[スポンサーリンク]

化学一般

化学で何がわかるかーあなたの化学、西暦何年レベル?ー

[スポンサーリンク]

[amazonjs asin=”4873265959″ locale=”JP” title=”「化学」で何がわかるか―あなたの化学、西暦何年レベル?”]

 概要

「化学を知ることとは何か。なぜ化学者以外には難しいのか」を考えるために、そして、その困難さを打ち破るヒントを得るために書かれたものである。(中略)化学の本当のエッセンスを知ることによって、日常生活の有用な知識が得られ、あるいは、無用な不安から解放される。(「はじめに」より抜粋)概要

 対象

化学に漠然とした悪いイメージを持っている一般の方。化学リテラシーを身につけたいと考える高校生、大学生。

 解説

著者の安井至博士は東京大学名誉教授、国際連合大学名誉副学長という肩書きを持っており、近年では製品評価技術基盤機構理事長をされています。特にwebで以前より様々なオピニオンを積極的に発信しており、いわゆる疑似科学(エセ科学)に関しての啓蒙で著名です。

本書では第1部「まずは歴史を遡る」にて特にアリストテレスの四元素説から、原子論の黎明期について順を追って分かりやすく解説しています。また、新元素の発見物語とでも言うべきエピソードなどは丁寧で興味を多いにそそられました。そして「化学」を嫌いになる第一歩であるモル、言い換えればアボガドロ数がいかに巨大な数であるかを解説し、原子レベルの微小な世界と、私たちの常識がいかに乖離しているかを説明します。例えば、6×10^23(10の23乗)秒前ってどれくらい前だろうかなど。そして、私たち日本人にとって、いや人類にとっての転換期となったかもしれない2011年3月に起きた福島第一原子力発電所の事故について時代をたどっていきます。副題にもあるように、要所で解説した事項を知っていれば読者の化学知識が、人類の化学史における西暦何年レベルかを紹介しており、自らの知識レベルについて知るいい機会を提供してくれています。ただ逆に言えば、全部知っているようだったら(西暦2012年レベルだったら)、本書は不必要ということになりますので複雑です。

続く第2部では、「生化学の発展」について解説します。人類を含む生物は化学物質で構成されていることから、この生化学が特にこれから重要になってくるでしょう。化学の一般書で生化学に大きく踏み込む内容は珍しいように思います。第2章 「生命現象は化学反応か?」、第3章「遺伝も化学反応か?」という見出しから分かるように、生命活動に化学反応が密接に関係していることを分かりやすく解説しています。所々、著者のオピニオン、例えば温室効果ガスなどに関する事項もちりばめられており、専門的になりすぎず、一般の読者の興味を惹く事でしょう。

そして最終第3章では、前章までで振り返った化学の歴史的な流れなどを総合的に考え、応用編と称して「これまでの化学の知識がどのような考え方に発展するのか」について解説します。冒頭のダイオキシン騒動に関する事項は必読で、化学リテラシーに関する典型的な事項を非常に分かりやすくまとめてあります。そして、近年の日本人には必須の知識である原子力、または放射線に関しての解説は大変ためになることと思われます。最後は地球温暖化など人類の未来についても著者の私見が述べられており、賛否はともかく論理的な考察は一読に値します。

以上、本書は化学の初等教育において欠落している部分を補完するだけでなく、受験勉強とは一切関係なく、本来化学の教育で語られるべき事項を平易な文体で整然と章にまとめられた解説書とも言える良書だと思います。大学生の一般化学の副読本としてぜひお奨めしたい書であり、また化学ってなんか危ないイメージだなあという一般の方、またマイナスイオンやダイオキシンフィーバーはいったいなんだったのかを改めて知りたい方に多いにお勧め出来る書です。

 関連書籍

[amazonjs asin=”4254102011″ locale=”JP” title=”痛快化学史”][amazonjs asin=”4794218788″ locale=”JP” title=”文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)”][amazonjs asin=”4794218796″ locale=”JP” title=”文庫 銃・病原菌・鉄 (下) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)”][amazonjs asin=”4948754390″ locale=”JP” title=”地球白書 2010-11″][amazonjs asin=”4542301923″ locale=”JP” title=”地球の破綻―Bankruptcy of the Earth 21世紀版成長の限界”]

 

Avatar photo

ペリプラノン

投稿者の記事一覧

有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。

関連記事

  1. The Art of Problem Solving in Or…
  2. 菌・カビを知る・防ぐ60の知恵―プロ直伝 防菌・防カビの新常識
  3. 演習で学ぶ有機反応機構―大学院入試から最先端まで
  4. 2016年2月の注目化学書籍
  5. 特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来
  6. 最新ペプチド合成技術とその創薬研究への応用
  7. 【書評】きちんと単位を書きましょう 国際単位系 (SI) に基づ…
  8. 化学のためのPythonによるデータ解析・機械学習入門

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第68回「表面・界面の科学からバイオセラミックスの未来に輝きを」多賀谷 基博 准教授
  2. 中外製薬が工場を集約へ 宇都宮など2カ所に
  3. アピオース apiose
  4. Chemの論文紹介はじめました
  5. 水分解反応のしくみを観測ー人工光合成触媒開発へ前進ー
  6. アルケンとニトリルを相互交換する
  7. ノーベル化学賞、米仏の3氏に・「メタセシス反応」研究を評価
  8. 抗酸化能セミナー 主催:同仁化学研究所
  9. その構造、使って大丈夫ですか? 〜創薬におけるアブナいヤツら〜
  10. 超薄型、曲げられるMPU開発 セイコーエプソン

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年6月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

ナノグラフェンの高速水素化に成功!メカノケミカル法を用いた芳香環の水素化

第660回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院理学研究科(有機化学研究室)博士後期課程3年の…

第32回光学活性化合物シンポジウム

第32回光学活性化合物シンポジウムのご案内光学活性化合物の合成および機能創出に関する研究で顕著な…

位置・立体選択的に糖を重水素化するフロー合成法を確立 ― Ru/C触媒カートリッジで150時間以上の連続運転を実証 ―

第 659回のスポットライトリサーチは、岐阜薬科大学大学院 アドバンストケミストリー…

【JAICI Science Dictionary Pro (JSD Pro)】CAS SciFinder®と一緒に活用したいサイエンス辞書サービス

ケムステ読者の皆様には、CAS が提供する科学情報検索ツール CAS SciFind…

有機合成化学協会誌2025年5月号:特集号 有機合成化学の力量を活かした構造有機化学のフロンティア

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年5月号がオンラインで公開されています!…

ジョセップ・コルネラ Josep Cornella

ジョセップ・コルネラ(Josep Cornella、1985年2月2日–)はスペイン出身の有機・無機…

電気化学と数理モデルを活用して、複雑な酵素反応の解析に成功

第658回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 農学研究科(生体機能化学研究室)修士2年の市川…

ティム ニューハウス Timothy R. Newhouse

ティモシー・ニューハウス(Timothy R. Newhouse、19xx年xx月x日–)はアメリカ…

熊谷 直哉 Naoya Kumagai

熊谷 直哉 (くまがいなおや、1978年1月11日–)は日本の有機化学者である。慶應義塾大学教授…

マシンラーニングを用いて光スイッチング分子をデザイン!

第657 回のスポットライトリサーチは、北海道大学 化学反応創成研究拠点 (IC…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP