[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

当量と容器サイズでヒドロアミノアルキル化反応を制御する

[スポンサーリンク]

Ti触媒による、ジメチルアミンを用いたアルケンのヒドロアミノアルキル化反応が報告された。反応容器のサイズによってモノヒドロアミノアルキル化とジヒドロアミノアルキル化を制御できる。

アルケンのヒドロアミノアルキル化

第4族・第5族遷移金属触媒によるアルケンのヒドロアミノアルキル化は近年目まぐるしい成長を遂げており、従来のアミンの工業的製法(コバルト or ロジウム触媒によるアルケンのヒドロホルミル化/還元的アミノ化)に取って代わることが実現可能になりつつある[1]。本手法は、アルケンを1工程でヒドロアミノアルキル化できるのみならず、Tiのような安価で毒性の低い触媒を用いる点で有効である。

アルケンのヒドロアミノアルキル化は1980年Masperoらによって初めて報告された(図1A)[2]

この反応は高温を必要とし、アルケンの適用範囲や収率に課題があったため、それ以後、ヒドロアミノアルキル化に関する研究はほとんど行われなかった。2007年、Hartwigらはアニリン誘導体をもちいることで、アルケンを高収率でヒドロアミノアルキル化することに成功した(図1B)[3]。これを皮切りに、同様の研究が盛んに行われ始めた。しかし、メチルアミンやジメチルアミンなどのガス状アミンを用いたヒドロアミノアルキル化は依然として少ない。

今回、オルデンブルグ大学のDoye教授らはEisenらによって報告されたTi触媒[4]を用いることで、アルケンのジメチルアミンとのモノヒドロアミノアルキル化とジヒドロアミノアルキル化の開発に成功した(図1C)[5]

図1. アルケンのヒドロアミノアルキル化

 

“Dimethylamine as a Substrate in Hydroaminoalkylation Reactions”

Bielefeld, J.; Doye, S. Angew. Chem., Int. Ed. 2017, 56, 15155. DOI: 10.1002/anie.201708959

論文著者の紹介

研究者:Sven Doye

研究者の経歴:

1991-1993 PhD University of Hannover (Prof. Dr. H. C. E. Winterfeldt)
1996-1997 Posdoc MIT (Prof. S. L. Buchwald)
1997-2001 Habilitation, University of Hannover
2000-2002 Assistant (C1), University of Hannover
2002-2003 Professor (C2), University of Hannover
2003-2006 Professor (C3), Ruprecht-Karls-University in Heidelberg
2006- Professor (W2), Carl von Ossietzky University in Oldenburg
研究内容: C-H結合活性化、チタン触媒によるヒドロアミノアルキル化、反応メカニズム、天然物合成

論文の概要

本反応の推定反応機構を図2Aに示す。本機構はDoyeらにより2011年に速度論に基づき推定された[6]。Ti触媒1がC–H活性化により生じるチタナアジリジン2と平衡状態にあり、2にオレフィンが挿入することで、チタナピロリジン3A/3Bを形成する。その後3とジメチルアミンが反応し、モノアルキルアミン4l/4bが得られる。このとき、3Aは配位子(L)と置換基(R)との立体障害により、3Bの生成が優先し、結果として分岐型アミン4bが主生成物となると考えられる。

また、本反応に関してはC–H活性化がメチレン基よりもメチル基で起こりやすいことから[7]、生成物のアルキルアミンがさらに反応したイソアルキルアミン67は生成しにくい。

本反応で興味深い点は、モノヒドロアミノアルキル化とジヒドロアミノアルキル化を制御することができるところだ。

5mLアンプルでジメチルアミンをアルケンに対して小過剰量加える(触媒のジメチルアミンを含む)ことで4bが主生成物として得られる(図2B)。その際、4bはもう一つメチル基を有しているため、それが反応したジアルキル化体5bbが副生成物として得られる。一方アミンの当量を半分程度に減らし、100mLシュレンクを用いることで系中のジメチルアミンが気化し、系中から排除されるため、4bが優先的に反応し5bbを主生成物として与える(図2C)。

いくつかの基質で収率と選択性に課題はあるものの、安価なTi触媒を用いたジメチルアミンによるアルケンのヒドロアミノアルキル化に成功した。今後は学術研究を超えて工業的製法などにも応用されていくことに期待したい。

図2. (A) 推定反応機構 (B) モノヒドロアミノアルキル化 (C) ジヒドロアミノアルキル化

参考文献

  1. Franke, R.; Selent, D.; Börner, A. Chem. Rev. 2012, 112, 5675. DOI: 10.1021/cr3001803
  2. Clerici, M. G.; Maspero, F. Synthesis 1980, 305. DOI: 1055/s-1980-29002
  3. Herzon, S. B.; Hartwig, J. F. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 6690. DOI: 10.1021/ja0718366
  4. Elkin, T.; Kulkarni, N. V.; Tumanskii, B.; Botoshansky, M.; Shimon, L. J. W.; Eisen, M. S. Organometallics 2013, 32, 6337. DOI: 1021/om4006998
  5. 著者らは同様なTi触媒を用いたジメチルアミン以外の2級アミンによるアルケンのヒドロアミノアルキル化を報告している。Dörfler, J.; Preuß, T.; Brahms, C.; Scheuer, D.; Doye, S. Dalton Trans. 2015, 44, DOI: 10.1039/C4DT03916E
  6. Prochnow, I.; Zark, P.; Müller, T.; Doye, S. Angew. Chem., Int. Ed. 2011, 50, 6401. DOI: 10.1002/anie.201101239
  7. Herzon, S. B.; Hartwig, J. F. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 14940. DOI: 10.1021/ja806367e

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. JACSベータ
  2. ひどい論文を書く技術?
  3. 新たなクリックケミストリーを拓く”SuFEx反応&#…
  4. 第27回ケムステVシンポ『有機光反応の化学』を開催します!
  5. 特許情報から読み解く大手化学メーカーの比較
  6. 大環状ヘテロ環の合成から抗がん剤開発へ
  7. 【PR】Chem-Stationで記事を書いてみませんか?【スタ…
  8. コバルト触媒でアリル位C(sp3)–H結合を切断し二酸化炭素を組…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 銀の殺菌効果がない?銀耐性を獲得するバシラス属菌
  2. リチウムイオン電池の正極・負極≪活物質技術≫徹底解説セミナー
  3. 「世界の最先端で研究する」という夢と実際 ーカリフォルニア大学バークレー校 Long 研究室より
  4. 2016 SciFinder Future Leadersプログラム参加のススメ
  5. 下嶋 敦 Shimojima Atsushi
  6. Reaxysレクチャー&第9回平田メモリアルレクチャー
  7. アレノフィルを用いるアレーンオキシドとオキセピンの合成
  8. 糖鎖を化学的に挿入して糖タンパク質を自在に精密合成
  9. 人の鼻の細菌が抗菌作用がある化合物をつくっていたーMRSAに効果
  10. アメリカ企業研究員の生活①:1日の仕事の流れ

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年12月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

書類選考は3分で決まる!面接に進める人、進めない人

人事担当者は面接に進む人、進まない人をどう判断しているのか?転職活動中の方から、…

期待度⭘!サンドイッチ化合物の新顔「シクロセン」

π共役系配位子と金属が交互に配位しながら環を形成したサンドイッチ化合物の合成が達成された。嵩高い置換…

塩基が肝!シクロヘキセンのcis-1,3-カルボホウ素化反応

ニッケル触媒を用いたシクロヘキセンの位置および立体選択的なカルボホウ素化反応が開発された。用いる塩基…

中国へ行ってきました 西安・上海・北京編①

2015年(もう8年前ですね)、中国に講演旅行に行った際に記事を書きました(実は途中で断念し最後まで…

アゾ重合開始剤の特徴と選び方

ラジカル重合はビニルモノマーなどの重合に用いられる方法で、開始反応、成長反応、停止反応を素反応とする…

先端事例から深掘りする、マテリアルズ・インフォマティクスと計算科学の融合

開催日:2023/12/20 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

最新の電子顕微鏡法によりポリエチレン分子鎖の向きを可視化することに成功

第583回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院 工学研究科 応用化学専攻 陣内研究室の狩野見 …

\脱炭素・サーキュラーエコノミーの実現/  マイクロ波を用いたケミカルリサイクル・金属製錬プロセスのご紹介

※本セミナーは、技術者および事業担当者向けです。脱炭素化と省エネに貢献するモノづくり技術の一つと…

【書籍】女性が科学の扉を開くとき:偏見と差別に対峙した六〇年 NSF(米国国立科学財団)長官を務めた科学者が語る

概要米国の女性科学者たちは科学界のジェンダーギャップにどのように向き合い,変えてきたのか ……

【太陽ホールディングス】新卒採用情報(2025卒)

■■求める人物像■■「大きな志と好奇心を持ちまだ見ぬ価値造像のために前進できる人…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP