[スポンサーリンク]

日本人化学者インタビュー

第15回 触媒の力で斬新な炭素骨格構築 中尾 佳亮講師

[スポンサーリンク]

 

さて、第15回目は若返って第9回の山下誠先生(現所属:中央大学教授)から紹介頂きました、京都大学大学院工学研究科の中尾 佳亮先生(現在同大学教授)にインタビューをいただきました。これまでで最年少研究者へのインタビューです。中尾先生は遷移金属触媒を用いて炭素ー炭素結合をつなぐ斬新な手法を開発している合成科学者です。本サイトでも化学者のつぶやきなどにていくつか研究をハイライトさせていただいています(参考記事:論文~炭素-炭素結合を切る!?~、C-CN結合活性化を介したオレフィンへの触媒的不斉付加)。

この分野では間違いなく若手研究者の第一線を走っており、多くの若手の目標とする賞である三井化学触媒科学賞日本化学会進歩賞、MBLA(メルク万有レクチャーシップアワード)などを総なめしています。そんな中尾先生がどんなきっかけで化学者を目指したのか?今回は研究のお話でなくそのきっかけから聞いていきたいと思います。それではどうぞ!

Q. あなたが化学者になった理由は?

お恥ずかしながら、かなりいい加減な動機です。正直高校時代は理系科目が不得意だったのですが,うちの高校では何となく「男は理系」という雰囲気があって,それに流されて無理してまず理系に進みました。
大学受験では,学部は何でもいいから,とりあえず京大志望でした。それほど成績はよくなかったので,当時,京大の理系学部で唯一国語の二次試験がなかった工学部の中で,さらに合格最低点もそのころ毎年最下位を争っていた工業化学科なら入れるかもしれないと思いました。ただ,高校の化学の授業で実験がわりと多くあって,結構楽しいなと思ったのも,工業化学科に志望を決定した大きな理由です。
大学に残って化学を続けることになったのも,全く想定外でした。博士を取ったら,ポスドクを経て,給料のいいアメリカの製薬会社に行くつもりだったんです。そんな中で,たまたま所属の檜山研で,現東大の野崎京子先生の後任のポストの話をもらって,京大で助手をスタートできるならちょっと力試ししてみようという軽い気持ちがきっかけです。5年やって芽が出なければ,その時点で会社に行けばいいや,と思ってスタートしました。今では,これ以上にやりがいのある仕事はないと思いますし,講義もわりと楽しめているので,このまま続けていきたいですね。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

小学生みたいですが,サッカー選手です。小学校から大学までずっと真剣にやってましたので,やはり憧れです。技術的には結構自信がありましたけど,いかんせん基本的な身体能力が低いので絶対成功しなかったと思いますが。
もっと現実的に可能性があるところでは,考古学者ですかね。歴史は,結構好きで,確か学研の「ひみつシリーズ」の影響だったと思いますが,小学校のころから世界の古代遺跡によくはまってました。新婚旅行でエジプトに行って,そのころからの念願が少しかないました。今後他の遺跡巡りはしばらく難しそうですが・・・。

[amazonjs asin=”4051062899″ locale=”JP” title=”古代遺跡のひみつ (学研まんが ひみつシリーズ)”]

 

Q.概して化学者はどのように世界に貢献する事ができますか?

月並みな意見ですが,人類の豊かな現代生活と地球環境を維持していくこと,この両方に一番貢献できる,しなくてはならないのが化学者だと思っています。
前者に関しては,より優れた材料や医薬など新しい物質の創製を通じて,後者に関しては当然資源・エネルギー問題の解決を通じてということですね。もちろんこの両者はリンクしているわけですが。具体的なゴールはいろいろ示されていて,多くの化学者たちがすでにこれに挑んでいますよね。僕自信は,そういうゴールに向って,競争に参入していく自信はないので,他の人がまだ気付いてない自分自身のゴールを早く設定したいなと思っています。
しかし,恥ずかしながら,なかなか思いつきませんし,目の前の小さな問題を解決するのに手一杯の状況です。もともと,このゴールを設定できない人間がアカデミアに行ってはいけないと思っていました。ただ,やりながらそのうち思いつくだろうと思っていましたが,そう簡単ではないので,今は少し焦っています。

