[スポンサーリンク]

一般的な話題

結晶学分野に女性研究者が多いのは何故か?

[スポンサーリンク]

 

さあ近づいてまいりましたノーベル賞ウィーク

今年は誰が栄誉に輝くのでしょうか?そして日本人受賞者はいかに?

と気分が盛り上がって来ましたが、ノーベル賞関係で女性科学者の話題も度々上がりますよね。現在までに科学系では女性の受賞者はのべ16人とかなり少ないですが、これは女性研究者がまだまだ少ないことに起因していることは明らかです。しかし一方で女性研究者の割合が比較的多い分野があるのをご存知でしょうか?

その分野とはずばり結晶学です。

なんででしょうか?ある統計では1962年にはアメリカ結晶学会の女性会員はわずか3%でしたが、1981年には11%に、そして2014年には22%を占めるようになったとのことです。これは理系としては結構な比率ですよね。結晶学が女性を惹きつける理由は何かあるんでしょうか?

今回のポストは、Nature Chemistry誌からおなじみBryn Mawr CollegeMichelle Francl教授によるthesisを基に、結晶学と女性の関係について少し紹介したいと思います。前回のはこちら

Seeding crystallography

Francl, M. Nature Chem. 6, 842-844 (2014). doi: 10.1038/nchem.2067

一般に結晶学は比較的新しく、境界領域を含み、コラボレーションが求められる分野とされています。誤解を恐れずに言えば女性は忍耐強く、細やかで、ガツガツ競争するというよりも協力して研究を進めることを好むと思われ、結晶学は女性に向いているのかなと思えます。しかし、何もそういった分野は結晶学だけではありませんし、量子力学とか、高エネルギー物理学とかも条件は同じ気がします。

そこで結晶学の母、いや父の存在が大きいのではないかと考えられるわけです。その人とは、1915年に最年少の25歳でのノーベル賞受賞となったWilliam Lawrence Braggです。

Bragg親子は結晶学の父とも呼ばれるわけですが、息子のLawrenceの方は若くして指導的な役割をすることになりました。ですからそこからたくさんのお弟子さん達が巣立っていくことになるのですが、彼の研究室は女性にとって非常に研究がやりやすい環境で人気があったようです。Wikipediaの写真を見ますと超イケメン(※)ですので、それが理由かもしれませんが。

Braggの第一世代の女性の弟子は50人にものぼるそうです。結晶学の女性研究者の系譜を辿れば大体この50人になるそうなので、正にLawrence Braggが蒔いた種が、大きな結晶となって広がっていったということになります。

Although crystallography is a field that has been subjectively described as ‘much too full of women’ and ‘populated largely by women’, objectively it has few. Maureen Julian, 1990

また、Braggが結晶学者の父なら結晶学者の祖母とも言えるのは、1895年(Wikipediaでは1893年)に女性として初めてのPh.DをJhons Hopkins大学から授与されたFlorence Bascon教授の存在も大きいです。彼女はPh.D取得後数年転々とした後、Bryn Mawr Collegeに職を得ます(Flancl教授の在籍しているところです)。Bryn Mawrは女子大なので、当然弟子は全員女性です。そこから巣立っていった研究者は繰り返しになりますが女性です。

crystal_1.png画像は文献より引用 Bascon教授と教え子たち

一人の女性研究者が成功すれば、そこに女子学生が集いやすくなり、その分野における女性の比率が高くなっていくのでしょう。女性のノーベル賞受賞者はまだまだ少ないので、女性が一大勢力になっている学問分野はないと思われます。

It could be argued that Florence Bascom was as much a force behind the mid-twentieth century bloom of women crystallographers as were the Braggs.

最近めっきり下火になってきたなんとか細胞問題リケジョに対する潮流が悪くなってしまった感がありますが、やはりスター研究者というのは必要なのかなと思います。そのスターが結晶の種となって多くの学生を惹きつけていくのがその分野の発展にも寄与するのでしょう。実際析出してくる結晶の美しさは感動を呼びますしね。一方で最近大学教員の公募で女性限定のとかが散見されます。女性研究者を増やそうというのは政策として理解できますが、こういったやり方がはたしていい方向なのかは筆者にはよくわかりません。

先日発表されたトムソンーロイター引用栄誉賞にも女性はいませんでした。トムソンーロイターがノーベル賞受賞者を当てた試しはあまりありませんが、今年は女性受賞者が出るかどうかにも注目していきましょう!

 

関連書籍

ペリプラノン

投稿者の記事一覧

有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。

関連記事

  1. C–C, C–F, C–Nを切ってC–N, C–Fを繋げるβ-フ…
  2. Chemistry on Thanksgiving Day
  3. 水分子が見えた! ー原子間力顕微鏡を用いた水分子ネットワークの観…
  4. もっとも単純な触媒「プロリン」
  5. ケミストリ・ソングス【Part1】
  6. 2023年度 第23回グリーン・サステイナブル ケミストリー賞 …
  7. 高専の化学科ってどんなところ? -その 2-
  8. EDTA:分子か,双性イオンか

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. ケムステイブニングミキサー2024に参加しよう!
  2. リコペン / Lycopene
  3. 構造化学の研究を先導する100万件のビッグデータ
  4. ポリアクリル酸ナトリウム Sodium polyacrylate
  5. C–H活性化反応ーChemical Times特集より
  6. 触媒表面に吸着した分子の動きと分子変換過程を可視化~分子の動きが触媒性能に与える影響を解明~
  7. 「無保護アルコールの直截的なカップリング反応」-Caltech Fu研より
  8. ガ求愛行動:性フェロモンを解明 東大など
  9. アルデヒドからアルキンをつくる新手法
  10. 【マイクロ波化学(株) 石油化学/プラスチック業界向けウェビナー】 マイクロ波による新事業 石油化学・プラスチック業界のための脱炭素・電化ソリューション

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2014年10月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

フローマイクロリアクターを活用した多置換アルケンの効率的な合成

第610回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院理学研究科(依光研究室)に在籍されていた江 迤源…

マリンス有機化学(上)-学び手の視点から-

概要親しみやすい会話形式を用いた現代的な教育スタイルで有機化学の重要概念を学べる標準教科書.…

【大正製薬】キャリア採用情報(正社員)

<求める人物像>・自ら考えて行動できる・高い専門性を身につけている・…

国内初のナノボディ®製剤オゾラリズマブ

ナノゾラ®皮下注30mgシリンジ(一般名:オゾラリズマブ(遺伝子組換え))は、A…

大正製薬ってどんな会社?

大正製薬は病気の予防から治療まで、皆さまの健康に寄り添う事業を展開しています。こ…

一致団結ケトンでアレン合成!1,3-エンインのヒドロアルキル化

ケトンと1,3-エンインのヒドロアルキル化反応が開発された。独自の配位子とパラジウム/ホウ素/アミン…

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

光と水で還元的環化反応をリノベーション

第609回のスポットライトリサーチは、北海道大学 大学院薬学研究院(精密合成化学研究室)の中村顕斗 …

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP