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化学者のつぶやき

学生実験・いまむかし

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筆者はこの4月から大学勤務になりまして、『有機化学の学生実験を教える』というお仕事が回ってくるようになりました。

しかし筆者が受けていた10年前とは、学生側でも教師側でも、取り組み方がだいぶ変わっているようです。

特に身の回りにある文明の利器をうまく使うということを厭わなくなったのが、一番の違いに思えました。

見ていて面白かったので、学生時代を振り返りつつ、違いを語ってみたいと思います。

タイムコースごとに手順をパワーポイント表示

学生には実験の前に、あらかじめ実習用教科書が配られます。原理などをそこから学びつつ、書かれているとおりの実験を行うというのが基本です。経験に乏しい学生向けなので、教育的でありながらも失敗が少ない、危なくない、適切な時間で終わる、精製が簡単・・・などなどの特徴ある実験がうまくチョイスされています。

しかし現実には、実習書には書ききれない細かいノウハウがたくさんあります。これをその場で伝えきれるかどうかで、学生の進行速度に雲泥の差が出てきたりもするのです。

そのため先生側は黒板(ホワイトボード)に実験手順と注意点を全て板書し、学生側は異なる点を実習書と照らし合わせながら実験を進める、という方式がとられています。

筆者の学生時代もこれは同じでした。しかし板書は、追記に伴いごちゃごちゃして見づらくなっていくものです。

最近では改良が施され、必要な追加事項を適宜パワーポイントで映し出すスタイルになりました。つまり、実験室に設置されてる巨大ディスプレイに、時間帯に応じた実験手順を映し出すようにしているのです。

この方法は実習書や板書には無いメリットがあります。

学生たちの実験進捗具合を見ながら、映し出すスライドを変えていけるので無駄がありません。教師側としては手書きしなくてよいので楽ですし、「先生の字が汚くて読めない!」という学生側からの文句も減ります(笑)。図や構造式なども、予め用意して行けますし、PCを持ち込めばその場で修正することも簡単です。保存コストもいらないので、来年度も簡単に使い回しできます。

実際には、板書とパワーポイントは併用されています。学生によって進む速度がまちまちなので、全体図を書いてある板書はどうしても必要なのですね。(ディスプレイやプロジェクターが複数あれば、そこは解決できるかもしれませんが)。

実演デモはカメラで映写

学生実験ともなると、一度に数十人もの学生に解説しないといけません。しかし実験操作の説明は口頭説明だけでは不十分で、たとえばカラムの立て方、セライトろ過の仕方、ガラス管の加工など、実演しながらでないと学生側でイメージを掴みにくい操作が数多くあります。

かつては実験台をひとつ占拠して実演し、学生を周りに集めて観察させていました。ただ、それだと後ろのほうに陣取ってしまった学生は、何やってるのか良く見えないんですね。

この点も最近になって改善され、ハンディカメラが導入されるようになりました。つまり、先生が実演する姿をカメラで撮って、リアルタイムでディスプレイに映し出すようにしているのです。

遠くの位置で直接先生の手元が見えない学生は、それを眺めればよい、というわけ。

いずれはその場で実演すらしなくなり、予め撮影しておいた動画を流して解説するだけ・・・な日が来るのかも知れないな、とも思ったり。

ケータイカメラをふんだんに活用する学生

筆者が学生だったころ、板書やスライドは、映し出されたものが消える前に必死でノートに模写してたものです。

しかし最近の学生は賢いもので、そういったものはケータイのカメラでひたすら激写するのです。
スライドがディスプレイに映った途端、あちこちでピロリーン♪という撮影音の大合奏になるのはいかにも今風。筆者が学生だった頃はケータイが普及して間がなく、カメラなどというものはついていませんでしたが、今ではこれが普通なんですね。

実験で得られたTLCにしても、なんとスケッチするだけでなく、ケータイのカメラで撮影したあと、メールでPCへ転送するやり方がポピュラーという話で驚き。そうやって撮ったTLC写真をレポートに貼り付けてくる学生、ちらほらいます。確かにそちらのほうが、色やスポットの位置なんかを書き損じることがないので、より詳細に議論できて良い知れません。

「ほうほうイマドキの学生、こうするもんなのか、そうだよなー、面白いな!」と素直に感嘆したものです。

レポートを書くときは全員PC・・・というわけでもない?

最近、PCは本当に安くなりました。今では10万円を切る値段でデスクトップ、あわよくばラップトップPCが買えてしまいます。筆者が大学に入ったときなどは、20~30万円払って、今のネットブックよりずっと性能の低いラップトップPCを買っていました。メモリの増設にも3~4万という高額を払った記憶があります。今考えると信じられない価格設定ですが、当時はそれしかありませんでした。いやはや、良い時代になったものです。

そういう事情もあって、今では学生が一人一台PCを持ってる、ということも珍しくなくなったわけですが、有機化学のレポートをPCで作成してくる学生となると、意外にも多くありません

化学の学生はPCにそれほど強くない・・・というのも一因かもしれませんが、おそらく最大の理由としては、実験器具の図や化学構造式を書くためのソフトウェアが、あまり一般的ではないからでしょう。
化学構造式が書けるフリーソフトとしては、ChemSketchなど。あるにはあります。とはいえレポートのためだけに使用頻度の低いソフトをマスターして、苦労してデジタル作成するよりは、自分で手書きしてしまったほうが実のところ速いという・・・まぁ、そりゃそうですよね。

ちなみに筆者個人はどうだったかというと・・・有機のレポートはISISDrawとLaTeXを駆使し、当時からすべてをデジタル作成していました。Wordを持ってたにもかかわらず、あえてハードルの高いLaTeXで書いてるあたり無駄に格好付けまくりです。

しかしいざ採点する立場になってみると、「見やすく書けてる限りは、結局内容だけで判断するもんだなぁ」・・・と感じてるところで。「うむむ、当時のアレは無駄な努力そのものだったのか・・・??」などと思うことひとしきりであります。

『これが若さか・・・』

とはいえ、参考文献については、明らかにネット出自が増えてるようです。

cosine

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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