[スポンサーリンク]

一般的な話題

【速報】2018年ノーベル化学賞は「進化分子工学研究への貢献」に!

[スポンサーリンク]

スウェーデン王立科学アカデミー(Royal Swedish Academy of Sciences)は3日、2018年のノーベル化学賞(Nobel Prize in Chemistry)を、米国人のフランシス・アーノルド(Frances H. Arnold)氏(酵素の指向性進化法の解明に対して)、同じく米国人のジョージ・スミス(George P. Smith)氏、英国人のグレゴリー・ウィンター(Gregory P. Winter)氏(ペプチドと抗体のファージディスプレイの開発)に授与すると発表した。

今年はなんとタンパク質の進化分子工学にスポットが当たりました。

Frances Arnold (ランダムミューテーションによる酵素の指向進化)
George Smith (ファージディスプレイ法の発展)
Gregory Winter (創薬へのファージディスプレイの応用)

以上3名がノーベル化学賞の受賞者です!

指向性進化法による酵素の進化

Frances Arnold教授は、酵素をコードしているDNAにランダムに変異を入れ、さらにこの変異DNAを大腸菌に導入。様々な変異酵素を発現させ、望みの酵素活性を持つ酵素を選択することを繰り返すという手法で、”進化の力を借りて”望みの酵素を生み出すという手法を提案・確立しました。
指向進化とよばれるこの方法は、有害な物質の使用などを極力抑えた技術であることが高く評価されていると同時に、生命の進化のプロセスをそのまま活用しているために、進化を観察するような部分があるのも面白いポイントです。
効率よく機能改変されたタンパク質を効率よく生み出すことができ、指向進化法によって生産された”スーパー酵素”が、バイオ燃料や医薬品など様々なものの製造に使用されています。

シトクロムP450の異型であるP411を進化させることでシクロプロパン化を行えるバイオ触媒(ノーベル賞財団のプレス資料より)

ファージディスプレイ法による抗体医薬の進化

Arnold教授らによって研究された指向進化法とはまったく異なるアプローチによっても、「タンパク質の進化」が達成されています。

それがファージディスプレイ(Phage Display)法です。ひと言で述べるならば、「医薬標的にくっつくタンパク質を、ウィルスの生化学的しくみを拝借し、自然淘汰過程を模したやり方によって素早く見つけ出してくる手法」になります。

受賞者の一人であるGeorge P. Smith教授は、バクテリオファージと呼ばれる細菌感染性ウィルス表面にランダムペプチド配列を提示できることをまず示しました(1985[1])。ランダム配列を持つファージを多数集めたライブラリを作り、その中から抗体に結合できるファージのみを選択的に釣り出してこれることもその後示しました(1988,1990[2,3])。この研究によって、「特定のタンパク質と相互作用できるペプチド配列が、ファージディスプレイ法によって簡便に見いだせる」という基礎的事実が明らかにされました。

ただ、これだけでは「そういうこともできますね」以上の話になってくれません。技術を実用水準まで改良し、抗体医薬の効率的探索法へと応用したのが、もう一人の受賞者であるGregory P. Winter教授です。

抗体医薬は「生体内で作られる巨大タンパク質=抗体を薬として使う」というアイデアに基づいています。しかし、動物の免疫応答によって抗体を多数作成し、そこから最適なものを選ぼうとすると、膨大な手間とコストがかかってしまうため現実的ではありません。

Winter教授は、試験管内で簡便に行える抗体医薬探索法として、ファージディスプレイ技術が応用できることを示しました(1990[4])。

やりかたは以下の通りです。まず、抗体結合サイト(Y字の先)の配列遺伝子をファージDNAに組み込み、様々な抗体提示ファージライブラリを作り、医薬標的にくっつくものだけをつり出してきます。ここまではSmith教授の研究を抗体に応用したという話ですが、これに加えて進化論でおなじみの「変異導入」→「自然淘汰」を模した過程が組み込まれているのがミソです。この選択サイクルを繰り返すことにより、より強く選択的に医薬標的へと結合できる抗体配列のみが生き残ってくるわけです。

この手法で見いだされた史上初の抗リウマチ抗体医薬(adalimumab, 商品名ヒュミラが、のちに承認されました(2002年)。この開拓的成果をきっかけに、ファージディスプレイ技術を用いた抗体医薬開発が世界中で行なわれるようになったのです。

Winter教授はこの他にも、抗体医薬の免疫原性をおさえるヒト化抗体製造法の確立、化学修飾によってファージ提示ペプチドを「特殊ペプチド化」する技術など、現代的な医薬開発に欠かせない技術開発を多数果たしています。

というわけで、特に後半の技術はすでに実用化もされており、ノーベル賞の候補者にも名を連ねていました。酵素も含めた進化分子工学でくるとは全く予想もつきませんでしたが、素晴らしいサイエンスだと思います。受賞者のみなさんおめでとうございます!

関連文献

  1. “Filamentous fusion phage: novel expression vectors that display cloned antigens on the virion surface.” Smith, G. P. Science 1985, 228, 1315-1317. DOI: 10.1126/science.4001944
  2. “Antibody-selectable filamentous fd phage vectors: affinity purification of target genes.” Parmley, S. F.;  Smith, G. P. Gene 1988, 73, 305-318.
  3. “Searching for peptide ligands with an epitope library.” Scott, J.K.; Smith, G. P. Science 1990, 249, 386-390.
  4. “Phage antibodies: filamentous phage displaying antibody variable domains.” McCafferty, J.; Griffiths, A. D.; Winter, G.; Chiswell, D. J. Nature 1990, 348, 552-554. doi:10.1038/348552a0
Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

Avatar photo

Shirataki

投稿者の記事一覧

目には見えない生き物の仕組みに惹かれ、生体分子の魅力を探っていこうとしています。ポスドクや科学館スタッフ、大学発ベンチャー研究員などを経て放浪中。

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 有機反応を俯瞰する ー挿入的 [1,2] 転位
  2. 学術オンラインコンテンツ紹介(Sigma-Aldrichバージョ…
  3. 100年以上未解明だった「芳香族ラジカルカチオン」の構造を解明!…
  4. 文具に凝るといふことを化学者もしてみむとてするなり⑱:Apple…
  5. 徒然なるままにセンター試験を解いてみた(2018年版)
  6. 磁石でくっつく新しい分子模型が出資募集中
  7. 有機化学者の仕事:製薬会社
  8. もう別れよう:化合物を分離・精製する|第5回「有機合成実験テクニ…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 構造式の効果
  2. 金子 弘昌 Hiromasa Kaneko
  3. お茶の水女子大学と奈良女子大学がタッグを組む!
  4. ヒドラジン
  5. 池田 富樹 Tomiki Ikeda
  6. 竜田 邦明 Kuniaki Tatsuta
  7. 化学系人材の、より良い将来選択のために
  8. 有機ホウ素化合物を用いたSNi型立体特異的β-ラムノシル化反応の開発
  9. 早稲田大学各務記念材料技術研究所「材研オープンセミナー」
  10. 乙種危険物取扱者・合格体験記~読者の皆さん編

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年10月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコゲン結合・有機電解反応・ロタキサン・配位重合

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年3月号がオンラインで公開されています!…

CIPイノベーション共創プログラム「未来の医療を支えるバイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第105春季年会(2025)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「未来の医療…

OIST Science Challenge 2025 に参加しました

2025年3月15日から22日にかけて沖縄科学技術大学院大学 (OIST) にて開催された Scie…

ペーパークラフトで MOFをつくる

第650回のスポットライトリサーチには、化学コミュニケーション賞2024を受賞された、岡山理科大学 …

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー