[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

抗体を液滴に濃縮し細胞内へ高速輸送:液-液相分離を活用した抗体の新規細胞内輸送法の開発

[スポンサーリンク]

第341回のスポットライトリサーチは、京都大学 薬学研究科(二木研究室)博士後期課程1年の岩田恭宗さんにお願いしました。

二木研究室では、化学的アプローチによるユニークな機能性タンパク質・ペプチドの創出を通して、細胞内送達や、細胞膜の構造変化(=膜曲率(curvature))の誘導といったような、タンパク質が関与する生命現象の新たな制御法の開発を目指して研究を行っています。研究室を統括されている二木史朗教授には、過去に化学者インタビューにもご協力頂いています。(第25回「ペプチドを化学ツールとして細胞を操りたい」

今回ご紹介いただける成果は、「液-液相分離」という現象を利用したタンパク質の細胞内送達に関する研究です。液-液相分離といえば、ドレッシングが水と油の2相に分かれるといった身近なものから、化学者には御馴染みの分液抽出操作といったものまで幅広くみられる現象ですが、細胞内の生体高分子も液-液相分離現象に関与することが近年明らかとなってきており、新たな細胞内現象として注目を集めています。本成果は新しい薬物キャリアの開発にも貢献しうる非常に重要内容で、その重要性が高く評価され、Very Important Paper (VIP、上位 5%の重要論文)としてAngew. Chem. Int. Ed.誌に原著論文、そして、プレスリリースにも公開されています。

“Liquid Droplet Formation and Facile Cytosolic Translocation of IgG in the Presence of Attenuated Cationic Amphiphilic Lytic Peptides”
Iwata, T.; Hirose, H.; Sakamoto, K.; Hirai, Y.; Arafiles, J. V. V.; Akishiba, M.; Imanishi, M.; Futaki, S. Angew. Chem. Int. Ed. 2021, 60, 19804–19812. DOI:10.1002/anie.202105527.

それでは今回もインタビューをお楽しみください!

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

液-液相分離を活用して抗体などのタンパク質と膜傷害性ペプチドを液滴内に濃縮することで、細胞内に効果的に輸送する手法を開発しました。

液-液相分離とは、水中に存在する高分子が相互作用により集合し、高分子を多く含む相と希薄な相の2相に分かれる現象です。この時、高分子を多く含む相は水中に漂う液滴状に観察されます。近年、この現象は細胞内での生命現象において重要な役割を担っていることが分かり、細胞生物学の分野において盛んに研究が行われています。一方で、薬物送達の分野においても、この液―液相分離により形成される液滴が新たな薬物キャリアとして注目を集めています。しかし、この現象を活用して抗体のようなサイズの大きなタンパク質の細胞内輸送を達成した報告はこれまでにありませんでした。本研究では蛍光色素により標識されることで負電荷性を持った抗体が、正電荷性を持つ膜傷害性ペプチドFcB(L17E)3と静電的相互作用により液-液相分離を引き起こすことを見出し、さらには形成された液滴中に膜傷害性ペプチドが含まれることで濃縮されたタンパク質が効率的に細胞内へ移行することを明らかにしました。さらにこの現象は他の負電荷性のタンパク質にも応用できることを見出しています。この現象の発見により、今後、液-液相分離を応用した新たな薬物キャリアの開発が加速されると期待されます。

図1. 液滴に濃縮された蛍光標識抗体が細胞内に流入する様子を捉えた経時的観察画像。細胞は点線で囲っており、流入点は黄色矢印で示している。(Iwata, T. et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2021, 60, 19804–19812. DOI: 10.1002/anie.202105527より引用)

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

当初想定していた抗体送達メカニズムは、FcB(L17E)3と抗体がペプチドの抗体結合配列 (FcB) を介した1対1もしくは1対2の相互作用による複合体形成を伴う非常に小さいスケールのものでした。しかしながら、抗体の送達様式を顕微鏡で観察できないかと考え、Time-lapse imagingを行ったところ、全く想定していなかった、液-液相分離を介したとてもダイナミックな抗体送達が起こっていることを見出すことができました。その時はとても興奮したのを覚えています。

現在黎明期である、液-液相分離による液滴の薬物キャリア応用研究に思いがけず参入することができ、また、大きなインパクトを与えられる結果を発表ができたことはとてもラッキーだったと思います。しかし、このような液-液相分離が関わったダイナミックなタンパク質送達現象は今までに報告されたことがなかったため、観察される液滴が本当に液-液相分離によるものであるか、また、それがどういった性質を持ち、どのような条件でこの現象が起こるかについても慎重に調べました。結果として論文は高い評価を受け、Top 5%のVery Important Paperに選ばれることとなりました。

図2. 当初想定していたFcB(L17E)3による抗体の細胞内送達メカニズム

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

先述の通り、今回見出された抗体の細胞内送達メカニズムは元来想定していたものとは大きく異なり、タンパク質は蛍光標識や配列改変により負電荷性を持っている必要があります。当初の仮説にとらわれたまま研究を進めている時期があり、未標識抗体への応用を試みるも、なかなか結果が出ませんでした。そこで一度、送達メカニズムの詳細な研究を行おうと原点に立ち返りました。まず行った実験は簡単な顕微鏡によるTime-lapse imagingでしたが、とても画期的な発見につながりました。固定観念にとらわれず、柔軟に思考することがこの現象の発見につながったと思います。また、このような思いがけない発見がなされることは研究活動の醍醐味だと思いました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

幼いころからの夢は、ヒトの命に関わるような仕事に就くということでした。いつしかその夢は具体的になり、たくさんの人々の命を救えるような画期的な医薬品を生み出したいと思うようになりました。今回の研究は、まだまだ基礎研究段階ですが、人々の命を救える新たな医薬品開発につながる可能性があると考えています。この研究で経験した、新たな現象を発見するという喜びと、それが新規医薬品につながるかもしれないという期待は、今後の研究活動における大きなモチベーションになると思います。今後も研究者として画期的な薬品開発につながるような、夢のある研究をしていきたいと思います。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

今回の研究の成果はまさに偶然の産物です。しかし、そのような偶然の発見は研究における面白いところだと思います。また、固定観念にとらわれず、柔軟な思考を持ち、原点に返って状況を俯瞰することは研究活動においてとても大事だと思いました。

現状では、タンパク質が負電荷性を持つという限られた条件下でしか起こらない現象ですが、今後はよりユニバーサルな技術にするために、研究に励みたいと思います。さらには生体への応用も目指したいと考えています。続報をぜひ楽しみにしておいてください。

最後に、本研究をまとめるにあたり、ご指導とご助言を頂いた 二木 史朗 教授、今西 未来 准教授、広瀬 久昭 特定准教授に、この場をお借りして深く感謝申し上げます。また、共同で研究・ディスカッションしてくださった二木研の皆様にも感謝申し上げます。

関連リンク

研究者の略歴

名前:岩田 恭宗
所属:京都大学化学研究所 生体機能化学研究系 生体機能設計化学研究領域
研究テーマ:液-液相分離を応用した新規抗体サイトゾル送達手法の開発

 

続報も期待しています!ご協力、ありがとうございました!!

 

関連記事

  1. 日本薬学会第137年会  付設展示会ケムステキャンペーン
  2. 有機ナノ結晶からの「核偏極リレー」により液体の水を初めて高偏極化…
  3. メトキシ基で転位をコントロール!Niduterpenoid Bの…
  4. カラムはオープン?フラッシュ?それとも??
  5. マテリアルズ・インフォマティクスに欠かせないデータ整理の進め方と…
  6. 薬学部ってどんなところ?
  7. 超難関天然物 Palau’amine・ついに陥落
  8. 来年は世界化学年:2011年は”化学の年”…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 銀の殺菌効果がない?銀耐性を獲得するバシラス属菌
  2. ティム ニューハウス Timothy R. Newhouse
  3. 【鎮痛・抗炎症薬】医師の認知・愛用率のトップはロキソニン
  4. ポンコツ博士の海外奮闘録⑦〜博士,鍵反応を仕込む〜
  5. 一重項分裂 singlet fission
  6. 第37回 糖・タンパク質の化学から生物学まで―Ben Davis教授
  7. Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!
  8. 力学的エネルギーで”逆”クリック!
  9. ジョージ・チャーチ George M. Church
  10. たるんだ肌を若返らせる薄膜

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年9月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

水分はどこにあるのか【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

「MI×データ科学」コース 〜LLM・自動実験・計算・画像とベイズ最適化ハンズオン〜

1 開講期間2026年5月26日(火)、29日(金) 計2日間2 コースのねらい、特色近…

材料の数理モデリング – マルチスケール材料シミュレーション –

材料の数理モデリング概要材料科学分野におけるシミュレーションを「マルチスケール」で理解するた…

第59回天然物化学談話会@宮崎(7/8~10)

ごあいさつ天然物化学談話会は、全国の天然物化学および有機合成化学を研究する大学生…

トッド・ハイスター Todd K. Hyster

トッド・カート・ハイスター(Todd Kurt Hyster、1985年10月10日–)はアメリカ出…

“最難関アリル化”を劇的に加速する固定化触媒の開発

第 703回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院 理工学府 博士課程前期で…

「ニューモダリティと有機合成化学」 第5回公開講演会

従来の低分子、抗体だけでなく、核酸、ペプチド、あるいはその複合体(例えばADC(抗体薬物複合体))、…

溶融する半導体配位高分子の開発に成功!~MOFの成形加工性の向上に期待~

第702回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理学部(田中研究室)にて助教をされていた秋吉亮平 …

ミン・ユー・ガイ Ming-Yu Ngai

魏明宇(Ming-Yu Ngai、1981年X月XX日–)は米国の有機化学者である。米国パデュー大学…

第55回複素環化学討論会

複素環化学討論会は、「複素環の合成、反応、構造および物性」をテーマとして、化学・薬学・農芸化学など幅…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP