[スポンサーリンク]

一般的な話題

ドライアイスに御用心

[スポンサーリンク]

 

 2012年6月9日岐阜県可児市今渡の広場で、小学3年から中学2年の男子9人が500 ml容ペットボトル2本に保冷用のドライアイスを砕き、水と一緒に入れて蓋で密封して遊んでいた。数人がペットボトルを蹴るなどしていたところ、ペットボトルが突然破裂した。

飛び散ったペットボトルの破片が中学2年の男子生徒(13)の右目の眼球に刺さり、病院に運ばれたとのこと。一緒に遊んでいた男子は「インターネットの動画サイトでペットボトルを破裂させているのを見て、自分たちもやってみたかった」と話しているという。

以上YOMIURI ON LINEなどの報道より引用加筆

 

言うまでもありませんが、ドライアイスとは二酸化炭素の固体のことです。

化学関係の実験室では大変なじみ深いもので、アセトン中にドライアイスを加えると-78°Cになり、低温にて行う必要のある実験に重宝する事から、多くの研究室では常備されているものと思われます。また、水に加えると白い煙をもうもうと出す事から、一昔前のテレビ番組では化学実験室の再現には欠かせないものでした。さらに、二酸化炭素が水に溶解したものが炭酸水であるので、砂糖水にドライアイスを入れてサイダーにするという実験もテレビで紹介されるなどして流行したことがあります。ドライアイスはケーキ屋さんやスーパーなどで比較的容易に入手することができます。

一般によく知られる便利な物質ではありますが、ドライアイスは-79°C で昇華、すなわち固体から直接気体になる物質です。水とは違って液体にならない氷というところから乾いた氷という名が付いたのでしょう。英語でdry ice、ドイツ語でもTrockeneis と中国語で乾冰ですからみな同じです。日本語だけ英語のカタカナ読みというのがなんとも・・・

また、比重が1.56であることから、固体状態のドライアイスを放置すると昇華し、その体積は約800倍にもなることが計算できます。ほんの一片で500 mlのペットボトルが満杯になることになります。ドライアイスを水に入れると白い煙がもうもうと出ますし、大変見ていて面白いのですが、容器を密閉するなどすると、内部の圧力が高まって大変危険です。また、たとえ破裂しなかったとしても、ドライアイス注入後に栓を開ける際にも状況によっては事故につながることもあることを忘れてはなりません。

冒頭の報道でもあるように、最近では動画サイトにその様子を公開している方が多くおり、検索するとかなりの数がヒットします。しかし、この実験(いたずら?)は大変危険であることは今回のような事故が絶えない事からも明らかです。特に、爆発した容器の破片が目に入るというのは取り返しがつかない事故となりますので、絶対にやらないように周知することが大切ではないでしょうか。

国民生活センターのサイトに以下の事例が紹介されています。

以下転載

【事例1】ジュースが入っているペットボトルにドライアイスを入れて振ったところ、ペットボトルが破裂し、破片が両眼に当たり、角膜びらんの受傷。(2005年、10歳女性)

【事例2】ドライアイスのかけらをネジ式のフタのジュースの空き缶に入れて振って遊んでいたところ、破裂し、左眼に角膜びらんの受傷。(2004年、8歳男性)

【事例3】「ペットボトルを使い、飲み残しのジュースが入ったボトル内にドライアイス片を入れて炭酸飲料を作ろうとしたところ、ボトルの膨張で飛んだキャップを目に受け、失明した、という事例がある」という情報が眼科医から寄せられた。(2004年)

【事例4】テレビでやっていた炭酸水作りをしようと、ポリタンクに水とドライアイスを入れたところ、ドライアイスの量が多すぎたのかポリタンクが破裂し、手指に負傷。(30歳代女性)

【事例5】友達と実験をしてみようと、ビンにドライアイス等を入れたところ、そのビンが倒れて破裂し、破片が飛び散り手指に負傷。(1997年、13歳男性)

【事例6】ドライアイスを買ってきて、ビンに入れ替え冷凍庫に入れておいたら庫内で爆発したとの情報が入った。子どもが使うために買ってきて、子どもが冷凍庫に入れたらしい。ガラスの破片が部屋中に飛び散り危険だったので注意表示を徹底してほしいとの要望であった。(1997年)

 

最近の事例だけでもこれだけあるとは驚きです。目に見えない圧力の危険性を侮ってはなりません。子どもがいたずらで他人にけがをさせた場合には、親の責任が問われることにもなります。被害者が青少年に多く見られることから、同様な事故が起きないように学校でも注意喚起することが望まれます。

 

 

  • 関連書籍

 

 

 

Avatar photo

ペリプラノン

投稿者の記事一覧

有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。

関連記事

  1. 連鎖と逐次重合が同時に起こる?
  2. アミロイド線維を触媒に応用する
  3. Anti-Markovnikov Hydration~一級アルコ…
  4. Communications Chemistry創刊!:ネイチャ…
  5. 総収率57%! 超効率的なタミフルの全合成
  6. マテリアルズ・インフォマティクスにおけるデータ0からの初期データ…
  7. スローン賞って知っていますか?
  8. 化学者のためのWordマクロ -Supporting Infor…

注目情報

ピックアップ記事

  1. ChemDrawの使い方 【基本機能編】
  2. HTTPS化とサーバー移転
  3. 二酸化炭素をほとんど排出せず、天然ガスから有用化学品を直接合成
  4. 就活・転職・面接・仕事まとめ
  5. 【経験者に聞く】マテリアルズ・インフォマティクスの事業開発キャリアへの挑戦
  6. メソリティック開裂 mesolytic cleavage
  7. ガスマン インドール合成 Gassman Indole Synthesis
  8. オキシ水銀化・脱水銀化 Oxymercuration-Demercuration
  9. ヒュスゲン環化付加 Huisgen Cycloaddition
  10. 有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズ

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年6月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP