[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

遷移金属を用いない脂肪族C-H結合のホウ素化

[スポンサーリンク]

 

 

N-Directed Aliphatic C–H Borylation Using Borenium Cation Equivalents

Prokofjevs, A.; Vedejs, E. J. Am. Chem. Soc. 2011, Early View. DOI: 10.1021/ja208093c

近年、“環境に優しい”ということがあらゆる分野で求められていますが、有機化学の分野でも非常に大きな流れになっています。そのような観点から、廃棄物をださない直接的な化合物の合成方法が求められています。そのような潮流のなかで、不活性なC-H結合の直接官能基化は、目的の化合物への直接的かつ革新的な合成経路を提供することができると考えられるため盛んに研究されています。

そのひとつとして、安定なC-H結合を直接C-B結合に変換する反応は、生成物のホウ素化合物が有用であることから重要であり、遷移金属触媒を用いた変換反応が報告されています。安定なC-H結合には大きく分けて芳香族C-H結合と脂肪族C-H結合がありますが、脂肪族C-H結合からC-B結合への変換反応は筆者には直感的に難易度が高く感じられ、例えばカリフォルニア大学のHartwigらによるアルカンの位置選択的ホウ素化が印象深いです[1]。

hatwig_lect_1

 

 

一方で最近では、レアメタルの高騰や産出地の偏在性を背景として、遷移金属触媒を用いた反応の代替反応の開発も盛んに行われています。今回、ミシガン大学のVedejsらは、窒素が配位した三配位ホウ素カチオン種(ボレニウム塩)を用いることで、遷移金属を用いずに脂肪族C-H結合をC-B結合に変換できることを報告しました。

アミノボラン1にTr[B(C6F5)4]を50 mol%混合すると、水素で架橋したホウ素カチオン中間体の2が生成し、さらにTr[B(C6F5)4]を加えることでメチル基のC-H結合がホウ素化された4が生成します。この反応は室温下、1時間以内で完了しています。4n-Bu4NBH4でクエンチすることによりアミノボラン5として単離されます。

2015-07-31_13-14-59

さらに、触媒量のTf2NHを用いても同様な反応が進行します。この時、溶媒の選択とTf2NHの当量が重要です。1当量のTf2NHを重トルエン中用いると共有結合の付加体6が生成します。この6は120 °Cにすると分解してしまい、目的のアミノボラン5は得られません。一方でTf2NHを触媒量(5 mol%)用いた場合、重トルエン中では6が観察され、重ジクロロメタン中では水素で架橋したホウ素カチオン中間体7が観察されます。さらに、トルエン中で温度を120 °Cにすると水素が発生し、目的のアミノボラン5が良好な収率で生成します。

本反応は、重ジクロロメタンを用いた時に7が観察されているのですが、その後の反応ではトルエンを用いる必要があります。この理由として芳香族溶媒中でビストリフリルアミドアニオンを有する中間体が安定であり、また溶解性高いことが考えられるようです。また本反応の特徴として通常ホウ素化が困難な四級炭素の隣の炭素でホウ素化が進行する点や、メチレンよりもメチル基で反応が進行しやすいなどが挙げられ非常に興味深いです。

2015-07-31_13-16-31

2015-07-31_13-16-31 

 

今回の報告では、ホウ素中心を十分電子不足にすれば、非常に反応性の低いメチル基でも反応が進行するということが示しされており、「馬を水際まで連れて行くことはできるが、水を飲ませることはできない」という諺に反して、「水際まで馬を連れてきて、喉を渇かせてやると水を飲ますことができる」ということを実践して見せてくれているように思いました。

2015-07-31_13-18-13

 

本反応では実際の活性種が未確定であるらしく、今後さらにホウ素元素のポテンシャルを引き出した魅力的な反応が報告されのではないかと期待しています。

関連文献

  1. Mkhalid, I. A. I.; Barnard, J. H.; Marder, T. B.; Murphy, J. M.; Hartwig, J. F. Chem. Rev. 2010, 110, 890. DOI: 10.1021/cr900206p

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4759810048″ locale=”JP” title=”典型元素の化学 (チュートリアル化学シリーズ)”][amazonjs asin=”148223310X” locale=”JP” title=”C-H Bond Activation in Organic Synthesis”][amazonjs asin=”4759813659″ locale=”JP” title=”不活性結合・不活性分子の活性化: 革新的な分子変換反応の開拓 (CSJカレントレビュー)”]

 

Avatar photo

ナカシマ

投稿者の記事一覧

化学と英語に関心があります。

関連記事

  1. サラダ油はなぜ燃えにくい? -引火点と発火点-
  2. カルボン酸、窒素をトスしてアミノ酸へ
  3. 化学者のためのエレクトロニクス入門⑥ ~エレクトロニクス産業の今…
  4. 無保護糖を原料とするシアル酸誘導体の触媒的合成
  5. 研究者のためのCG作成術③(設定編)
  6. 【著者に聞いてみた!】なぜ川中一輝はNH2基を有する超原子価ヨウ…
  7. マルチディスプレイを活用していますか?
  8. 今年の光学活性化合物シンポジウム

注目情報

ピックアップ記事

  1. 電気化学インピーダンス法 第3版: 原理・測定・解析
  2. ケミカル・ライトの作り方
  3. ミカエリス・アルブゾフ反応 Michaelis-Arbuzov Reaction
  4. ストックホルム国際青年科学セミナー参加学生を募集開始 ノーベル賞のイベントに参加できます!
  5. 「一家に1枚」ポスターの企画募集
  6. 創薬・医療系ベンチャー支援プログラム”BlockbusterTOKYO”選抜プログラムへの参加チーム募集中!
  7. 極薄のプラチナナノシート
  8. 抗体触媒 / Catalytic Antibody
  9. 米国へ講演旅行へ行ってきました:Part IV
  10. 「世界の最先端で研究する」という夢と実際 ーカリフォルニア大学バークレー校 Long 研究室より

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2011年12月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP