[スポンサーリンク]

一般的な話題

アフリカの化学ってどうよ?

お隣中国の発展は目覚ましく、既に論文数では到底及ばない状態になっていることは多くの方がご存知の通りです。いわゆるBRICsの中でサイエンスの世界では優等生になりつつある中国とともに、インドの化学も侮れません。というわけで少し前にインドの化学の現状をご紹介しましたが、今回はアフリカです。

途上国と呼ばれていた国々の中で、これからまだ成長の余地が大きく残されているのが魅惑の大陸アフリカです。とにかく若い人が多く、2012年にはなんと人口の40%が14歳以下でした。これは貧しい故の多産と、戦乱も影響していると思われる低い寿命、医療レベルの低さのせいかと思われます。

その地政学的に恵まれているとは言い難い広大な大陸は大部分が近代化されておらず、政治的に不安定な国も多く残されています。その結果教育水準は高いとは言えず、高等教育機関や研究機関は未整備のままです。2005年から2010年の統計によると、アフリカは世界の「知」のわずか1.8%しか貢献していません。その大部分はエジプト南アフリカに依っており、残りの52の国と地域は本質的な貢献をしていません。

 

アフリカにおける化学

化学に注目すると、15カ国(モロッコ, アルジェリア, チュニジア, エジプト, スーダン, ガーナ, ナイジェリア, エチオピア, ケニア, ウガンダ, タンザニア, ザンビア, モザンビーク, ボツワナ, 南アフリカ)に国立化学会があり、フランス語を公用語とする8つの国(ベナン, ブルキナファソ, コートジボワール, ギニア, マリ,  ナイジェリア, セネガル, トーゴ) が集まってできている化学協会がブルキナファソにあります。

Africa_1

アフリカの科学論文数の分布(1970年1月1日から2016年4月18日までの統計)

画像は文献より引用

アフリカは巨大な原油埋蔵量を誇るとされており、化学工業が発展する可能性を秘めていますが、現状は悲惨な状態です。アフリカをリードする国の1つである南アフリカでは、化学の領域の中で3つの分野が発展してきました。まずは家畜の餌に含まれる毒性成分に関連する分野、ヨハネスブルグのSasolという会社が関係する、白金を主とした合成燃料に関する分野、そして病気や悪い場合は死を引き起こすことになる食品中のマイコトキシンに関連する分野です。すなわち天然物化学分野が大きな貢献をしています。

先駆的化学者としては、A. I. Perold, P . G. J. Louw, J. S. C. Marais, F. L. Warrenなどが知られています。特にMaraisは1944年に初めてのフッ素を含有する天然有機化合物としてモノフルオロ酢酸をラットベイン、通称毒の草(Dichapetalum cymosum)の毒性成分として同定した[1]ことで知られていますし、Warrenは大環状ピロリジジンアルカロイドretrosineの構造決定への貢献[2]で知られています。

Africa_2

モノフルオロ酢酸とretrosine

これらはいずれも植物由来の生物活性物質であり、一説では2700万人もの人々が日常的に薬草を用いているというアフリカならではの事情も関係が深いと思われます。南アフリカ政府はこの民間伝承薬に関する知識の集約のための予算を増やしているようです。生物活性物質に関する組織として、各国の化学会以外にもthe Natural Products Research Network for Eastern and Central Africa (NAPRECA)とthe South and Eastern Africa Network for Analytical Chemistry (SEANAC)は活発な活動を続けています。膨大な植物成分の検索からうまれた、Nicosanという製品名で市販された薬もあるようです。

 

アフリカの化学教育

そんなアフリカの化学がこれからどうやってさらに発展していけばいいのでしょうか。ここ数十年の間に各国には科学系の教育機関が整備されてきましたが、多くの地域では学生、指導者ともに英語の理解が十分ではありません。テキストはほぼ英語ですのでこの障壁は大きいものとなっています。

教育の水準も高いとはいえず、特に問題解決力の育成が急務とされています。そこで遠隔教育に注目が集まっています。もともと通信制の大学であった南アフリカ大学はエチオピアに分校や、Africa’s Leading Open Distance Learning University (UNISA)というネット大学を開学したり、ケニアのナイロビを中心とするアフリカバーチャル大学(the African Virtual University)では遠隔での講義、グループディスカッション、さらには電子図書館を運用して教育をおこなっています。

また機器、器具の深刻な不足も問題です。ガラス器具などは米国のSeeding Labs や、英国のLabAidのような組織からの援助をかなり受けているようです。

例えば天然物化学の分野では欠かせないNMRの不足も深刻で、タンザニアやカメルーンには一台もありません。それらの国の研究者はサンプルをボツワナの機関に送り、数週間後に結果が郵送されてくるのを待つという状態が2011年まで続いていました。最近ようやく生データをやり取りできるワークステーション環境ができたため、少しだけ状況は改善したそうです。ボツワナのNetwork of Analytical and Bioassay Services in Africa (NABSA)はこの10年で14,000サンプルのNMRと質量スペクトルを他のアフリカの研究者に提供してきました。

 

アフリカの化学のこれから

研究成果の発信もBRICsには及ばないまでも着実に増えています。高インパクトジャーナルに掲載されるような研究も出てきていますが、査読付きジャーナルに掲載される論文の40%はアフリカの研究者とアフリカ外の共同研究によるものです。一方、アフリカ内の国間における共同研究はわずか4%となっていることから、まだこの点においてアフリカの伸び代は残されているのかもしれません。

いずれにしても、アフリカの化学が先進国のレベルに追いつくにはまだまだ道のりが長そうです。先進国からの技術移転は十分とは言えませんので、「若さ」に投資するなら今かもしれません。
今回のポストはNature Chemistry誌よりthe African Academy of ScienceのExective DirectorであるBerhanu Abegaz博士のcommentaryを参考にさせていただきました。

Challenges and opportunities for chemistry in Africa

Abegaz, B. Nature Chem. 8, 518–522 (2016). doi: 10.1038/nchem.2533

 

 

「ここからは筆者の個人的な意見です」

アフリカが過去西欧諸国に蹂躙され、そこから始まった混乱が終息する気配はありません。我が国を含めて多額の援助が湯水のように行われた「はず」ですが、一向に明るい兆しは見えません。援助物資の搾取、横流しは日常茶飯事で、せっかく作った施設も部品が略奪され使用不能になるなんてことが体験談として語られます。そんな国に支援するためには、やはり教育しかないんじゃないかと思うのです。

化学の世界で言えば、せっかく分析機器を譲渡したのに、現地でちゃんと測定したりメンテナンスしたりできる人がおらず、調子悪くなったらそのまま朽ちていたという実例も筆者は耳にしています。それではまるで意味がありません。上述の通りNMRが不足しているそうですが、液体ヘリウムや液体窒素を定期的に確保できなければそもそも運用できないですよね。そういったインフラが整うのを待っていても仕方ないので、その辺のノウハウを誰か「現地の研究者」が外国で学ぶ必要があります。

彼らの国をメチャクチャな状態にした西欧諸国には道義的責任もあるのでしょうが、アフリカの援助慣れした現状というのは、あまりいい文化ではないですね。上の記事で

Technology transfer from industrialized countries is not sufficient, and indeed is not what is needed.

という一文があるのですが、その技術移転ってタダでもらえると思ってんのかな?とうがった見方をしてしまい少し戸惑いました。

 

参考文献

  1. Marais, J. S. C. Onderstepoort J. Vet. Sci. Anim. Ind. 20, 67–73 (1944).
  2. Christie, S. M. H., Kropman, M., Novellie L., Warren, F. L. J. Chem. Soc. 1703–1705 (1949). DOI: 10.1039/JR9490001703

 

関連書籍

The following two tabs change content below.
ペリプラノン

ペリプラノン

有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。

関連記事

  1. 実験ノートの字について
  2. シリカゲルはメタノールに溶けるのか?
  3. 化学素人の化学読本
  4. 超分子化学と機能性材料に関する国際シンポジウム2016
  5. elements~メンデレーエフの奇妙な棚~
  6. 私がケムステスタッフになったワケ(2)
  7. 生化学実験:プラスチック器具のコンタミにご用心
  8. キッチン・ケミストリー

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 【追悼企画】世のためになる有機合成化学ー松井正直教授
  2. 分子標的の化学1「2012年ノーベル化学賞GPCRを導いた親和クロマトグラフィー技術」
  3. カルベンで炭素ー炭素単結合を切る
  4. 有機ELディスプレイ材料市場について調査結果を発表
  5. 新しい抗生物質発見:MRSAを1分で99.99%殺菌
  6. 多成分連結反応 Multicomponent Reaction (MCR)
  7. ダンハイザー シクロペンテン合成 Danheiser Cyclopentene Synthesis
  8. Nature Reviews Chemistry創刊!
  9. ご注文は海外大学院ですか?〜出願編〜
  10. 化学療法と抗がん剤の併用で進行期非扁平非小細胞肺癌の生存期間延長

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

工程フローからみた「どんな会社が?」~タイヤ編 その1

Tshozoです。今回の主役はゴムで出来ている車両用タイヤ。通勤時に道路で毎日目にするわりに…

感染制御ー薬剤耐性(AMR)ーChemical Times特集より

関東化学が発行する化学情報誌「ケミカルタイムズ」。年4回発行のこの無料雑誌の紹介をしています。…

有機合成化学協会誌2019年1月号:大環状芳香族分子・多環性芳香族ポリケチド天然物・りん光性デンドリマー・キャビタンド・金属カルベノイド・水素化ジイソブチルアルミニウム

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2019年1月号がオンライン公開されました。今…

リチウムイオンバッテリーの容量を最大70%まで向上させる技術が開発されている

スマートフォンや電気自動車の普及によって、エネルギー密度が高く充電効率も良いリチウムイオンバッテリー…

学部4年間の教育を振り返る

皆様、いかがお過ごしでしょうか。学部4年生の筆者は院試験も終わり、卒論作成が本格的に始まるまでの束の…

ダイセルが開発した新しいカラム: DCpak PTZ

ダイセルといえば「キラルカラムの雄」として知られており、光学活性化合物を分離するキラルカラム「CHI…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP