[スポンサーリンク]

一般的な話題

DNAのもとは隕石とともに

[スポンサーリンク]

銀河に願いを

GREEN051.PNG

万物の霊長とされるヒトから、顕微鏡でなければ見ることのできない微生物まで、地球上の生命は、水素・炭素・窒素・酸素・リンの5元素からなるDNAと呼ばれる高分子に遺伝情報をゆだねています。このDNAのもとが、天空を裂いて地球に訪れた隕石から検出されたという話題について紹介します。 

機能美とも呼べる荘厳な二重らせんを作るDNAは、ヌクレオチドと呼ばれる構成単位が、遺伝情報にもとづいて並ぶことで作られます。ヌクレオチドは、リボースと呼ばれる五炭糖、リン酸、そして4種類のうちいずれかひとつの核酸塩基からなる物質です。DNAを構成する核酸塩基は、アデニン(A)・グアニン(G)・シトシン(C)・チミン(T)の4種類です。

化学構造を見てみると、グアニンとアデニンはプリンと呼ばれる有機化合物に似ており、シトシンとチミンはピリミジンと呼ばれる有機化合物に似ています。プリン塩基のグアニンとピリミジン塩基のシトシンが3の水素結合で、プリン塩基のアデニンとピリミジン塩基のチミンが2の水素結合でつながれることにより、2本のDNA鎖が結びつきます。

 

  • 核酸塩基の化学構造を見返してみよう

ところで、プリンやピリミジンに「似ている」とよく言われますが、高校生ぐらいのわたしは資料集を見て「あまり似ていないよ、ウソツキ」と思っていたものです。核酸塩基の化学構造に慣れるためにも、本題に入る前にその謎解きをしておきましょう。

謎解きのヒントは互変異性にあります。アセチレンと水を反応させると、不安定なビニルアルコールを経て、アセトアルデヒトが得られるといったケトエノール互変異はよく知られていますが、これと同様にアミドイミド酸互変異性と呼ばれるものがあります。

GREEN052.png

通常は左側のイミド酸よりも右側のアミドが安定

もうここまでくればよいでしょう。例えばグアニンの場合は、次のように考えれば疑問が氷解します。まず、プリンの骨格をもとに、適宜、水素原子をヒドロキシ基やアミノ基に置換します。その後、アミド-イミド酸互変性にもとづき、変身させればグアニンのできあがりです。他の核酸塩基については、この記事の一番下の方に小さく載せておきますので、自分で試した場合の解答代わりにどうぞ。

GREEN053.png

おおっ!似ているじゃん!

 

では、疑問が解け、核酸塩基の化学構造にも慣れたところで、本題となる隕石の話題[1] に戻りましょう。

 

  • 微量成分の化学構造が隕石由来か判断の決め手に

地球上のすべての生命はRNAなりDNAなり核酸に依存して生きており、遺伝情報をコードするためにピリミジンの骨格やプリンの骨格を持った核酸塩基を用いています。  

炭素に富むタイプの隕石は、初期の地球で生命が出現するために必要とされる有機化合物の重要な供給源であったかもしれません。例えば、タンパク質の原料となるアミノ酸はずいぶんと以前から確認されています。核酸を構成する化合物についても、隕石から検出されまいかということは、長年にわたって議論されてきました。しかし、それらが本当に隕石によってもたらされたものか地球上のもので汚染されていないかという疑念は、いつでもつきまといます。

 

NASAのJason氏らの研究[1]では、南極から得られた12の異なる隕石について、ギ酸で抽出し、液体クロマトグラフィー質量分析スペクトルを組み合わせた方法により、100億分の1の検出感度で成分を調べたようです。すると、炭素に富むタイプの隕石について、アデニンやグアニンなどの核酸塩基が検出されました。そして、これらに加えて、地球上では検出されないはずの物質が見つかりました。

GREEN054.PNG

分析によると、6-アミノプリン(つまりアデニン)に加えて、6,8-ジアミノプリン2,6-ジアミノプリンなどが検出されたというのです。これらの化合物は、地球土壌サンプルや南極氷サンプルからは検出されませんでした。アデニンと似て非なる物質が検出されたため、隕石から検出されたアデニンも、生命が酵素反応で作ったものではないようです。

隕石から検出されたこれらアデニン類縁化合物は、シアン化アンモニウムのような単純な構造の化合物を、ガラス容器の中で半年ほど反応させたところ、アデニンと同じく確かに生成したようです。隕石が宇宙を旅し、大気圏に突入する過程で、核酸塩基が生成した可能性は十分にあると考察できます。

GREEN055.png

はたして化学進化のミッシングリンクは宇宙にあるのか。星空を見上げながら、太古の地球に思いをはせるのもよいかもしれません。

 

  • 解答

GREEN056.PNG

クリックで拡大

 

  • 参考論文

[1] "Carbonaceous meteorites contain a wide range of extraterrestrial nucleobases" Michael P. Callahan et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2011 DOI: 10.1073/pnas.1106493108

 

  • 関連書籍

 

Avatar photo

Green

投稿者の記事一覧

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. 酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング
  2. 薬学部ってどんなところ?(学校生活編)
  3. 化学者のためのエレクトロニクス講座~半導体の歴史編~
  4. ダイセルが開発した新しいカラム: DCpak PTZ
  5. ケムステ主催バーチャルシンポジウム「最先端有機化学」を開催します…
  6. 2022 CAS Future Leaders プログラム参加者…
  7. 第8回 野依フォーラム若手育成塾
  8. 米国へ講演旅行にいってきました:Part I

注目情報

ピックアップ記事

  1. 高分解能顕微鏡の進展:化学結合・電子軌道の観測から、元素種の特定まで
  2. 研究者のためのCG作成術③(設定編)
  3. 第25回「ペプチドを化学ツールとして細胞を操りたい」 二木史朗 教授
  4. 化学研究で役に立つデータ解析入門:エクセルでも立派な解析ができるぞ編
  5. sp3炭素のクロスカップリング反応の機構解明研究
  6. 劣性遺伝子押さえ込む メンデルの法則仕組み解明
  7. 研究室での英語【Part 3】
  8. 不安定な高分子原料を従来に比べて 50 倍安定化することに成功! ~水中での化学反応・材料合成に利用可能、有機溶媒の大幅削減による脱炭素に貢献~
  9. 一塩基違いの DNA の迅速な単離: 対照実験がどのように Nature への出版につながったか
  10. フラーレンの中には核反応を早くする不思議空間がある

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2011年12月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

細谷 昌弘 Masahiro HOSOYA

細谷 昌弘(ほそや まさひろ, 19xx年xx月xx日-)は、日本の創薬科学者である。塩野義製薬株式…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP