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ミツバチに付くダニのはなし

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Tshozoです。先日西日本の書店でようやくトマトスープさん作「天幕のジャードゥーガル」を見つけて購入しホクホクしておったところ、興味深い本を見つけました。

著作者の方が農学者ではない(東繁彦氏・一橋大学商学部卒業、学士(商学)、神戸大学大学院法学研究科実務法律専攻修了、法務博士(専門職)。投資家、養蜂家)というのにも関わらず文献がかなり緻密に調べられていて内容も興味深く、農薬一辺倒ではなかなか難しい段階に入っていることも踏まえてどう取り組むべきかを模索するのに重要な視点が多く書かれており、またこれまでミツバチの疾病は上滑り程度に読んでいたものの寄生虫についてはほとんど知見が無かったため、それを教えて頂いた同書に敬意を示しつつ以下調査をしてみましたので書いてみます。

なお本件を書くにあたり、後ほど文献にも示しますが一般社団法人 日本養蜂協会より公開されている「養蜂における衛生管理ダニ防除技術」を大いに頼り参考にしました。本件の主案件である当該ダニについて非常にわかりやすく網羅的に書かれており、関係者ならずとも一読をお勧めします。

本件のきっかけとミツバチにつくヘギイタダニのこと

もともと小さいころ読んだ童話か何かの一節、”Mite on the flea”, 「ノミの背中のダニ」という言葉に興味を惹かれていました。それを更に増長したのがあさりよしとおさん作「まんがサイエンス」7巻、”顕微鏡の科学”の回に出てきた「ノミの背中のスキマに何匹もつくダニ」を実際に電子顕微鏡で撮った写真。全身に鳥肌が立つくらいの気持ち悪さと、こんなところに生き物が存在するのだという強烈な驚きと共に強く記憶に残っていたものでした。

論文などでも似たような構図が紹介されている (文献1)より引用
右側はノミを透過顕微鏡で観た、胸部甲殻下のダニの写真 2匹もいる
要はコレ(引用リンク) “hyperparasite” “superparasite”と言われるらしい

で、今回ここまで気持ち悪くはないですが、これと似たような感じでミツバチの背中や腹につくダニがいることを知り興味をそそられたというのが動機。ではそもそもどういうダニなのか(気持ち悪い気持ち悪い書いてますがダニも立派な生き物ですのでその点十分気を付けて記載します)。

非常に気持ち悪い感じで成虫の背中につくダニであることがわかる 
また成虫だけではなく、幼虫にも取り付いてセル内で増殖するという質の悪いまさに「ダニ」の代表例
(文献2)より引用

The Varroa Problem: Part 11- The Math of the Mite - Scientific Beekeeping

サイズ感と重寄生の例 (文献3) 動きが素早く捕まえにくい(文献3)のも嫌らしさ倍層
なお(文献3)は歴史ある俵養蜂場殿がまとめた資料で概要をつかむのにお勧め

水平方向の図と写真(文献4・メス) 確かに平たく、厚みは0.3mm程度か
この後もこういうゾワゾワくる内容をお届けします

その名も「ミツバチヘギイタダニ」。洋名”Varroa destructor”と言われ名前的も恐ろしげですがなんとミツバチにしか憑かないダニで、人間から吸血はしないようです。なお日本語名の「ヘギ板」とは(文献5)によると、

「「へぎ板」は、木材を手を使って割るようにして作った厚さ2~10 mmの板のことです。(中略)「へぎ」の語は「剝(へ)ぐ」という手を使って割る所作を表す動詞が名詞化したもので、ヘギイタダニは「へぎ板」のように扁平なダニということです。」

と記載されていました。昭和の中頃まで納豆とかを包んでいた経木と同様、平ぺったいのが特徴、と。確かに上の写真からも厚み方向も0.5mmを切っているレベルで薄く、手作業で除去するのはかなり面倒くさそう。というか多分無理。しかもミツバチの節間膜(腹と胸のフシのところ・ちょうど上の写真のノミの背中についているダニの容量)という、一番人がアクセス出来ないところを目指して付くらしく始末に負えない。

なお歴史的にはこのヘギイタダニ、欧州では相当前からその存在が認識されていたうえ、1909年には既に日本国内でもその有害性が認められていて(文献4)(注:これ以外に「アカリンダニ」という、ミツバチの気管内に寄生する恐ろしいダニがいるのですがこれについてはまた回を改めて記載します)当時和歌山養蜂研究所の所長であった鈴木芳之助氏によって「蜂虱」と名付けられたそうですが、当時はまだそこまで恐ろしいものだという認識はなかったようではあります。

えらい古い書物ですが、これがヘギイタダニを日本で初めて記録した書籍らしい

つまり当時はまだまだ小規模でやっていたので影響はさほど問題にはなっていなかったんでしょう。ダニそのものはおそらくはもともと土着で小さく活動していたのでしょうけれども、第二次世界大戦が終わって養蜂活動の活発化に伴いモノやハチや部材について移動し、そこから60年以上経った今、下図赤色部のように全世界に広がってしまっている、というのが現状です。

(文献5)より引用 安息の地オーストラリアにも最近侵入した可能性があるらしい

それぞれの国で侵入が確実に確認されたタイミング年表 (文献5)より引用
遺伝子的には3種類くらいに分かれるらしいがどいつもこいつも性格が悪い

ということでこのダニ、養蜂業界にとっては恐ろしい存在で、一時期はネオニコチノイドが主原因ではと言われていた「蜂巣崩壊症」も実はこのダニが原因のケースもあったのではないか、と言われているほど。何が恐ろしいのかというと、巣のパフォーマンスが著しく下がるためです。具体的には、①体液を吸われて働きバチが弱る、死ぬ ②体液を吸われて蛹・幼虫が弱る、発育不良になる、死ぬ ③ネジレバネウイルスという、ハチの羽がうまく成長しなくなるウイルスなどに代表される恐ろしい伝染病を多数ばらまく  ・・・という害虫of 害虫とも言うべき極悪さ。平和主義者の筆者から見てもこの世から徹底的に殲滅させねばなりませぬ。

ヘギイタダニによるミツバチへの各種疾患(文献6) どうもこうも痛々しい
左上からネジレバネウイルスの罹患、発育不良、変色
このような状態では健全に蜂蜜が取得できなくなる

ということでその殲滅・・・もとい駆除の方法を化学関係を中心に以下に記します。

ヘギイタダニに関する駆除方法の歴史と種類

この項、(文献4)(文献5)より引用します。

そもそもヘギイタダニに関する駆除方法、と書きましたがミツバチもヘギイタダニも節足動物で、たとえばピレスロイド系殺虫剤とかを使うとほぼ同じように効いてしまうので一番ダメで、たとえ使ったとしてもダニの方が一般的に薬剤抵抗性取得が早い。ついでに書くと生活環のだいたいがミツバチに引っ付いているので(下図)物理的に離れる瞬間がほぼ無く、また蜂の巣の中で封された幼虫・サナギに取り付いたダニ軍団には農薬が届かないという面倒な寄生虫。つまりは農薬ベースでの駆除が極めて難しい、難易度が相当に高い害敵なわけです。

ミツバチの生活環の中でのヘギイタダニのとりつき具合 詳細(文献6)
特に幼虫・サナギの近辺でセル蓋が閉められてしまうと薬剤がほぼ届かなくなる
ちなみにこの赤茶色のはメスで、オスは人間同様白くて小さい方(下図)(文献5)

とはいえ無策ではなく、昔から色々、出来るだけダニだけに効いてミツバチに影響がないものはないのか、という試行錯誤が積み重ねられてきました。それをだいたいまとめたのが下の表(文献4、文献7から編集して引用)。

表に書けなかったので上記殺虫剤の簡単な作用機序を文面で書いていきますと(文献7)、

・テトラジフォン:マグネシウムイオンに関わるミトコンドリアATP合成酵素を阻害して細胞の動きを狂わせる

・ピレスロイド系のフルバリネートなど:別記事で書いたように神経細胞中のナトリウムチャンネルを阻害興奮状態に陥らせる

・有機リン系のクマホス:同じく神経細胞中のアセチルコリンエステラーゼ(分解酵素)を阻害して興奮状態に陥らせる

・アミトラズ:摂食行動などを制御する生体内アミンであるオクトパミンの受容体アゴニストとして作用
   (一言で言うと「ダミーホルモン」・投与することでホルモンバランスを過剰な方に崩し、結果的に虫にダメージを与える)

というようにはたらくことがわかっています。

ただ結論を既に書いてしまいますがこうしたほぼ全ての「殺ダニ」合成薬剤で耐性種が発生しています(注:全てのダニがそうなったわけではない)。一般的に多数の卵を産むノミ、シラミ、ダニ類は何百匹と生まれた時点で薬剤の耐性分布を最初から持っているらしく、弱いやつは速攻死ぬのですが強いやつは強いまま、もしそれが運よく生き残って次はその強いやつを中心に分布が広がり、更に強いやつが出てくる、と言った具合だそうで。大腸菌とかの抗生物質に対する耐性なども基本的には同じように分布と情報伝達的な成分の移動などでカバーするらしいのでニンゲン様にとってはどっちも本当に鬱陶しい話であるわけです。

特に上に述べたように狙うのが同じ節足動物であるミツバチの背中に取り付いているダニ(クモの方に近いですが)、というのが農薬を開発する側にとっては頭を悩ます点。一番最初に開発されたテトラジフォンやピレスロイド系のフルバリネートは幸いそのスペクトルがたまたまズレていてミツバチ等に影響が低いのに強い殺ダニ効果を持っている(いた/テトラジフォンの方はダニ本体はおろか卵まで不妊化させることができた)ようなのですが、例えば一般的なハダニに対してたった3年の定期使用で耐性種が発生したらしく(文献7)、残念ながら同様にほぼ全てのヘギイタダニもテトラジフォンに対し抵抗性を獲得してしまっている有様。これが40年くらい前のこと。この事象と同様に今まで数々出されてきた殺ダニ剤のほとんどが同様に耐性を獲得しつつあり、全く以って苦しい話になっております。

いっぽう、合成薬剤以外のもの(チモール・ギ酸・シュウ酸)については意外と耐性ができにくいもよう(文献5)。これらは一般に加熱してCVD風にダニへ蒸着させる形で使うもので、殺ダニというより強力な酸性忌避剤らしい(一部情報によると駆除も出来るそうで)。…のですが、困ったことに使い方を間違えるとハチの活動まで弱ってしまったりせっかく集めた蜜やゼリーが市場に出せなくなってしまうケースがあり、これも十分注意して使わねばなりません(加えて日本ではまだギ酸、シュウ酸の養蜂への使用は公認されていない模様)。あとシュウ酸・ギ酸は高濃度だと単純に作業する人に危険性がある。作用機序としてはいずれも強い酸性を持つためダニに直接ダメージが与えられて忌避させられる・駆除できるということでしょうけどハチに影響が無いとはなかなか言い難い。あとやっぱり封止されたセルの中に入りこんだダニ共には効かない点で根治は難しいアイテムになってしまっています。ということで殺虫系の対策は結構ネタ切れで「これで一発」というのは現実的には厳しく、養蜂家、養蜂関係者は複数の手法を組み合わせて使い予防措置を心掛けることで被害を最小限にする工夫をされている印象を受けます。

なお面白いのが上記には加えていない粉砂糖(≒スクロース)がハチとダニを分けるのにそこそこ効く、という点。下図のように粉砂糖まみれにすると何故かハチの体表から離れるダニがいる、ということ。なんででしょうね、これ。最初はハチが粉を落とそうする時にダニも粉と一緒に落ちる、というのが仕掛けではないかと思ったのですが、どうも違うようで。この方法は今も養蜂の現場各所で使われている(特にダニ数のカウントのため)ものの、やはり完全に駆除出来る方法ではなく効果としてはかなり限定的。昔からある知恵的なものらしいのですが、この粉砂糖表面に殺虫以外の工夫を施したりして駆除効果を上げる、なんて方法はないんでしょうか。。。とも思ってしまいます。しかしこれもやっぱりセルの中に居るダニにはとどかないんですよね。

(文献5)より引用 ハチを粉砂糖まみれにするの図
ハチにとってはいい迷惑かも

Bees: More about Mites | An Eclectic Mind

粉砂糖で落ちて粘着テープに捉えられたダニ (文献4)
こいつら一瞬で殲滅する方法がないのか、と思うくらいゾワっとする

ということで何をどう使っても封止されたセルの中のダニについてはどの薬剤もてこずる、非常に面倒な生活環を持っているということは容易に想像できるでしょう。

現在の駆除と今後のみとおし

ではこうしたダニに対しニンゲン様側が無策であるか? 

そうではなく色々模索されてはいるとのこと。具体的には下表(文献5)のように分かれ、最近ではその2種類を組み合わせるようなこともなされています。また耐性ダニが出てきつつある各種農薬についても、使いようによってはまだまだ有効に利用出来る場合もあるらしい。ただこれまでの様々な殺虫剤のたどった歴史を見ていると、特にダニのような再生産性の高い節足動物に対してはイタチごっこのサイクルが早まってしまうだけではないかという懸念をどうしても持たざるを得ません。何かしら合わせ技や別の考え方に基づく対応を迫られている時代であるのではないでしょうか。またハチがあちこち移動することを考えると、残留性の高い農薬がそれに伴って移動するリスクもあり、ドイツで虫の数が大幅に減ったような研究報告が出たりしてきていると、必要なことは十分理解していますが化学的手法一辺倒というのは今後難しくなってくるように感じます。

(文献5)より引用 組み合わせると簡単に書きましたが、
要は養蜂業者さんの手間が増えるということでもある…

これの代替方法としては、たとえば冒頭で述べた書籍に記載されているようにダニとミツバチの活動する温度差が違うことを利用する「温度差療法(加温法)」。具体的にはダニの活動上限温度が40℃(くらい)、ハチの最高耐久温度が50℃(くらい)であるということを利用して巣の中の温度を上げたり(または-20℃くらいまで下げたりする方法も開発中だそうで)して、最終的にダニだけを殲滅する方法。荒っぽい方法ですが、これで実際に効果を上げている例もあるというのが興味深い。方法としては単純なうえ、セル内のダニまでもやっつけられる可能性がある。薬はセルの壁を通れませんが熱は通れますもんね。実際欧州を中心にこの方法が開発され使用されつつあるようで(文献8)、処理時間は公開している(巣箱を恒温槽につっこんで2時間待ち)ものの、処理温度を公開していないことを考えるとここんところにノウハウがあるのかもしれません。特長としては農薬や酸性物質残留の懸念が無い点で、うまく使えばバランス性のよい駆除方法と言えます。

(文献8)より引用 もともとはウィーン工科大のWolfgang Wimmer教授が考案
他の方も指摘しているが手間もかかるのと装置代の関係から大規模なものには不向き

懸念はその温度差が意外と狭くまた文献によっても結構幅があり、温度管理に失敗すると肝心のハチまでやられかねない点でしょうか。このため初期温度(天候ベースで18℃~30℃以内が必須)を十分留意するのに加え上記のようなかなり性能のよい温度調節器が必要、となり結構なお値段がかかってしまう。あと養蜂の現場に電線が要るのでそれもプラス。このためトータルバランスや環境負荷が非常によいものの、初期投資がかなり必要なのに加え使用する場をかなり選ぶアイテムかもしれません。個人的にはかなり良い方法だと思うのですが…なお逆に冷やす方はダニがどこまで生きているのかちょっと興味があるところ。熱を化学的と呼ぶか物理的と呼ぶかは意見が分かれるでしょうが、筆者の独断でこの加温法は化学的のグループに加えたいと思います。

次に物理的な手法としては「噛み潰させる」点。どういうことかというとハチ自体にこのダニをつぶすことを学習しているつよつよな耐性ミツバチのグループがいるらしく(お互いのグルーミングでダニを見つけて噛み潰すらしい…)、その種を継続的に育てていく、というもの。どうもトウヨウミツバチの中にこのような耐性と風習を持っているグループがあるらしく、実際にそうした巣箱ではダニの感染率が低く抑えられるそうです(関連記事リンク)。

Scienceでの特集記事より(リンク)
ただヘギイタダニもすばしっこく、すぐ噛み潰せるようなものではないことがよくわかる

実際我が国でスズメバチに徹底抗戦できるニホンミツバチがこうしたグルーミングの風習を持っており、セイヨウミツバチで蔓延していたヘギイタダニを持ち込んでも感染率が低く抑えられるということがあるようで、育てにくいと言われるニホンミツバチを中心に育てていく、ということも対策の柱になり得るのではないでしょうか(注:ニホンミツバチは別の機会で挙げる予定の非常に小さな「アカリンダニ」に対しては非常に弱く(関連記事リンク)、グルーミングをすり抜けてしまうそうです。一方でセイヨウミツバチはそのグルーミングでアカリンダニを叩き落すことが出来ているようで、ここらへんは相性、というかジャンケンみたいなものなのかもしれません)。

ただこうした殺虫剤以外の方法を組合わせて殺ダニ率、除ダニ率を上げていくのは要は手間がかかってはちみつのコストが上がり、また一般の人たちが手に届きにくくなる商品になってしまう。正直あんまり良い方向にはならんのでしょうが、世界中が無茶をしてきた時代の後始末を行わなければならない代償でもあるのでしょう。その中でもなんとか現場で働く方々が楽な方向で対策とダニ防御システム構築が出来ていけることを願わざるを得ません。

おわりに

ノミの背中につくダニの話から脱線してここまで書いてきましたが、ミツバチひとつとってもその防御、防虫、安定生産を行うことの奥深さ、難しさを思い知る話でした。AIだのなんだの言われますが、特に農業関係ではリアルの虫を触りリアルに虫に関わっている方々の経験がやはり圧倒的に強い。そうした一番意義があり、伝えるべき強い技術のあるところにお金が行くようにしないと、色々社会としてダメになってしまうような気がしているのは筆者だけでしょうか。ともかく今回は筆者もほとんど知らなかったことだけに、さまざまな化学系の方にこうした問題が存在することを知っていただく意味合いとして記事を書いてみた次第です。

いずれにせよ殺虫剤のみに頼ったり忌避剤を使うだけ、または天然成分を使うことに集中するだけでは対策が非常に難しいのは重々理解できるわけです。すぐの対策は当面これらの単独手段・組合わせ手段で進めざるを得ないにしても、(素人考えで恐縮ですが)化学関係者としては殺虫効果以外の注目点や考え方をもう少し加えなくてはならない気がします。

例えば(文献5/P12)のトピックスには2019年の研究で得られた仮説としてこのダニがミツバチの体液からではなく脂肪分から主に栄養を得ているのではないか、という見方が出ていました。そのトピックでは、実はこのダニの口の形がもともと吸汁に適しておらずどちらかというと固形分を食するのに向いているらしく、ミツバチの体に穴をあけて、脂分を摂取していると考えるのが妥当との見方を示しているようです。寄生後すぐにハチの体調が悪くなる傾向を考えると、吸汁ではなくボディを直接する形でダメージを与えている可能性が高い、と。

こうした部分までが研究対象になっていること、またこの仮説が成り立ちうること、いずれも共に興味深く思い込み(ダニ=吸血)を越えた形での結果であるが故に驚きでした。もちろんこうした取り組みが直ぐに結果を生むとは申し上げられませんが、「成分の近い脂身を置いておけばそっちにダニを集められる」的な疑似餌対策のようなアイデアが浮かぶかもしれません。そのようなダニに対する適切な対策もこうした地道な現実の理解、把握、追及から始まるのではと思い知らされた点でした。

(文献9)より引用 もともとは(文献10)に記載の内容
ヘギイタダニがミツバチの節間膜に入り込み(a,b)柔らかいところに
爪を食い込ませて(c,e)口吻(c,d,f)を当て貪っているのがよくわかる素晴らしい画像
こういう部分にいる奴にも効く方法を見つけなければならない

ともかく現在でも美味しいハチミツを供給してくれているミツバチと関係者の方々がもっと楽に効果的にこうしたダニ共を殲滅・・・もというまく付き合っていけるようなアイテムや薬剤が多数出てきてほしい、それには今の若い方々がこうした重要かつ現実的な課題に向き合ってもらえる機会があってほしいと思いつつ、今回はこんなところで。

参考文献

1. “The Australian giant fleas Macropsylla Rothschild, 1905 (Siphonaptera: Macropsyllidae: Macropsyllinae), their identification, evolution, ecology, andconservation biology”, Systematic Parasitology volume 97, pages 107–118 (2020) リンク

2. “Biology and control of Varroa destructor”, Journal of Invertebrate Pathology 103 (2010) S96–S119, リンク

3. “Varroosis of honey bees”, OIE Terrestrial Manual, 2021, リンク

4. “ミツバチヘギイタダニ(Varroa)について”, 俵養蜂場, 2018年, リンク

5. “養蜂における衛生管理ダニ防除技術”, 一般社団法人 日本養蜂協会, 2019, リンク   及び 2021年再改訂版 リンク

6. “Ecology of Varroa destructor,the Major Ectoparasite of the Western Honey Bee, Apis mellifera”, Annu. Rev. Entomol. 2016. 61:417–32, リンク

7. “殺ダニ剤 開発の推移と現状”, Vol3, No.2 1995, 化学と生物, 浅田三津男, リンク

8. “Blesabee FROM HEALTHY BEES TO HEALTHY HUMANs”, リンク

9. “Varroa destructor feeds primarily on honey bee fat body tissue and not hemolymph”, PNAS, January 29, 2019, vol. 116 no. 5, リンク

10. “A multi-microscopy approach to discover the feeding site and host tissue consumed by Varroa destructor on host honey bees.”, Microsc Microanal 24:1258–1259. リンク

Tshozo

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メーカ開発経験者(電気)。56歳。コンピュータを電算機と呼ぶ程度の老人。クラウジウスの論文から化学の世界に入る。ショーペンハウアーが嫌い。

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