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スポットライトリサーチ

100年以上未解明だった「芳香族ラジカルカチオン」の構造を解明!

第184回目のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院工学研究科(石原研究室)・堀部貴大(ほりべ たかひろ)特任助教・大村 修平(おおむら しゅうへい)さん にお願いしました。今回はお二人での登場です。

今回の成果は今をときめく「ナノカーボン材料」を合成する際の反応活性種である「芳香族ラジカルカチオン」に関するものです。世界中の科学者が知りたがっていた構造を視覚的にもクリアにした研究であり、インパクトは絶大です。また、石原研究室がこれまで基調としてきた研究内容ともがらりとカラーが変わっており、まさに「新風を吹き込んだ」取り組みとも言えるのではないでしょうか。今後この化学をどう展開されていくか、興味が尽きません。本成果はJ. Am. Chem. Soc.誌原著論文・プレスリリースの形で公開後に、数々のメディアで大々的に取りあげられています。

“Structure and Reactivity of Aromatic Radical Cations Generated by FeCl3
Takahiro Horibe, Shuhei Ohmura, Kazuaki Ishihara, J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 1877–1881. DOI: 10.1021/jacs.8b12827

研究室を主催される石原一彰 教授より、お二方について以下のコメントを頂いています。それでは今回もインタビューをお楽しみ下さい!

堀部特任助教は当研究室で博士(工学)を取得し、ポスドクとしてDean Toste研で2年間の研鑽を積んだ後、名古屋大学高等研究院の特任助教として当研究室で受け入れました。海外での経験を生かし、当研究室が得意とする酸塩基複合触媒の研究領域をラジカルカチオンの化学にまで広げたことを高く評価しています。
大村くんは学部4年次に研究室配属される1年ほど前から当研究室への配属を熱望し、有機化学関連の講義であれば学部を問わず受講するなど、早い段階から教員の間で有名になっていました。配属後も物凄い集中力で研究に打ち込んでおり、メキメキと力を付けてきた印象があります。実験も丁寧でデータの精度も高いことから、とても信頼しています。
堀部特任助教と大村くんの二人が、高い志と意欲をもって難題に立ち向かったことで、やり遂げられた成果だと思います。この二人と共に研究できたことを誇りに思います。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

FeCl3の一電子酸化により生成する芳香族ラジカルカチオンの単離とFeCl3を開始剤とした環化反応を開発しました。

FeCl3は、100年以上前から芳香族同士の酸化的カップリング反応などに用いられる古典的な酸化剤です。この酸化的カップリング反応では、芳香族の一電子酸化によるラジカルカチオンの生成が提唱されていますが、その不安定性から単離、同定されていませんでした。
今回の研究では、FeCl3と嵩高い芳香族化合物を用いることで、安定なラジカルカチオンの生成とその生成反応機構を明らかにしました。また明らかになったラジカルカチオンの生成反応機構を基にして、2つの環化反応(アネトール類の[4 + 2]環化反応および[2 + 2]環化反応)開発を行いました。既存のフォトレドックス触媒や一電子酸化剤による開発では、ほとんど用いられていない電子不足のアネトール誘導体にも適用できたことは特筆すべき点だと思います。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

[堀部] 芳香族ラジカルカチオンの単離とその生成機構を明らかにしたところです。
実は、この研究は[4 + 2]環化反応の発見からスタートしました。反応機構を考える上でラジカルカチオンが活性種であることが予想できたのですが、どのようなラジカルカチオンが生成しているかは過去の文献からもはっきり分かりませんでした。活性種が分からないというのは、なんとも気持ち悪かったので腰を据えてはっきりさせることにしました。後述するようにそれなりに苦労もありましたが、反応の”中身”をはっきりさせることができました。こだわって中身を明らかにできましたので、本研究成果には満足しています。
一方、安定ラジカルカチオンの単離や生成反応機構の解析など約3年と時間がかかってしまいました。辛抱強く研究を見守り暖かくアドバイスいただきました石原教授には心より御礼申し上げます。

[大村] 反応速度論解析を用いたラジカルカチオンの生成機構の解明です。反応速度論解析自体がなかなかうまく測定できなかったことに加えて、苦労して得られた結果も想定していた生成機構とは一致しないものでした。得られた結果は、「芳香族化合物の濃度に対して反応速度が0次に依存」すなわち「芳香族化合物が酸化の律速段階に関与しないこと」を示していました。酸化されているものが律速段階に関与していないってどういうこと、、、と思いながら文献調査や追加実験を行い、論理的に粘り強く考察することで論文中の生成機構を提唱するに至りました。苦労した分思い入れのある生成機構となりました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

[堀部] 芳香族ラジカルカチオンを単離するところまでは比較的スムーズだったのですが、その生成反応機構のための反応速度論解析は容易ではありませんでした。
当時、修士2年だった大村くんにお願いし、React IRを用いて反応速度論解析を行いました。一方、「ラジカルカチオンの生成がものすごく早いこと」、「低温での芳香族化合物の溶解性の悪さ」及び「FeCl3の溶解性」などの問題から一筋縄には行かないものでした。大村くんは、この困難な反応速度論解析を何度も条件検討を繰り返し、2ヶ月ほどで最適条件を見つけ出し明らかにしてくれました。React IRによる検討は、温度や振動、滴下速度など、一回一回かなり神経を使うものです。この反応速度論解析が行えたのは、彼の細やかな実験技術と忍耐力による所が大きいです。彼のこの努力のおかげで、論文にあるようにMeCNの配位子としての役割と酸化段階でのMeCNの解離に気がつくことができました。

[大村] 先に述べたように、React IRの測定条件の最適化に想像以上に苦労しました。毎日、結果が出るたびに、堀部先生と打ち合わせをしながら進めていきました。React IRの正確なデータ取得のために、振動の少なくなる深夜によく実験していました。皆が帰った後、React IRの前で堀部先生と電話で打ち合わせをしていたことをよく覚えています。すぐに結果は出なくても粘り強くやり続けることの大切さがよくわかりました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

[堀部] 引き続き中身の見える反応開発を行いながら、学生さんと楽しく研究していきたいですね。中間体や活性種(と思われる化合物)の結晶構造を見ながら、学生さんと打ち合わせするのが楽しいです。学生さんも喜んでくれている、、、と信じています。いずれにしても学生さんと楽しく研究していけたらいいなと思います。

[大村] これからも自分が面白いと思える研究を続けていきたいです。今日まで研究室の環境に恵まれ、毎日楽しく研究が続けられました。こうした素晴らしい研究環境を整えていただいた石原教授および石原研究室のメンバーには感謝しています。将来は、自分もこうした研究環境を整えて研究を皆に楽しんでもらえるような大学教員になれたらと思っています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

[堀部] 是非、いろんなところで友人をたくさん作ってほしいです。
本研究は、様々な友人の協力で達成することができました。研究に関してアドバイスしてもらったMark Levinは、Toste研に滞在していた時の友人です。ラジカルカチオンの単離テクニックは、Toste研でChung-Yeh (Rake) Wuに教えてもらいました。自分の研究に影響を与えてくれた友人をあげればきりがありません。こうした友人の助けで自分の研究の幅が広がっていくのを強く感じますので、みなさんにも自身の研究の幅が広がるような様々な友人を作って欲しいです。

[大村] ご一読いただきありがとうございました。残りの大学生活も全力で研究に打ち込みたいと思います。

研究者の略歴

堀部貴大(左)、大村修平(右)

[堀部 貴大]  名古屋大学 工学研究科 (高等研究院兼任) 特任助教
「一電子酸化反応」「ボロン酸を用いたカルボン酸変換反応」「ハロゲン化反応」など
2013年 3月 名古屋大学 工学研究科 博士後期課程修了(博士(工学)取得) (指導教員:石原一彰教授)
2013年 4月 米国カリフォルニア大学 バークレー校 化学科 博士研究員 (F. Dean Toste教授)
2015年 4月より 現職

受賞歴
2008年 平成21年有機合成化学協会東海支部VIP賞
2009年 平成22年度名古屋大学学術奨励賞
2011年 第二回大津会議アワードフェロー
2012年 IGER Annual Research Award
2013年 第七回わかしゃち奨励賞
2013年 日本化学会第93回春季年会学生講演賞
2014年 Reaxys PhD. Prize, finalist
2016年 有機合成化学協会 富士フイルム 研究企画賞

[大村 修平] 名古屋大学大学院工学研究科 石原研究室 博士後期課程1年
研究テーマ:鉄(III)塩を開始剤に用いるラジカルカチオン環化反応の開発

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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