今回の大災害の予兆はすでに起きていた。宮城県沖を震源とする地震が頻発していたからだ。この時の最大震度は5弱。僕の研究室も相当揺れた。14階建ての最新の研究棟には免震機構が備わっていると聞いていたが、実際の揺れには数字以上の恐怖があった。ガラス器具、試薬類の破損こそ無かったものの、防爆冷蔵庫、試薬用冷蔵庫に不具合が起こった。デスク周りの書類は多少煩雑になったものの、書棚の倒壊などの被害はなかった。居室の本棚、カラーボックスには耐震シート(家具などのズレ、転倒を防ぐもの)が敷かれていたし、試薬棚には施錠、ガラス器具棚には地震対策がしっかりとされていた。「無事(平時)から有事のことを常に頭に置き、有事(危機)が起きた時に、どう動くかにかかっている」と西郷隆盛は言ったそうだが、確かに宮城県沖地震が来る来るとずっと言われ続けていたので、常日頃、地震対策が指示されていた。(これが、後々になって大きな効果を発揮するとは思わなかった。)震度5程度であれば多いときで年に1~2回は起こる。実際、僕が研究室に配属になってから、震度5以上の地震を体験したのは5回以上になる。これが宮城県沖地震だったらな、と毎回思った。この程度で済めば御の字だとも。

 

でも、実際は違った。

今回の地震はこれまでの比ではなかった。今でも思い出すと足が震える。

 

3月11日14時46分

午後の静寂を切り裂いて、緊急地震速報が響いた。携帯のエリアメールが地震を知らせる。今まで、速報の後に大きな揺れが来たことはなかったので、誤報かと学生達と笑った。そうでなくとも僕のいた研究棟の館内放送は間の抜けた音がするのだ。

 

今になって思う。僕たちには、絶対的に危機感が足りていなかった。

 

どこからともなく、低い地鳴りのような音が響いてきた。その直後、足下を掬われるような衝撃が僕たちを襲った。程なくして建物全体が激しく揺れ始める。いつもの地震とは異なる長い揺れだった。次第に震幅が大きくなるのが分かる。あちこちで何かが倒れる音がする。もはや立っていることも適わない。一瞬にして、日常が失われていく。

 

地震発生当時、僕はデスクワーク中だった。僕の机の右側は本棚で、左側には平置きされた書類が山になっていた。それらが雪崩のように僕に降りかかる。身を挺してノートパソコンを守り。実験室に向かう。足取りがおぼつかない。膝が震えているのか、床が揺れているのかが分からなかった。悲鳴や叫声が研究室に響き渡る。蛍光灯が点滅する。パニックになっている学生を机の下に押し込め、実験室に向かう。本当は正しい判断ではなかったのかもしれない。でも、使用中のオイルバスを止めなくてはならない。震度に関わらず地震が起こったら反応装置を止めるのが常となっていた。可燃性の試薬、溶媒に引火すれば、この階は火の海になるからだ。急いでオイルバスを止め、フラスコを上げ、机の下に潜り込んだ。停電が起き、天候のせいか何なのかいつもより部屋が暗く思えた。ようやく、揺れが収まったころ、覚束ない足取りで実験室内を見て回った。立ち上げ当初から携わった実験室が跡形もなかった。卓上にあった実験器具が床に散乱し、オイルバスからオイルがこぼれていた。もはや足の踏み場もない。冷蔵庫やガラス器具用の乾燥機があり得ない位置まで動いていた。しばらく実験は無理だろうと思った。それが本当に悲しかった。手垢の付いた実験器具、分析機器達の無残な姿。自然と涙がこぼれた。途方に暮れると人は泣くんだなと思った。でも、泣いてる場合ではなかった。廃液タンクの蓋をしっかりと閉め、引火の恐れのある可燃性の溶媒、エバポレーターのトラップ内の回収溶媒、蒸留塔内のアセトンを処分した。こぼれたオイルバス付近に溶媒等の漏洩時に用いるマットを敷き、応急の対処をした。そして、貴重品だけを手に取り、駐車場へ避難した。階段には、今回の地震の大きさを物語るように、大きなひびが入っていた。

 

皆一様に困惑した様子で、でも、慌てることなく階段を下りた。懸念されたパニックや将棋倒しが起こらなかったことがせめてもの救いだった。避難訓練、安全教育の賜だと改めて思った。巨大地震の発生から震度5~6の余震が相次いでいた。いつ収まるともしれない余震に誰もが怯えていた。駐車場で避難してきた学生や先生方と身を寄せ合っていると、雪が降ってきた。着の身着のままだった僕たちは、凍える寒さの中、ただただ立ち尽くすしかなかった。全く意味が分からなかった。現実を受け入れる余裕など無かった。ほんの数十分前まで、3月末に開かれる予定だった年会のことや、数日後に控えていた旅行のことを考えていた。学生に駄菓子を買ってやろうかとか、夕飯は何にしようかとか、引越の準備をしなきゃなとか、基質の追合成をしようとかそんなことを考えていたのに。

 

それからしばらくして、辛うじて繋がったワンセグで、断片的な情報が手に入った。津波が沿岸部を襲ったらしい。え?津波?と思った。名取市(仙台市の南)にある空港が水没したと聞いた。国道45号線沿いの町が、膝まで水に浸かったとも聞いた。荒浜が無くなったと聞いた。そして、僕の地元も…。訳が分からない。慣れ親しんだ街が姿を変えてゆく。その時、駐車場の横のプレハブのところで崖崩れが起こった。木々が、ゆっくりと山に飲まれて沈んでいくような感じだった。見ると駐車場のあちこちが不自然に隆起したり沈降したり陥没したりしていた。その時研究棟からうっすら煙が上がっているのが見えた。火事か?誰もがそう思った。確かめに行かなきゃならない。でも誰が?どうやって?あの建物の中に?爆発する?止まない余震、錯綜する情報、渦巻く不安、繋がらない携帯。

 

寒空の下、震える僕らに容赦なく雪が降り積もる。

東北の春はまだ遠い。失ってしまった日常は、春よりも遠くにある気がした。

 

これが、後に東日本大震災と呼ばれる災禍の始まりだった。

 

参考

 

後書き

冒頭の写真は、どくたけの身の回りの地域、そして地元の写真の一部です。僕の思い出の場所や道、地元の一部は、失われてしまいました。

この記事で、何が訴えたいのか、有機化学系のブログに掲載するべきなのか判断しかねましたが、運営の方々と話し合った末、掲載することになりました。余震が続く中、復興の兆しも微かに見え始めてきてはいますが、大部分の人が疲弊しています。

これからどうすればいいのか、あるいは、どうすればよかったのか、それらを含めて、全ての人がこの震災に向き合う必要があるのだと思います。

どくたけ

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HNのどくたけはdoctor Kの略語です。 chem stationを通して、化学の素晴らしさ面白さ等を 伝えていけたらいいなと思います。 宜しくお願いいたします。

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