[スポンサーリンク]

化学一般

【書籍】理系のための口頭発表術

[スポンサーリンク]


[amazonjs asin=”4062575841″ locale=”JP” title=”理系のための口頭発表術―聴衆を魅了する20の原則 (ブルーバックス)”]

「どんなに素晴らしい研究成果をあげても、その発表がつまらなければ全てが台無しである」

世の中には星の数ほどのプレゼン指南書がありますが、理系向けでしかも良質な書籍というとあまり多く無いように感じます。この「理系のための口頭発表術」は、欧米で科学研究発表を行う学生向けに書かれた、プレゼン教科書の和訳版です。値段も880円と大変お手頃で、発表経験が浅い学生にとってうってつけの書物の一つです。

科学発表は「議論と理解を深めること」が至上目的であり、「競争に勝つ」ため行われるビジネスプレゼンとは異なる部分も多くあります。本書はそのような独特たるポイントについても多く言及しており、なかなか興味深い内容になっています。

安価ですし、是非ご自分で購入して読んでいただきたいですが、参考までにここでは「手っ取り早くプレゼンを改善させるポイント」を、本書から抜粋して紹介してみようと思います。

「口頭科学発表は、単なるノウハウや「こつ」ではなく、努力して習得する専門技能なのである。生まれつき素晴らしい発表のできる人間は、まずいない。」

要するにプレゼンとは話しの上手下手とは異なる次元の「技術」であり、誰でも学べば身につけられるもの、ということです。この思想は本書を通じて一貫しています。

欧米人だからといって、人前で話すことが誰しも得意なわけではありません。ある統計によれば「大勢の前で話すことは、死の恐怖よりも勝る」のだそうです。 欧米人のプレゼンが上手く見えるのは、教育と訓練の賜物でもあります。大変に励まされる一文ですね。

「発表者は聴衆に受け入れられるべし」「どんな人が聞きに来るのか、前もって調べておく」

聴衆の興味や理解レベルをリサーチしておき、それに合わせた話づくりをするというのは、プレゼンの大原則です。高校生にしゃべるのと、学会で専門家にしゃべるのとでは、全く構成が異なるのは当然です。周りにいるプレゼン巧者を眺めてみましょう。そのあたりの努力を怠っていることは無いはずです。

至極当たり前なことのようですが、下手なプレゼンをしている人は「他人のことを全く考えていない話作り」をしていることに気づいていません。もっと端的に言えば「ひとりよがり」なのです。プレゼンは伝わらないと意味が無いはずなのに、です。

「あらゆる発表者は準備に取り掛かる前に、その内容を2つか3つの文章にまとめることができなければならない」
「お持ち帰りメッセージを用意する」

伝わらないプレゼンにありがちな特徴の一つに「詰め込みすぎ」が挙げられると思います。
特に若いうちは時間を使って勉強したこと、努力したいことを披露したい気持ちが勝ってしまい、どうしても詰め込みがちになるように見受けられます。
意思決定の際に影響力の大きな人ほど忙しく、ちゃんとした話を聞いている時間がないというのは現実です。ビジネスの世界には「エレベーター・ピッチ」という言葉があるほどです。

学会発表の場合はそこまで極端でないにしろ、袖摺り会う程度の人にも伝わるよう、ストーリー(研究成果)を簡潔にまとめて表現できる技能はあるに越したことはありません。

極端な言い方をするなら、「この3つだけ理解してもらえれば、あとは寝てていいですよ」と言えるポイントを予め選別しておくことです。これが本書で述べるところの「お持ち帰りメッセージ」といえるでしょう。そこが自分で分からないままに発表しているとすれば、そもそものプレゼンを練りなおす必要があると考えるべきです。

プレゼン「3分割」の法則:「これから何を話すのか(導入)」→「内容を話す(本題)」→「何を話したのか(結論)」

これこそがプレゼンのロジックを構成する基本パターンであり、優れたプレゼンを生みだすための王道といえます。全体を通してこうなっていることは勿論、部分部分でデータを述べる際にも、同じ下部構成を使うことができます。

すなわち「仮説」→「実験事実」→「解釈」という発表の流れは、実はそのまま「3分割法則」に対応しているわけです。プレゼン経験が浅い人は、そもそもこの構成が徹底できていないことが多いようです。

「発表は常に、重要な一般原理の説明から始め、それから徐々に話そうとしている実験モデルへと焦点を絞っていく」

日本人のプレゼンが上手くないと言われるのは、英語も理由なのでしょうが、「腹芸」の文化―すなわち多くを語らず、空気を察して意図を読み取ることを美徳とする文化に慣れきっていることも一因であるように思われます。もちろん文化背景の異なる「世界」を相手にする場合、相手方はそんなの分かっちゃくれません。

「科学という広大な世界地図のどこに自分の話が位置しているのか」を語らずして、相手の理解は得られないわけです。典型的には、「大きな背景(=一般原理)を語り、そこから細かい自分の話へとガイドしていく」方式こそが王道です。本書ではこれを「ズーム・イン」と表現しています。

「リハーサルは大変重要、毎回新たな気持で準備」
「締切ぎりぎりの準備では、その場しのぎにはなるだろうが、記憶に残る発表にはまずならない」

年を経て結果も溜まってくると、違った会場で同じ話を何度も話す機会に恵まれます。もちろん話すたびに聴衆の性質は違います。プレゼンに慣れを感じつつある身でも、話し終わった後に「あぁ、失敗したな~」と感じてしまうことが度々あります。

入念な準備とリハーサルをしてもそうなるのですから、準備不足なプレゼンが素晴らしいものになるはずもありません。どんなに時間がないときでも、最低3回は声に出してリハーサルすることが必要だと思えます。

以上はごくごく基本的なことで、あえて取り上げるまでもないこととすら思えます。しかし徹底できてない人が現実には少なくなく、聞くに堪えないプレゼンも多く存在しているわけです。逆に言えば、こういったことを身につけさえすればプレゼンは決定的に改善される―少なくとも悪いものではなくなるはずなのです。

小手先のテクニックよりも、基本原則と正しい取り組み姿勢を学ぶことが何より重要と教えてくれる良書です。

 

外部リンク

 

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. コラボリー/Groups(グループ):サイエンスミートアップを支…
  2. 研究室での英語【Part 2】
  3. 元素生活 完全版
  4. 光分解性シアニン色素をADCのリンカーに組み込む
  5. ポンコツ博士の海外奮闘録 〜ポスドク失職・海外オファー編〜
  6. 学生・ポスドクの方、ちょっとアメリカ旅行しませんか?:SciFi…
  7. 【技術者・事業担当者向け】 マイクロ波による化学プロセス革新 〜…
  8. 「ヨーロッパで修士号と博士号を取得する」 ―ETH Zürich…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第76回―「化学を広める雑誌編集者として」Neil Withers博士
  2. 製造業の研究開発、生産現場におけるDX×ノーコード
  3. 酸素を使った触媒的Dess–Martin型酸化
  4. オートファジーの化学的誘起で有害物質除去を行う新戦略「AUTAC」
  5. 【7月開催】第十回 マツモトファインケミカル技術セミナー   オルガチックスによるPFAS(有機フッ素化合物)代替技術の可能性
  6. アセトアミノフェン Acetaminophen
  7. 第96回日本化学会付設展示会ケムステキャンペーン!Part I
  8. フッ素ドープ酸化スズ (FTO)
  9. 兵庫で3人が農薬中毒 中国産ギョーザ食べる
  10. アメリカ化学留学 ”実践編 ー英会話の勉強ー”!

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2011年11月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP