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化学エンターテイメント小説第3弾!『ラブ・リプレイ』

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 Chem-Stationの人気ブログ「化学者のつぶやき」では、「化学者による化学の小説」というこれまでに例のない職業、題材を扱っている喜多喜久氏の書籍を応援してきました。第一弾の大ヒット書籍「ラブ・ケミストリー」、第二弾の「猫色ケミストリー」ともに化学を専攻する学生が主人公であり、化学の様々な描写をふんだんに取り入れたその内容は化学に携わるものであるならば、小説としてはとっても新鮮で、かつ身近に感じられたものと思います。幸いにも喜多氏は実は本ブログのファンという事で、著者の喜多氏へインタビューも行う事ができまして、このような小説を書くまでの経緯や裏話なども聞く事ができました。
 さて、タイトルにある通り、実は喜多喜久著の化学ラブコメ&ミステリー小説第三弾となる「ラブ・リプレイ」が9月7日に発売になります!残念ながら今回でこのシリーズは最後になるそうですが、このたび著者の喜多氏みずからに書籍のあらすじやみどころなどを寄稿していただく機会を得ました!是非ご覧ください!

 


「化学者のつぶやき」をご覧の皆様。ご無沙汰しております。喜多喜久です。

このたび、『ラブ・ケミストリー』『猫色ケミストリー』に続く、化学ミステリー第三弾を刊行することになり、誠に厚かましい話ですが、こうして記事を投稿させていただくことになりました。

 

新作のタイトルは『ラブ・リプレイ』です。(2012年9月7日刊行予定・宝島社)

諸般の事情により「ケミストリー」という単語は使いませんでしたが、舞台はこれまでと同じくT大農学部で、有機化学系の研究室に籍を置く大学院生が主人公になっています。(なんと、今作は女の子が主人公です!)

 

さて、物語のあらすじは……。

 

 浅野奈海はバレンタインデーの朝、同じゼミに在籍する本田宗輔の死体を発見する。凶事に茫然自失する奈海の前に、“死神”を名乗る青年クロトが姿を現し、「愛する者を救うために未来を変えるチャンスを与える」と告げる。奈海は未来をやり直しながら本田の死因を突き止めようとするが、本田が密かに開発していた惚れ薬も絡み、事態は思わぬ方向へ……

果たしてふたりの運命やいかに?

 

はい。いろいろと突っ込みどころがあると思います。

タイトルにもある通り、今作はいわゆるタイムループものです。ケン・グリムウッドの『リプレイ』、あるいは西澤保彦氏の『七回死んだ男』などと同じジャンルです。

物語がどういう風に進んでいくかは実際に本を読んでいただくとして、本稿では「化学者のつぶやき」の趣旨にのっとり、化学的な話題――プロドラッグに関してつぶやいてみたいと思います。

この題材を選んだ理由はのちほど……。

 

 

過去の記事で解説されている通り、プロドラッグとは「体内で化学的変換を受け、薬理活性を有する構造に変化する薬物」の総称です。薬物に保護基を付けるようなイメージですね。

化学的変換の大半は酵素による代謝反応であり、その中でもエステラーゼによるエステルの加水分解がよく用いられます。水溶性の高いカルボン酸(もしくはアルコール)をエステルにすることで脂溶性を上げ、体内への吸収率を高めているわけです。

 

カルボン酸はエステルにすればいい――。では、アミンはどういう形にすればよいのでしょうか?

 

実はこれ、意外と難題だったりします。例えば、Bocはどうでしょう? 胃酸のpHなら外れそうだし、一見使えそうに思えますが、薬物の吸収は主に小腸で起こりますので、そこにたどり着くまでに壊れてもらっては困ります。つまり、酸で外れる保護基は使えないわけです。

ならばベンジル基はどうでしょう。これなら酸には安定です。しかし、体内にパラジウムはありませんので、水素添加反応で外すことはできません。代謝で脱ベンジル化されることはありますが、酸化部位をコントロールしなければならないため、狙って起こすのはかなり難しいです。

こうして絞り込んでいくと、日常的に使っているアミンの保護基の多くが利用不可能であることが分かります。

 

では、アミンのプロドラッグは存在しないのかというとそんなことはなく、ちゃんと実例があります。[1]例えば、こちらの(アシルオキシ)アルキルカーバメート。エステラーゼが分解に関与しており、不安定なアセタール中間体を経て、最終的にアミンが再生することになります。

 

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ただし、この誘導体には、分子内でアシル基が転移するため、一級アミンに使用できないという弱点があります。

kitapart3_2.png

 

では、一級アミンのプロドラッグは不可能なのでしょうか。いえ、大丈夫。ちゃんと解決法はあります。

そのうちの一つがジヒドロピリジンアミドです。体内で酸化を受けて生じるN‐アルキルピリジンが脱離基として働くことで、酵素的なアミドの加水分解が起こり、見事に一級アミンが再生します。

kitapart3_3.png

 

さて、長い前置きがようやく終わりました。今回、アミンのプロドラッグの解説をしたのは、『ラブ・リプレイ』に登場する惚れ薬に、この技術が使われているからです。

 

惚れ薬と聞くと、多くの方がいかがわしいイメージを抱くと思います。イモリの黒焼き、ヒキガエルの粘液、トナカイの角……そういう、魔術的かつ民間伝承的な、化学とは程遠いものが、一般に言う惚れ薬の成分です。しかし、この惚れ薬は違います。薬理学的な知識をフル活用した、世界初(たぶん)の、本当に使えるかもしれない惚れ薬なのです!(効果のあるなしにかかわらず、使ったら逮捕されますが)

 

物語に出てくる惚れ薬(本文中では、化合物010と呼ばれています)は、下の図のような構造をしています。

ちなみに、この構造式は裏表紙と目次に載っています。

kitapart3_4.png

 

ジヒドロピリジンリンカーを持つこの化合物は、体内に入ると二箇所で切断を受けて、フェネチルアミンとインダン系化合物を再生します。これは「ダブルドラッグ」と呼ばれる技術です。[2]

kitapart3_5.png

 

この物質が惚れ薬として機能する薬理的なメカニズムについては、小説の方に説明を入れてありますので、そちらで――なるべくなら家に帰ってから――ご確認いただければ幸いです。

 

さて、三作続いた有機化学ミステリーですが、今作をもっていったん小休止となります。

といっても、純文学やファンタジーに鞍替えするつもりは毛頭なく、今後は「化学」ではなく、「科学」全般を題材にした小説を書いていこうと考えています。どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。

 


 

ということで、喜多氏の今後の益々のご活躍を願いたいと思います。最後にもう一度、化学ミステリーシリーズ第三弾「ラブ・リプレイ」の発売は2012年9月7日です!予約もしくは書店でご購入ください!

 

  • 参考・関連書籍

[1]Molecules 2008, 13(3), 519-547; doi:10.3390/molecules13030519

[2]木曽良明,林良雄,木村徹;低分子HIV プロテアーゼ阻害剤とそのダブルドラッグのデザインと合成

付記)本稿はコンプライアンスの観点から、インターネットでフリーに入手可能な文献を参考にしています

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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