[スポンサーリンク]

一般的な話題

Nature Reviews Chemistry創刊!

[スポンサーリンク]

ついこの前2017年がはじまったと思ったら、もう2月ですね。あっという間です。さて、今年に入りシュプリンガー・ネイチャーから新しいジャーナルが創刊したのはご存知でしょうか。

その名もNature Reviews Chemistry

名前の通り、化学に関する総説を収録した総説誌です。シュプリンガーネイチャーでは積極的に総説誌「Nature Reviewsシリーズ」を創刊しており、すでに17の分野で総説誌を発刊していました。そして、18個目がこの化学の総説誌になるわけです。ただ私の環境では残念ながら3/18しか閲覧できません。ただし、今回のNature Reviews Chemistry創刊号は誰でも無料で見られるのでぜひ御覧ください。

皆さんご存知の「Nature系」ですので、かなり厳選された総説が掲載される可能性が高いです。まだまだ購読されている方も少ないと思いますが、定期的にチェックをしていくため、購読をはじめ、2ヶ月に1度定期的にNature Reviews Chemistryの内容を紹介することとしました。それではまずは創刊号を紹介いたします。

どんな趣旨の総説なのか?

創刊号ですので、どんな感じでこの雑誌の誌面をつくっていくのか?気になるところです。

編集部の記事では、良いレビュー誌を作っていくために、2002年2月、イラク政府がテロリスト集団に大量破壊兵器を提供している証拠がないことを記者会見で指摘された、アメリカ国務長官(当時)ドナルド・ラムズフェルド氏の言葉を引用して説明しています。

…there are known knowns; there are things we know we know. We also know there are known unknowns. That is to say, we know there are some things that we know we do not know. But there are also unknown unknowns. The ones we don’t know we don’t know.

知っていることを知っている情報もあれば、知らないことを知っている情報もある。知らないことを知っているとは、そこに何か我々の知らない情報があると分かっているということだ。しかし存在すら知らない情報(知らないと知らない)というものもある。)

これに「known unknown」(知らないことを知っている)を加えた4つの組み合わせが、様々な事象に共通していることから引用されることが多い発言ですが、総説はこれらを満たすものではなくてはならないということを述べています。これらに対応するのがなんなのか、気になる人は記事を読んでもらうことにして、実際に中身を眺めてみました。一般的な総説誌と少し異なるのは、

  1. 左欄外に用語説明がある(PDFのみ。Web版はない)
  2. バックグラウンドや基本的な事項を述べたBoxという項がある
  3. 最後がconclusionsでなくoutlook and conclusionsで今後の研究の方向性なども述べられている

というところです。確かに、なかなか面白そうです。

さて、創刊号の総説(Latest Reviews)は6つ。加えて、注目論文の紹介や論説などのNews&Commentsで構成されています。今回は総説からピックアップしてみていきましょう。

アクチニド系の化合物と触媒による含酸素炭素化合物の変換

“Carbon oxygenate transformations by actinide compounds and catalysts”

Arnold, P. L.; Turner, Z. R. Nat. Rev. Chem. 2017, 1, 0002. DOI: 10.1038/s41570-016-0002

なんとアクチノイド化合物や触媒を使った反応の総説です。かなりマニアックですね。対象としているのはアクチノイドのなかでも原子番号が90-92番のトリウム(Th)・プロトアクチニウム(Pa)・ウラン(U)。

著者はエジンバラ大学のPolly L Arnold教授ら。ウランやランタノイド系錯体の合成を中心に研究を行っているようです。

どれも化学者なのにみたことも触ったこともないです….なぜならこれらは全て放射性同位体であり、普通の環境ならば手に入れることもできず、扱うこともできないためです。かなり特殊な環境が必要となるため、化学の中でもビッグケミストリーの範疇にはいるんでしょうか。総説では結合解離エネルギーはトリウムが他の遷移金属に比べて大きいことから説明が始まり、様々なアクチノイド金属錯体の合成が紹介されています。

遷移金属とトリウム(ジシクロペンタジエニル錯体)の結合解離エネルギー (出展:Arnold, P. L. et al, Nat. Rev. Chem. 2017, 1, 0002)

欄外にはシクロペンタジエニル(Cp)の用語説明まで記載されており、またBox欄の1つにはアクチノイドによく使われる配位子がまとめられています。これならば比較的分野が違っていても少しは読みやすいかもしれません。

立体的に込み合った無機分子と有機金属分子におけるロンドン分散力

“London dispersion forces in sterically crowded inorganic and organometallic molecules”

Liptrot, D. J.; Power, P. P. Nat. Rev. Chem. 2017, 1 , 0004. DOI: 10.1038/s41570-016-0004

ロンドン分散力(ロンドン力)はファンデルワールス力の最も弱い構成要素の1つ。総説では嵩高い無機および有機化合物のロンドン分散力について述べています。

著者はカリフォルニア州立大学デイビス校のPhilip P. Power教授ら。典型元素化合物の合成を中心に研究を行っています。なんと、「嵩高い」化合物の説明や、ロンドン分散力の説明(Box欄)からはじまっているところが、基本的な内容から説明するこの総説誌の方向性を伺えます。最終的には自身の分野である典型元素化合物のお話へとうまく導いています。

「嵩高い」の説明(出展:Liptrot, D. J et al, Nat. Rev. Chem. 2017, 1 , 0004)

他の総説とは違う気がする

というわけで、創刊号ということでどんな雑誌なのか紹介しましたが、かなり教育的な総説誌であることがわかります。加えて、分野によく精通していて、さらに文章力やまとめる力がないと書けない内容です。以上、一味もふた味も違うこの総説Nature Reviews Chemistryをぜひ購読してみてはいかがでしょうか。

Nature Rev. Chem. に関するケムステ記事

関連リンク

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 第25回 名古屋メダルセミナー The 25th Nagoya …
  2. 【書籍】機器分析ハンドブック2 高分子・分離分析編
  3. 第七回ケムステVシンポジウム「有機合成化学の若い力」を開催します…
  4. MOF 結晶表面の敏感な応答をリアルタイム観察
  5. 逐次的ラジカル重合によるモノマー配列制御法
  6. 大学院から始めるストレスマネジメント【アメリカで Ph.D. を…
  7. クロスメタセシスによる三置換アリルアルコール類の合成
  8. 祝5周年!-Nature Chemistryの5年間-

注目情報

ピックアップ記事

  1. 光触媒反応用途の青色LED光源を比較してみた【2020/8/11更新】
  2. 有賀先生に質問しよう!!【第29回ケムステVシンポ特別企画】
  3. ユネスコ女性科学賞:小林教授を表彰
  4. 氷河期に大量のメタン放出 十勝沖の海底研究で判明
  5. 第53回「すべての化学・工学データを知識に変える」金子弘昌准教授
  6. とある難病の薬 ~アザシチジンとその仲間~
  7. カルボン酸だけを触媒的にエノラート化する
  8. ジェイ・キースリング Jay Keasling
  9. Pfizer JAK阻害薬tofacitinib承認勧告
  10. 日本薬学会第139年会 付設展示会ケムステキャンペーン

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年2月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728  

注目情報

最新記事

欧米化学メーカーのR&D戦略について調査結果を発表

この程、TPCマーケティングリサーチ株式会社(本社=大阪市西区、代表取締役社長=松本竜馬)は、欧米化…

有馬温泉でラドン泉の放射線量を計算してみた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉は、日本の温泉で最も高い塩分濃度を持ち黄褐色を呈する金泉と二酸化炭素と放射性のラドンを含んだ…

アミンホウ素を「くっつける」・「つかう」 ~ポリフルオロアレーンの光触媒的C–Fホウ素化反応と鈴木・宮浦カップリングの開発~

第684回のスポットライトリサーチは、名古屋工業大学大学院工学研究科(中村研究室)安川直樹 助教と修…

第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」を開催します!

第56回ケムステVシンポの会告を致します。3年前(32回)・2年前(41回)・昨年(49回)…

骨粗鬆症を通じてみる薬の工夫

お久しぶりです。以前記事を挙げてから1年以上たってしまい、時間の進む速さに驚いていま…

インドの農薬市場と各社の事業戦略について調査結果を発表

この程、TPCマーケティングリサーチ株式会社(本社=大阪市西区、代表取締役社長=松本竜馬)は、インド…

【味の素ファインテクノ】新卒採用情報(2027卒)

当社は入社時研修を経て、先輩指導のもと、実践(※)の場でご活躍いただきます。…

味の素グループの化学メーカー「味の素ファインテクノ社」を紹介します

食品会社として知られる味の素社ですが、味の素ファインテクノ社はその味の素グループ…

味の素ファインテクノ社の技術と社会貢献

味の素ファインテクノ社は、電子材料の分野において独創的な製品を開発し、お客様の中にイノベーションを起…

サステナブル社会の実現に貢献する新製品開発

味の素ファインテクノ社が開発し、これから事業に発展して、社会に大きく貢献する製品…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP