[スポンサーリンク]

一般的な話題

粘土に挟まれた有機化合物は…?

[スポンサーリンク]

 

日本化学会 第93春期年会に参加したみなさん,お疲れ様でした!数多くのすばらしい講演や研究発表が行われており,わたしも全日参加してたくさんの学びや刺激を得て帰ってきました.

今回は,そんな数多く行われていたご講演のうち,川俣 純先生(山口大院医 教授)の研究をご紹介したいと思います!講演タイトルは,「無機ナノシート層間に取り込まれた有機化合物の光物性」です.

 

研究内容の紹介に入る前に….みなさんは,粘土と聞いてどんなものを思い浮かべるでしょうか?

土を掘ったら出てくるあのべたべたした茶色い土や陶芸品の原料となる土,または図工の時間などに使った紙粘土を思い浮かべる方が多いと思います.

粘土ってなに?

 

粘土の定義は,「粘性および可塑性をもつ微粒(2-5 μm)の天然物集合体」です.つまり,土中で水を含んでべたべたになっているのも,焼いたら堅くなって器として使えるのも,その粘土の性質によるものなのです.

その粘土を構成している鉱物を粘土鉱物と呼び,その大部分は層状ケイ酸塩です.層状という名前の通り,実は粘土鉱物は非常に小さく平らなシート上の粒子が重なり合った構造をしています.そして,このシートとシートの間に様々な分子も取り込む性質を持っています.先ほど書いた粘土の特性である粘性は,シート間に水を含んで膨潤しているから生じるのです.そのため,土壌中においても粘土は植物養分の保持,供給や生育環境の維持,制御,さらには重金属や種々の汚染物質の吸着や固定,分解浄化にまで深く関わっているんです!

 

3398077608_f6febf8be1

粘土の形は,カスタードクリームがたっぷり入ったミルフィーユとよく似ています.

 

そんな粘土鉱物について,国内外で数多くの研究がなされています.今回紹介する川俣先生は,その粘土鉱物の層間に取り込まれた有機化合物の光物性について研究されています.

 

粘土のあいだに分子を取り込む

 

粘土鉱物の層と層の間は二次元的な空間のため,そこに入った物質の配向は二次元的に制限されてしまいます.サンドイッチをつくる時を思い浮かべてくださいね.

たとえば,アセチレン結合は回転運動をするため,アセチレン化合物の多くは溶液状態では発光を生じないことが知られています.そのアセチレン化合物である1-methyl-4-(2-phenylethynyl)pyridinium iodide (PEP)を粘土鉱物の層間に入れると,常温でも強い発光が見られたのです!さらに,溶液および粘土層間のPEP の吸収極大波長は,溶液→粘土層間において331 nm→350 nmと大きくレッドシフトしました.これらの結果は,溶液中で不規則に運動していたPEP分子が粘土層間へ規則的に配列することで,PEP のアセチレン部位の分子振動が抑制され,π電子系が拡張されていることを示唆しています.

 

PEP

PEPの構造式

PEP-2

水溶液および粘土層間におけるPEP(どちらも学会抄録から引用)

さらに,粘土鉱物の層は負に帯電していると書きました.つまり,粘土シートとイオンとの間にはクーロン力が働いているのです.川俣先生の計算によると,層間に働くクーロン力は1 GPaにもなるそうです….それだけの力を与えられたら,層間に入った有機化合物の配向や物性も大きく変わることが予測されますね.

そこで川俣先生は,層間にビフェニルを入れてみました.溶液中のビフェニルは,ベンゼン環がほぼ直交している(約45°ねじれている)状態が一番安定なのですが,粘土鉱物層間に入るとベンゼン環が平行に配置することが明らかになりました.この状態のビフェニルは,溶液中で静水圧を2 GPaかけてようやく得られるのですが,粘土鉱物層間に入れただけで同様の状態をとるとは驚きですね.

 

いろが変わる粘土

 

さらに粘土の膨潤性を利用して,粘土鉱物複合体に溶媒を添加・除去することで,層間の有機分子の平面性を可逆的に変化させることが可能であるということも見いだしました.ビフェニル化合物である1,1’-Dimethyl-4,4’-(biphenyl-2,1-ethenediyl)dipyridium iodide (BP)を粘土鉱物層間に押し込めると,平面性が向上し,複合体は黄緑色の発光を呈していました.その複合体に溶媒であるDMSOを添加すると,粘土鉱物の層間にDMSOが入る→層間が広がる→BPの平面性が低下する→発光がオレンジ色に変化する,という一連の流れが見られたそうです.さらに当日の発表では,この様子を動画で紹介してくださいました!(リンクが貼れないのが残念です)川俣先生の発表は,未来の発光材料を想像させる,とても刺激的な発表でした.

 

BP

BPの構造式(こんなに大きくても入ります)

BP-2

BP/粘土複合膜の蛍光極大変化:■DMSO塗布,◆DMSO除去(共同研究者抄録から引用)

 

いかがでしたか?粘土鉱物と複合化するだけで,これまで知られてきた化合物の性質が大きく変わる…なんてこともあるかもしれませんよね?

紀元前から私たちの生活に関わってきた粘土ですが,まだまだ隠された可能性がありそうですね!

uretan

投稿者の記事一覧

博士後期課程の学生です.無機と有機とバイオの間を ふらふらしているので,同じく分野をふらふらした記 事を書ければと思っています.HNは誤字じゃないよ!

関連記事

  1. リチウムイオン電池のはなし~1~
  2. 3.11 14:46 ③ 復興へ、震災を教訓として
  3. 複数のねじれを持つ芳香族ベルトの不斉合成と構造解析に成功
  4. キッチン・ケミストリー
  5. 化学エネルギーを使って自律歩行するゲル
  6. 【日産化学】画期的な生物活性を有する新規除草剤の開発  ~ジオキ…
  7. MOF 結晶表面の敏感な応答をリアルタイム観察
  8. 化学者の卵に就職活動到来

注目情報

ピックアップ記事

  1. 文具に凝るといふことを化学者もしてみむとてするなり⑧:ネオジム磁石の巻
  2. 信じられない!驚愕の天然物たちー顛末編ー
  3. 福井県内において一酸化炭素中毒事故(軽症2名)が発生
  4. 学振申請書を磨き上げるポイント ~自己評価欄 編(前編)~
  5. 第123回―「遺伝暗号を拡張して新しいタンパク質を作る」Nick Fisk教授
  6. DOIって何?
  7. 薬剤師国家試験にチャレンジ!【有機化学編その1】
  8. カンブリア爆発の謎に新展開
  9. 機械学習は、論文の流行をとらえているだけかもしれない:鈴木ー宮浦カップリングでのケーススタディ
  10. 2005年11月分の気になる化学関連ニュース投票結果

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年4月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

条件の「前後」も実験条件である【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

そのpH、“本当にその場所”の値ですか?ニードル式pHセンサーを使ってみた!

突然ですが、「培養の再現性がなんか悪い」「同じ条件のはずなのに結果がズレる」といった経験はあ…

「骨格編集」×「ナノカーボン合成」〜ナノカーボン合成の新戦略を実証〜

第719回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院工学研究科(忍久保研究室)博士後期課程2年の平…

【書評】立体化学 はじめの一歩

立体化学は,分子の三次元構造を理解するための重要な分野であり,有機化学や…

水のシミュレーション入門 — 水分子を計算機の中でどう”描く”か —

身近なのに、計算機にとって手強い"水"。本記事では、点電荷モデルから機械学習まで、その"描き方"の進…

◆◇◆◇ 第36回フォーラム・イン・ドージン開催のご案内 ◆◇◆◇

同仁化学研究所が熊本から世界へ情報発信するフォーラム・イン・ドージンの開催ご案内です。今年は『な…

『力』による円偏光発光のon/off制御を単一分子レベルで実現

第718回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 物質理工学院(相良研究室)博士後期課程2年の野中…

数日かかっていた反応機構解析を、わずか数分に!

機械学習ポテンシャルが変える計算化学の現在近年、DFT計算による反応機構解析は広く行われるよ…

海外ポスドクのオファーをもらう【アメリカで Ph.D. を取る: 進路編】

ポスドクとして海外に留学する場合、希望する研究室の教授に直接連絡を取り、面接などを通して適性を判断さ…

MDで観るトライボロジー 〜原子が擦れるその場をシミュレーション〜

軽くて強いのに摩耗に弱いチタン合金は、航空機や人工関節に広く使われています。原子が擦れ合うその場を分…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP