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光触媒で空気中に浮遊する”新型コロナウイルス”の感染性を消失させることに成功

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世界で初めて、光触媒技術で、空気中に浮遊する新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染性を検出限界以下まで消失させることを実証しました。光触媒が発生する活性酸素がウイルス粒子表面のSタンパク質等の分解、ウイルスメンブランの破壊やウイルスRNAを損傷した可能性が一因であることを初めて示しました。Withコロナの社会を実現するための安心できるクリーンな空間の構築や現在脅威となっている変異株への効果が期待されると同時に、新たな社会的脅威となり得る未知のウイルス感染症克服の道を拓くものです。(東京大学プレスリリース5月21日)

新型コロナウィルスが蔓延し始めてから1年半ほど経過し、マスク着用やアルコール除菌、換気は日常の行動の一つになってしまいました。そして残念ながらそれらを丁寧に行っていても感染を100%防ぐことはできず、ワクチン接種が遅れている日本では、毎日数千人の人が新規に感染しています。そんな中、新型コロナウィルスに対して殺菌効果のあるインテリア資材やテープ、コーティングサービスなどが登場しています。そこで今回は、抗菌や殺菌効果があると言われている光触媒が新型コロナウィルスに対しても効果があるのかを調べた論文を紹介します。

まず研究の背景と目的ですが、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、菌への直接や飛沫の接触だけでなく、空気を媒体にしても感染すると信じられてており、エアロゾルや物質表面でのSARS-CoV-2の汚染を理解することは、感染予防の観点から重要です。SARS-CoV-2の体外での安定性については、エアロゾル中では少なくとも3時間は活性があり、ステンレスやプラスチック表面での半減期は、約5から7時間だと先行研究から推定されています。また、SARS-CoV-2の感染力を無効化する方法についても研究例があり、アルコールや過塩素酸水溶液、UVライトなどの効果はもちろん実証されています。つまり、空気中のSARS-CoV-2を無効化するには、UVライトを当てるのが有効ですが、UVライトは人体の皮膚や目にも悪影響があるので、人がいる環境でUVライトを多用することは難しいのが現状です。

次に本研究の題材である光触媒についてですが、酸化チタンを使った光触媒反応での微生物の殺菌やウィルスの無効化については、様々な研究例があり、バクテリア、菌類、インフルエンザ、ジカ、ヒトコロナウィルス、SARS などにへの効果が実証されていますし、つい最近では、SARS-CoV-2に関する研究例も報告されています。光触媒がウィルスを無効化するメカニズムについて、光触媒反応によって発生した活性酸素(·OHやO2−)が有機物を分解していると考えられていますが、SARS-CoV-2に特化してメカニズムについて調べた先行研究はありません。そこで、本研究では、いくつかの条件での酸化チタンのSARS-CoV-2への効果を検証し、無効化のメカニズムの解明を行いました。

まず、光触媒の効果を確認するために、酸化チタンが塗布されたグラスファイバーのシートにSARS-CoV-2を含む水溶液を1 ml滴下し、405nmのLEDライトを一定時間照射しました。そして、何もなしやLEDライトだけの実験と共にTCID50 と呼ばれる宿主細胞のうち半分がウイルスに感染した時のウイルスの濃度、つまり活性のあるウィルス濃度を測定しました。

a)実験装置図 b)光照射時の様子 c)実験条件ごとのTCID50の変化 d)線形回帰分析の結果(出典:原著論文)

結果、何もなしや光だけと比べてウィルスの減少が酸化チタンの使用で有意に観測されました。

光触媒反応がウィルスを無効化するメカニズムとして細胞膜の分解が報告されています。そこで、SARS-CoV-2でも同様のことが起きているか確認するためにSARS-CoV-2濃度を高くして2時間ライトを照射し不活性化を行った後にSARS-CoV-2のビリオンのTEM画像を取得しました。

a)各条件でのTEM画像 b)残っているスパイクタンパク質の数ごとのビリオンの数 c)実験条件ごとのスパイクタンパク質の数の平均 d)ビリオンの数 e)ビリオンの直径 f)この実験条件での2時間照射後のTCID50の違い(出典:原著論文)

すると、24%のSARS-CoV-2ビリオンが、スパイクタンパク質を失っていることが分かりました。また、SARS-CoV-2ビリオンの数もLEDライトだけや何もなしと比べて大幅に減少していることが分かりました。また、ビリオンの直径を見ると、酸化チタンに光を照射した場合は、大きくなっていることが観察されました。以上の結果をまとめると光触媒反応がスパイクタンパク質だけでなく、ウィルスそのものにダメージを与え、ウィルスの消滅や不活性化を引き起こしていると推測されます。このことは、ウェスタンブロッティングによるスパイクタンパク質とヌクレオカプシドの定量においても両方のタンパク質の減少が確認されており、裏付けられています。

時間ごとのa)スパイクタンパク質、b)ヌクレオカプシドの照射時間ごとの定量結果 c)この実験条件での一定時間後のTCID50の変化 d)スパイクタンパク質、e)ヌクレオカプシドの定量の回帰分析結果(出典:原著論文)

先行研究において、光触媒は、ウィルスのタンパク質だけでなくゲノムも破壊することが確認されています。このことがSARS-CoV-2でも起きているかを確認するために光照射後にPCR検査を行いました。するとタンパク質の実験と同様に転写されたRNAが減少し、酸化チタンによる光触媒反応がSARS-CoV-2のゲノムも破壊することが確認されました。

a)PCRで転写した塩基配列の図 b)実験条件ごとのRNA量の違い c)回帰分析結果(出典:原著論文)

ここまでは酸化チタンのシートにウィルスの水溶液を滴下して反応を行ってきましたが、より現実的な系にするために120Lのアクリルボックス中に噴霧器で咳と同等のサイズ(粒子径5µm)のエアロゾル化したSARS-CoV-2を噴霧し、エアクリーナーで空気を循環させました。エアクリーナーの中では酸化チタンを塗布したシートに405 nmのLEDライトが照射され、循環する空気に対して光触媒反応が促進される仕組みになっています。そして一定時間ごとに経過後にボックスから空気を吸引してメンブレンフィルターにSARS-CoV-2を吸着させ、それを使ってTCID50 を測定しました。

a)実験装置図 b)実験装置写真 c)サンプリング条件 d)実験条件ごとのTCID50、e)回帰分析結果 f)実験条件ごとのRNA量の変化、g)回帰分析結果(出典:原著論文)

すると、LEDライトでもある程度の不活性化効果やゲノムへのダメージはあるものの、酸化チタンを使った方がより高い効果が確認されました。特に20分後には酸化チタンを使った場合、平均で99.9%不活化する結果になりました。

まとめると、酸化チタンを使った光触媒反応では、SARS-CoV-2自体を破壊する効果、SARS-CoV-2が細胞内への侵入のきっかけとなるスパイクタンパク質にダメージを与える効果、増殖に必要なRNAに損傷を与える効果で、SARS-CoV-2を不活性化していることが確認されました。それぞれの効果については別のウィルスにおいても実証されており、光触媒反応によって生成される活性酸素がSARS-CoV-2においても有効であることが確認されたことになります。今回の実験では、従来型のSARS-CoV-2が使用されましたが、最近ではスパイクタンパク質の構造が変異したSARS-CoV-2が主に流行しています。しかしながら、光触媒反応ではスパイクタンパク質にダメージを与えるため、変異種に対しても有効であると主張しています。

本研究は、東京大学大学院農学生命科学研究科農学国際専攻、理化学研究所光量子工学研究センター光量子制御技術開発チーム、日本大学医学部内科学系血液膠原病内科学分野に加えてカルテック株式会社の共同研究で行われた成果です。エアゾル化したSARS-CoV-2の実験では、カルテック株式会社が製造する装置が使用されました。

実験に使用された装置カルテック(出典:Amazon)

光触媒反応によるSARS-CoV-2の無効化を実証し、無効化されるメカニズムまでも確認したということで大変興味深い研究成果だと思いました。殺菌に広く使われているUVライトは人体に影響があるため、どの機器も人がUV光を浴びないように設計されています。一方、光触媒では可視光を使うため、今回使われた機器のように内部にライトと光触媒に備わっている機構だけでなく、解放された系でも適応可能であり、機器の構造の自由度が上がると考えられます。個人的には、扇風機やパソコンなどファンがついている機器に付加できれば手軽にコロナウィルスの無効化ができると思います。一方、本研究では405nmのLEDランプを使用したということで、有害ではなくても比較的短波長の可視光であり、通常照明として使用されているLEDを使用した場合の不活性化の効果も気になるところです。特別な光源なしでウィルスに対して効果があるのであれば、家具や壁紙に光触媒を塗布し、常に不活性化の効果が表れるようにでき、応用の幅が広がると考えられます。本多-藤嶋効果の発見から50年以上経過しても新たな応用の研究が続いていて、光触媒の応用が無限であるように感じます。

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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