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

Woodward先生です。Woodward先生が,もし現在の最新の有機合成手法をご存知だったら,例えば,いろいろな複雑な天然物合成をどんな風にお考えになるのか,特にいろいろな遷移金属触媒反応をどんな風に使いこなされるのか,お話を伺ってみたいです。

Robert Burns Woodward

Robert Burns Woodward

 

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

実験ノートを開いてみたところ,2005年12月が最後ですね。このときは,卒業生の仕事を論文にまとめるのに必要だった化合物データを得るための実験のようです。
まともな研究実験は,さらに1年前の2004年12月が最後です。カルベン触媒でアルデヒドから発生させたアシルアニオン等価体を求核剤にしてクロスカップリングをやろうと試みていました。遷移金属触媒と有機触媒の協働作用の系をやりたかったんです。その後,似たようなコンセプトの仕事が少し出て来たので,止めました。最近,グループメンバーが減って,もう少し書き物を片付けたら時間も取れそうなので,実験を再開しようと思っています。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

うまく想像できない状況ですが,同じ本を繰り返し読んだことがないので,今なら司馬遼太郎さんの作品で,まだ読んでないものを持っていきます。音楽は,自分のパソコンのi-Tunes に入っているものをそのままi-Podに入れてとりあえず持っていきます。中身はいろいろです。あまりこだわりはありません。
[amazonjs asin=”B00D3CBFC4″ locale=”JP” title=”竜馬がゆく(一)”]

 

Q. 次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。

自分の恩師の先生方,すでにインタビューを受けた先生方,お名前の挙がっている先生方を除いて,私が尊敬している先生を挙げさせていただきます。
少し世代が違いますが,三浦雅博先生(阪大)。C–H活性化が大ブームですが,世界中で多くの人が三浦先生のパラジウムやロジウム触媒系を利用しています。こんな風に,みんながこぞって真似をしてくるようなテーマを自分で立ち上げたいですね。それから山子茂先生(京大・化研)。何年かおきに全く新しいテーマに取り組んでおられて,それがまたどれもすごくユニークで,研究スタイルとして理想像だと思っています。

関連リンク

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 第159回―「世界最大の自己組織化分子を作り上げる」佐藤宗太 特…
  2. 第123回―「遺伝暗号を拡張して新しいタンパク質を作る」Nick…
  3. 第53回「すべての化学・工学データを知識に変える」金子弘昌准教授…
  4. 第29回「安全・簡便・短工程を実現する」眞鍋敬教授
  5. 第150回―「触媒反応機構を解明する計算化学」Jeremy Ha…
  6. 「生物素材で新規構造材料を作り出す」沼田 圭司 教授
  7. 第36回「光で羽ばたく分子を活かした新技術の創出」齊藤尚平 准教…
  8. 第46回―「分子レベルの情報操作を目指す」Howard Colq…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 8億4400万円で和解 青色LED発明対価訴訟
  2. 室温でアルカンから水素を放出させる紫外光ハイブリッド触媒系
  3. 谷口 透 Tohru Taniguchi
  4. テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0) : Tetrakis(triphenylphosphine)palladium(0)
  5. Nature 創刊150周年記念シンポジウム:ポスター発表 募集中!
  6. トム・メイヤー Thomas J. Meyer
  7. 論文がリジェクトされる10の理由
  8. 大正製薬ってどんな会社?
  9. 特許庁「グリーン早期審査・早期審理」の試行開始
  10. 第5回ICReDD国際シンポジウム開催のお知らせ

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2011年12月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP